『カクナリ!7』~邦楽ネタ「ALL NIGHT FUKUSHIMA」選曲解説(というほどでもない何か)

どうも、野口です。

『カクナリ!7』が無事に皆様のお手元に届き始めたようで、かるこえ編集長はじめ執筆者ならびに関係者の皆様のご尽力に今一度お礼申し上げます。

私はといえばこの荒れ狂う世相の中転勤となりまして丸3年過ごした札幌から横浜へ引っ越してきました。が、いきなりの激務(決算進行)で心身ともに砕け散ってます。

ということで勝手に『カクナリ!7』スピンオフ、執筆時の事件と選曲解説といきましょう。

はじめに~『カクナリ!7』参加にあたっての工夫、傾向と対策(?)

今回も何も考えずに手を上げてからネタをひねり出すというスタンスは変わらず、しかも私の場合「どうやったって将棋と絡まんやろ」という内容をこじつけてミックスするものですから毎度のことながら大変です。(『6』の時は〆切3週間前でやっと内容が揃って書きだす状態だった記憶)

流石に反省しまして、前回個人的事情もあり消化不良気味だった音楽ネタ・ラジオ番組風でリベンジ、今回は邦楽じゃと早めに腹をくくりました。加えてそもそも文量を吐き出すのに苦戦したので、頭から一連で書かず、お便りごと・曲ごとに400字程度のブロックをまず書き、あとから順序を決めて繋ぐという方式を採用しました。が、実はこれが良くも悪くも裏目に出ることになります。

あと、これまでは初めからPCで執筆してましたが、今回は最初の下書きをすべて原稿用紙手書きで行いました。実は執筆開始した3月下旬にオーバーワークと不眠症でダウンし、10日ばかり京都の実家にPCを持たずに帰っていました。仕事のことを頭から消し去るには書くしか無かろうと、丸善京都本店でB5版200字詰の原稿用紙を買い、木屋町のバーやらイノダコーヒやらでガリガリやって出来たのが今回の得体の知れない何かというわけです。

誤算~あれ、おかしいですね、収まりませんね

京都滞在中に1曲分以外おおかた出来上がり、帰ってきていよいよ実際の原稿サイズに落とし込み始めるとおかしなことに気づきました。

あれ、多くねえか。

A4判、2段/ページ、全2ページで大体2,000字ちょろっと。400字弱が5ブロックだから入るはずという算段でしたが全然溢れる溢れる。で、すぐ気づきました。

あ、つなぎ目勘定に入れてねえや。

バカです、この人。ラジオ風なんだからお便りの間が多少なりともあるわけです。こうなっては仕方ないのですが、まだ手を付けてない1曲分が丸々あります。もはや多少削ったところでどうにかなるレベルではありません。さて、参ったというところで目に入ったのが編集長のツイート

待ってましたとこれに飛びつきまして

笑ってる場合か。で、色々ご調整を頂きまして無事1ページ増やして頂いたのですが、副産物で掲載順が変わりました。

尻から2番目。「え、こんなクセの強いのがトリ前でいいんですか、編集長」と、思いつつも背に腹は代えられません。前回は前回で頭から2番目でしたので同じようなものです。

兎も角、丸々1ページ分の増えた機会を存分に活用しまして、無理な調整をせずのびのび書きまして、何と、遅筆の私が、6月初旬に堂々の脱稿という奇跡を起こしました(/・ω・)/

※以下、音楽的な話は素人が直感的に書いてますので適当に流して読んで頂ければ幸いです。あくまで雰囲気重視です。

1曲目 - No.1

R.N. 正統派チョコレー党
No.1 / 槇原 敬之 (1993)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/3487/

高槻への関西将棋会館移転のネタからスタートです。個人的に高槻と言えば明治の巨大板チョコ看板、ということでラジオネームもチョコレートです。東京の将棋会館移転と合わせて、これからの時代にマッチした最高の対局環境と普及の拠点が出来上がることを願って止みません。

曲は高槻が生んだ天才メロディーメーカーの一曲です。映画「俺物語」の主題歌にもなりました。中学2年生で初めて関西を訪れた時、関西国際空港から京都へ向かうJR特急の車窓からあの巨大な板チョコが見えた感動を今もはっきり覚えています。当時の僕にとっての「西」の象徴はまさにあの看板でした。全体通してポップで明るい曲調ですが、歌い出しがマイナーだったり、歌詞の登場人物の微妙な距離感と雰囲気も相まってどこか影のある印象を覚えます。あと基本キーが高いのとメロディーラインに結構癖があります。大サビの半音転調とか無理ですよ。生で聴いたことありますが「え、普通に出ちゃうんだ...」と思いました。

この曲ともう1曲だけ狙い撃ちで今回の原稿を書き始めました。

2曲目~長崎小夜曲(ナガサキ・シティ・セレナーデ)

R.N. 沼落ちフリースタイル日本選手権四位
長崎小夜曲(ナガサキ・シティ・セレナーデ) / さだまさし (1982)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/38419/

ABEMAトーナメントの各チームツイッターアカウントのお話から深浦康市九段・佐々木大地五段師弟のツイートの話題へ。この師弟は本当に熱い勝負師タイプでグッとくるんですが、ツイートがかわいらしいというか愛嬌あるというかギャップが多くのファンに刺さっているところだと思います。

選曲はお二人の故郷・長崎のスター、さだまさしさんの軽快な一曲から。アコースティックな印象の強いさださんですが、初期からこの曲や「胡桃の日」ようなポップ、ロックチューンの名曲を多数世に送りだしています。そして詞から漂う黄昏時の雰囲気が素敵です。そのまま小説の一節になりそうな情景と街の空気感の描写はまさしく「さだ文学」です。1番サビ前の詞みたいな一節がさらっと出て来ると気持ちがいいんだろうなあ、と遅筆の私には到底無理なことを思ったりします。ちなみにこの曲のシングル盤、B面も歴史に残る名曲です。そうです「北の国から〜遥かなる大地より〜」です。

候補曲は他に内山田洋とクールファイブ「長崎は今日も雨だった」、福山雅治「明日の☆SHOW」でした。「長崎は今日も雨だった」は福山さんのカバーver.が頭にあったので、詰まるところさださんとの2択でした。

3曲目~無表情

R.N. 未来の世界の脇息形ロボット
無表情 / 乃木坂46 (からあげ姉妹、松村沙友里・生田絵梨花) (2015)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/190379/

ラジオネームは何となく思いついただけで意味はありません、多分その時酔っ払ってました。無表情→ポーカーフェイス→動きが少ないみたいな流れで何とか1994年のNHK杯決勝に触れたかったという無理のあるパートです。米長-中原戦のあの風格がたまりません。動きが少ないという所では地蔵流・南芳一九段にも触れたかったのですが上手くいきませんでした。叡王戦がタイトル戦となって最初の九段予選、森内-南戦だったかと思いますが、動く南九段を初めて見た将棋ファンから「本当に動かない!」と特殊な感動が生まれた瞬間が印象深いです。

取り上げた対局とは打って変わって選曲は今をときめくアイドルの一曲。2015年リリース・乃木坂46「太陽ノック」のカップリング、生田絵梨花さん&松村沙友理さんのグループ内デュオ・からあげ姉妹の「無表情」です。実はネタ曲的にギターのレパートリーの1曲でしたが、松村さんの卒業発表もあり今回選曲しました。どストレートなポップスの進行とリズム、何よりサビで鳴り響くチューブラーベル(いわゆる「のど自慢の鐘」)の音がツボです。現代アイドル曲、特に乃木坂46楽曲では「ウォール・オブ・サウンド」傾向が強いと勝手に思っていますが、中でもこの曲は典型的というか古典的な高密度サウンドのように感じます。他の坂道Gでは、櫻坂46(欅坂46)の曲はもう少々アコースティックなアプローチ、日向坂46ではEDMテイストが入る、間隙を突いて流れるサウンドにニュアンスの違いがあるようなイメージでしょうか。

4曲目~失われし平和な春の日よ

R.N. 私は天カメになりたい
失われし平和な春の日よ / 打首獄門同好会 (2019)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/168582/

ラジオネームは1曲前と同じノリです。意味はありませんが、お便りの内容は切実です。京都での執筆中、猛烈に天気が良く花粉が飛び放題、おまけに黄砂もぶつかってアレルギー・花粉症一家の野口家は地獄の様相を呈しておりました。美しい桜が涙でにじむ(物理) 本当に棋士の先生方はどういう対策をしているのでしょうか。ちなみに私はスギ、ヒノキ、シラカバ、カルガヤ・カモガヤ、ブタクサ、イネ科一式ともうフルコースです、1年の半分以上はくしゃみしてます。

選曲は一次産業系ロックバンド(?)・打首獄門同好会の一曲。リーダーの大澤会長もひどい花粉症だそうで。「水曜どうでしょう」関連でこのバンドを知ったのですが、たぶん普通の曲を作るよりこういう生活密着型(?)な曲を、しかもメタルチューンで作る方が難しいのではないかと思ったり。テーマが身近過ぎるとかえって扱いにくかったりするんですよねえ。ちょっと離れた知らない街のことの方が想像しやすいと言いますか。譜面があったら見てみたいのは「88」ですね。ひたすら四国八十八か所霊場の寺名を並べているので圧倒されるんですが、メロディーどうなってるんでしょうか。

5曲目~やっぱ好きやねん

R.N. 呑む将入門中
やっぱ好きやねん / やしきたかじん (1986)

(公式の音源がないのよ)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/4577/

『6』で矢倉の話を書いたので、今度は振り飛車党のお話を、ということでちょっとクサいレベルで関西の風味をちりばめたパートになりました。開高健はどこかで挟もうと思ってましたが、そのまま過ぎてちょっと芸がない引用かなと反省です。ちょうどこれを書いてた時期に「壽屋宣伝部」関連の本を結構読んでたもので引っ張られてますね。そしてこれまた偶然でサントリー食品インターナショナルがスポンサードする新棋戦が生まれることになりました。大変な時代にありがたいことです。

選曲ですが京都在住時代に通っていた呑み屋のマスターの十八番です。自分でも弾き語りで歌ったことがあります。トークと歌声で声色が全く異なるタイプのボーカリストの分かりやすい例かもしれませんね。そしてこの曲に限らずですが結構音域が広く、サビで油断するとギリギリ出ないというような、メロウなムードに反してかなり緊張感を要する印象があります。こういう雰囲気ある曲を上手い下手ではなく、さらっと嫌味なく歌えるような年の取り方をしたいものです。

あいみょん「君はロックを聴かない」も候補曲でした。「君は穴熊なんか組まない」と思いながら藤井システムで男の左美濃をつぶす女子の話にしようとしばらく頑張りましたが無理でした()

6曲目~秒針を噛む

R.N. 妻よ、秒読みで起こすのはやめてくれ
秒針を噛む / ずっと真夜中でいいのに。 (2018)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/268870/

「長考派は秒読みに強い」という話を書きたかった、ただそれだけです。手が見えるし、読めるから考えられるんですよね。

ずっと真夜中でいいのに。はたまたまYouTubeで見かけて独特な緊張感漂うサウンドに惹かれました。部分部分のコードワークはドラマチックコードや「丸サ進行」(及び派生形)だったりとポップス・ロック・エモ系の王道と言えば王道なんですが、曲の展開が細かいですね。1番Bメロとサビの間にあるブレイクが2番には無い一方、2番AメロのあとにB'メロ(?)が入っていたり、Cメロをベースソロとギターソロで挟んでいたりと、全体のスピード感に相反して揺らぎというか、浮遊感漂う構成のように思います。あとキーが高い。ボカロの登場以降、曲の構造そしてボーカルの音域も「自由」になったといいましょうか、ハイトーン傾向が強くなったような気もします。技術の進歩に人間が引っ張られるという傾向は実際には今に始まったことではなく、YMO「TECHNOPOLIS」でも当初打ち込みだった高速リフを坂本龍一さんの「根性」の手弾きに差し替えたという逸話もあり、テクノロジーが人間の「創造力」への挑戦を喚起させ、新たな魅力を生み出すという側面は間違いなくあると思います。

7曲目~君は天然色

R.N. ふたりでお茶を
君は天然色 / 大滝 詠一 (1981)

(歌詞) https://www.uta-net.com/song/1580/

最初から決まっていたのは「No.1」とこの「君は天然色」でした。桐山清澄九段の現役続行の報に触れて、今なお最先端の戦形に挑み続ける研究姿勢と、発表から40年経ってなお現代のアーティストに影響を与え続ける楽曲という結び付きにしました。調べましたら1981年に桐山八段(当時)が名人戦に初挑戦していらっしゃいました。元よりひねり飛車や横歩取りのような盤上全面展開する将棋の名手と知られていらっしゃいますから、現代の盤面広くバランスを取る複雑な序盤でも、ただ最新型を真似しただけではない仕立ての良さを漂わせているように思います。凄腕の巨匠テーラーが若い前衛デザイナーと組んだオートクチュールのような、超モダンなんだけど一本太い芯が通っているような落ち着きといいましょうか、迫力を感じます。

「A LONG VACATION」発売から40年、「Pen」で特集が組まれたというのもありますが、今回の選曲で大きかったのはフィル・スペクターの逝去でしょうか。「ウォール・オブ・サウンド」生みの親、ビートルズ最後のプロデューサー、毀誉褒貶の激しい人物ではありましたが、音楽界に与えた影響は永遠に語り継がれることでしょう。日本におけるスペクターサウンドの第1継承者といえば、やはり大滝詠一さんです。私もそこまで詳しいわけではないのですが、母が大ファンだったもので子供の頃からよく聴いていました。今回の選曲はやはり「A LONG VACATION」からということで、メロディーもサウンドもアレンジも、そして松本隆さんの詞も、将棋でいうところの「指がしなり」まくっているこの曲決め打ちでした。「恋するカレン」と「さらばシベリア鉄道」も好きです。

まとめ~見事に年代が偏りました

全7曲取り上げましたが、80年代3曲、90年代1曲、2000年代が無く、2010年代が3曲とエラい偏りになりました。90年代はサザンオールスターズとかMr.Children、2000年代は椎名林檎・東京事変とかSuperflyとかネタは色々あるんですよ、ネタは。ただマッキーとかサザンが特にそうなんですが好きすぎてマニアックになり過ぎるんですよね(実は触れた候補曲以外にも丸々ボツにしたネタが数曲あります) 次の機会まで取っておくことにします(また音楽ネタやる気か?) 次に音楽ネタを書く時には映画・ドラマ主題歌に絞るとかもうちょっとひねる感じにすると思います。

では、またいつか。

Ryohei Noguchi

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