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変わりゆく縄文の文様

文様が変っていくことについて

 縄文土器には、いろいろな文様がついていると思いませんか?
 その文様を考える縄文人って、すごいデザインセンスって思いますよね。しかし、文様はどこに焦点を当てていたのかということで、その変化がわかるのです。大きくしたり、多くしたり、くっついたり、省略したりと変っていく文様。
 ここでは、東北地方を中心とした縄文時代後期末じょうもんじだいこうきまつようから縄文時代晩期中葉じょうもんじだいばんきちゅうようまでの文様の変化に焦点を当てて、縄文人の視点変化を紹介します。

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 三叉文の登場

 上の写真の土器は、縄文時代後期末葉、瘤付土器こぶつきどき第Ⅳ段階並行の土器です。口縁部こうえんぶ突起とっきには三角形をした「三叉文さんさもん」、胴上部に「入組文いりくみもん」、胴半ばに「メガネ状突帯じょうとったい」、胴下半にも入組文があります。
 土器の中に多くの文様が表現されています。三叉文、メガネ状突帯は立体的な文様でいい感じです。
 そして、よく見ると入組文の段になっている部分にも、三叉文が表現されています。楕円だえん形の部分をはさんで向かい合うように三叉文があります。

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変化する三叉文、玉抱き三叉文

 上の土器は、縄文時代晩期ばんき初頭しょとうの土器です。胴部半ばのメガネ状突帯がなくなり、三叉文の線は浅くなりました。すごく流麗りゅうれいな文様ですが、すこし省略がされています。
 また、口縁部に、玉抱たまだ三叉文さんさもんという向かい合う三叉文の間に楕円の文様がほどこされます。

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省略される文様

 写真の土器は縄文時代晩期初頭の土器です。前述の土器と比べ、文様がだいぶ省略化しょうりゃくかしています。
 文様を施す場所を文様帯もんようたいと言います。前述の土器が口縁こうえん胴部上半どうぶじょうはん、胴部なかば、胴部下半かはんと4つの文様帯をもっていましたが、この写真の土器は、口縁部と胴部上半に省略されています。

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 集まる文様

 次の写真は、縄文時代晩期初頭の土器片です。
 口縁部に文様が集まってきます。玉抱き三叉文と平行線の弧線こせんの間に縄文をつけた帯縄文おびじょうもんという文様が施されます。
 胴部の文様が簡略化して、しかも、口縁部へとまとまって施されます。文様帯が口縁部のみとなります。

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入組三叉文の登場

 縄文時代晩期前葉の土器です。
 口縁部には、玉抱き三叉文の玉部分が省略された入組三叉文いりくみさんさもんが施されます。向かい合う三叉文の上端と下端の線が交差して、省略された楕円形部分を表現しているかのようです。

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いろいろな入組三叉文

 縄文時代晩期前葉の土器です。
 口縁部には、入組三叉文が施されます。上下2段になっています。一組ごとの入組三叉文の間隔がせまくなります。

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 縄文時代晩期前葉の土器です。
 上記の入組三叉文よりさらに間がつまります。三叉文は( 弧線状の部分とななめ線状の部分から構成されますが、写真の土器は、/部分の空いたスペースに弧線が描かれるようになります。
 だんだん簡略化された三叉文が、複数で構成されていき、複雑化していきます。

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 羊歯状文の登場

 縄文時代晩期前葉の土器です。
 羊歯状文しだじょうもんが登場します。口縁部文様帯の幅がせばまることと、入組三叉文の装飾そうしょくが増えることがあわさることでできあがった文様です。
 入組三叉文が変化して、S字えすじをななめに引きのばしたような平行沈線文へいこうちんせんもんになります。この平行沈線文同士の端が組み合わされるように文様がえがかれます。また組み合わさった平行沈線文の余白よはく部分にきざみ列を施すという構図こうずをしている文様のことを羊歯状文と呼んでいます。なんとなくシダの葉のように見えることからのネーミングです。

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 変わっていく羊歯状文

 縄文時代晩期前葉の土器です。
 文様を描く人のセンスもあるかもですが、線がのっぺりとして、簡略化されています。

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 縄文時代晩期前葉の土器です。
 この写真の土器は、文様帯幅がせまくなり、直線化の傾向が認められます。平行沈線文になっていく過程です。

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平行沈線文間の刻み列

 縄文時代晩期中葉の土器です。
 羊歯状文から平行沈線文へと変化しました。
 羊歯状文の痕跡は、平行沈線文間に施される刻み列が一定間隔で広くなる場所があることです。羊歯状文で見られた「からみあう平行沈線文」部分が直線化して、このような表現に変化しました。

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 縄文時代晩期中葉の土器です。
 写真の土器は、平行沈線文の間に刻み列が施される文様です。羊歯状文が直線化し、消滅したかのようです。刻み列がわずかにその痕跡をとどめています。

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縄文時代晩期中葉の深鉢

 おわりに

 縄文時代後期末葉から晩期中葉までの文様の変化を追ってきました。入組文の段部分の線を強調することで登場した三叉文が、胴部文様帯から口縁部文様帯へ移り、玉抱き三叉文へと変わります。玉抱き三叉文は、玉部分が省略され、入組三叉文となります。入組三叉文は余白部分に弧線などが加えられ複雑化します。この複雑化は、口縁部文様帯幅の縮小化に伴い、直線化していきます。この変化により登場するのが、羊歯状文です。この羊歯状文も直線化していき、平行沈線文間の刻み列へと変化していきます。
 最終的には、工字文、変形工字文へと変化し、弥生時代の文様へと変っていきます。
 文様は、さまざまな形に変っていきました。しかし、文様の着眼点が変化して描かれているだけで、文様の本質、つまり、縄文人が土器に表現した文様の意味合いは変化していないのではないでしょうか。
 今回取り上げた文様は、東北地方中心となるものなので、もっともっと昔の東北地方の土器文様までさかのぼれるのかもしれません。それとも途中で、関東地方や北陸地方との接触から文様の意味が組み合わされているかもしれません。そして、関東地方は、信州、東海と、北陸地方は信州、飛騨、近畿との接触で文様の意味が組み合わされているのでしょう。
 このような状況なので、ひとつの土器文様からその意味を知ろうとするのは非常に難しいことが分かります。また、悠久のような時間の流れの中でつちかわれた縄文土器文様は、その時その時の人々の創造性を刺激して、作り出した縄文人そのものなのでしょう。

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