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Book review 「Matter」 Aleix Plademunt


Book Infomation

タイトル: Matter
作者: Aleix Plademunt (Spain)
出版社: Ca l'Isidret Edicions, Spector Books, 2022
出版年: 2022
サイズ: 310 x 227 x 51 mm
ページ数: 640ページ
ISBN: 978-3-95905-575-8

 スペイン出身の写真家、Aleix Plademunts氏の最新作「Matter」が、Ca l'Isidret Edicions(ESP)とSpector Books(ENG)から2022年に刊行される。同書は、物質についての広範な作品を展開する彼が、約10年にわたって制作し続けてきたプロジェクトであり、物質と時間の両方が意識されたシークエンスが並べられた640ページの巨大なアートブックとなっている。写真とテキストの配置を実験的に操作し、存在するもののイメージを複製する手法を採用する彼の作品は、多くの鑑賞者に興味深く観察される。同書は、物質に関する疑問と、彼がそれをどのように写真で表現するかを探求したプロジェクトであり、存在に関する古くからの疑問を分析することにより、私たちの原点を追求するとともに、世界に向き合い、再認識する機会となる。

 Aleix Plademuntsの経歴には、2013年にMACK BOOKSが主催する「First Book Award」のファイナリストに選ばれている。彼の過去のプロジェクトも振り返ると、一貫してすべての写真とタイポグラフィの要素は十分に検討されており、安定しつつも強力な配置がされている。

 彼は2013年以降「Matter」という大規模なプロジェクトを制作し続けている。一つの節目として、約 10 年の間取り組みが行われたプロジェクトは展示とアートブックとして形となった。「Matter(マター)」という用語の語源は、ラテン語で母を意味する「mater(マーテル)」に由来する。「Matter」とは全てのものを構成する物質を指し、英語では、緊急性や重要性、つまり何か心配事があることを表す言葉でもある。「Matter」プロジェクトは、存在に関する古くからの疑問を分析しており、 それは私たちの原点を追求するためのものである。

 物質は小さな粒子で構成されており、それ自体では不活性で、再生することはなく、運動(機能)することもない。小さな粒子が連動することによって活性化するように、この本も個々のイメージが連動し、大きなイメージとなり現れる。加えて、そのイメージは、近代の物に対するイメージだけではなく、古代の物および土地などの存在したもの全てに対して扱っている。物質、場所、時代などの異なる観点から蓄積されたイメージたちは、隣り合ったイメージと分かりやすく、時には複雑に絡み合っている。そうしたイメージの連想は、立体的な広がりとなって頭の中にフィジカルなイメージを構築していく。写真は様々なアーティストによって撮られたものであり、地域の違いはもちろん、その視点の違いからリズムが生まれ、単体ではパワフルな写真達は、流動性を帯びて次々に形を変える。本をめくる行為が自分の経験となり、存在するイメージが蓄積されていくような感覚になる。

 また、物質という点についてもう少し考えると生物はそのライフサイクル中に、成長し、学習し、進化し、死ぬなど、多くの変化を経験するが、物質は常に残り、一定である。 それは最初から存在しており、将来にわたって長く存在することになる。一定である物質に対して、支配的行動を行い続けることが人類の進化を促進してきたのであろう。化合物を使い人工物を作成することで、自然の物質の模倣が可能となり人類の進化の元のプロセスを忘れてしまうほど現代は複雑になっている。この本に写っているのは世界の一部であるにも関わらず、複雑になりすぎたことを再認識させるには十分である。

 この本は、叙事詩的であると同時に繊細である美しい物理的な出版物になっている。何度も何度もそれを通り抜けたいと感じる作品であり、オブジェクトとしての物理的な厚みがあるこの本は手に持った際に、見た目の印象と裏腹に前後のページを軽やかに移動させてくれる。モノクロ写真とカラー写真の調和のとれた構成は緊張感を抱かせながらも、物質と時間の両方が意識されたシークエンスが隣り合ったイメージをつなぎ合わせてくれる。
 Aleix Plademuntsは、存在しているもののイメージを複製するように写真とテキストの配置を実験的に操作している。どのテーマにも一貫して、写真に内包されているイメージには余白が少ないと感じる。悪い意味ではなく、鑑賞者にテーマに関する多くのイメージを与え、その中で自分で考えるように語りかけられているように思う。写真を言語として扱い、文脈によって彼がリサーチしたこと、興味があること、実験的に操作していることを示している論文のようである。

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