Book review 「Puglia. Tra albe e tramonti」 Luigi Ghirri
Book Information
タイトル:Puglia. Tra albe e tramonti
作者:Luigi Ghirri (Italy)
出版社:MACK
出版年:2022
サイズ:225×255 mm
ページ数:288ページ
ISBN:978-1-913620-35-6
Luigi Ghirriって誰?
Luigi Ghirri (1943 – 1992)
イタリアのレッジョ・エミリア生まれ。1992年没。写真家、キュレーター、ライター、出版人として活動した。イタリアのカラー写真界に彗星の如く現れ、イタリアの写真芸術だけではなくコンセプチュアル・アートに多大な影響を及ぼしたパイオニアである。
1950-60年代にかけ経済成長と文化的転換の中で青年期を過ごし、芸術への造詣を深めたギッリは、当時最も盛んな芸術動向の一つであったコンセプチュアル・アートに通じ、単なる記録に留まらない写真イメージを求めたアーティストらとの共同作業から写真を始めた。職業的な写真スタジオへの所属や、アマチュアリスムに根を置く写真愛好とは異なる、ギッリの写真行為の端緒に関する実験的背景は、写真を通じて自身と外部世界との関係やそこに存在する複雑さ・不可解さに関心を寄せる姿勢を育み、既知と未知との狭間にいることを知る行為として、被写体に対する熟視という結果をもたらした。
「Puglia. Tra albe e tramonti」とは
「Puglia. Tra albe e tramonti」の魅力
本作品で使用している写真には、プーリア州で過ごす人たちが写っているものもあれば、誰もいない静けさが伝わるような街角の写真や、壁面に近寄って壁の素材によるざらつきがプーリア州の気候を感じさせるような写真がある。それら全ての写真がプーリア州の一部であり、その写真たちがプーリア州全体のイメージを膨らませてくる。本作品を通して、自分自身がプーリア州を歩き回って立ち止まって風景を見つめているような視覚的にも触覚的にも体感しているように思える。
ギッリには1973年から写真制作を本格的に始めるまでのキャリアに測量士があったことや、幼少期から地図を眺めては旅をしていた生い立ちがある。そのような土地に対する姿勢が、未だ見ぬ土地はもちろん、何度も訪れた土地であろうとも常に注視して、見落としてしまいそうな細かな変化すらもギッリは街として認識して見てきたのであろう。写真からは、ギッリが写真制作を通して考えてきた自身と外部世界のつながり、そこに存在する複雑さ・不可解さに関心があったことを感じられる。
大袈裟かもしれないが、本作品にはギッリが過ごした当時のプーリアの風景が今も続いているように感じる。ギッリは、「写真は外部世界とのつながりであり、開かれた窓である」と自書の写真講義(出版:みすず書房 訳者:菅野有美)で語っている。また、「写真とは世界のほんの一部分を見せるために残りを排除することなるものである」とも語っている。私たちが普段見ている外部世界は、自分が考えているよりもほんの一部なのかもしれない。主観的であるが、ギッリの写真は「よく見ること」そして「そこにあるものは何かの問いを持つこと」を教示されているような気分になる。
ギッリの根底にある「太陽の下に古いものはない」という哲学をなぞらい、再び自分の住む街を眺めてみようと思える作品である。