【縄文人の大人のお墓】ゾク・元屋敷遺跡のお墓～配石墓・配石土坑～

2022年2月20日 15:08

はじめに

　縄文時代後こう・晩期ばんき（約4,000～3,000年前）の遺跡である元屋敷もとやしき遺跡いせき。長期間にわたり縄文人が住み続けました。子供のお墓はかである埋設まいせい土器どきとは別に、大人用のお墓と考えられる遺構いこうが見つかっています。配石はいせき墓ぼ、配石はいせき土坑どこうと言われる遺構です。

　縄文人にもお墓がある。では、縄文人は何歳なんさいくらいまで生きていたのでしょうか。

　縄文人の多くは幼おさなくして亡なくなります。縄文人の骨ほねの研究けんきゅう（小林和正1967年「出土人骨による日本縄文時代人の寿命の推定」『人口問題研究第102号』）から、15歳以上生きている縄文人は、そこから15年以上生き続けられると推測されています。30歳以上になるまでは生きられる計算になります。現在、65歳以上と推定すいていされる縄文人骨じんこつもあり、15歳まで生きた縄文人の約30％は65歳以上まで生きていたと考えられています（長岡朋人2010年「縄文時代人骨の古人口学的研究」『考古学ジャーナル第606号』）。
　縄文人65歳以上30％という数字には、15歳まで生きれなかった縄文人は含ふくまれていません。なので、縄文時代を生きた人たちの中で65歳以上生きられるというのは数字的には、そう多くないと考えられます。
　あくまで大雑把おおざっぱにですが、縄文人が同じ年に10人生まれた場合、15歳までに７名は死亡しぼうし、３名になり、30歳までに１人死亡し、２人になり、65歳までに１人死亡し、１人になるといったイメージです。

　縄文人にとって死は身近なできごとであったことでしょう。しかも、事故や病気で突然なくなる人が大半で、老衰ろうすいする人は珍めずらしかったことでしょう。縄文人にとって死は突然に、理不尽りふじんに襲おそいかかる恐おそろしいものであったことでしょう。残された人々は得体えたいのしれない死というものにどのように向き合ったのでしょうか。

お別れの儀式を

　昨日まで元気であったかと思った人が今朝には亡くなっていた。このような喪失感そうしつかんに縄文人はどのように向き合ったのでしょうか。
　縄文人がどのように死別しべつをのり越えていったのかということは、わかりません。しかし、手がかりはあります。縄文人はお墓を作っていました。
　以下、細かい分類などを紹介するので、目次の「元屋敷遺跡の配石墓から分かること」から読んでいただいた方が、読みやすいかもです。
　では、元屋敷遺跡の配石墓を紹介します。

縄文人のお墓

　元屋敷遺跡から検出けんしゅつされた縄文人のお墓は、配石墓はいせきぼ・配石土坑はいせきどこう、土坑墓どこうぼがあります。配石墓・配石土坑は99基き、土坑墓は65基が検出されました。
　配石墓・配石土坑は、遺跡を南北に分ける人工的に掘ほられた流路りゅうろの東側に集中しゅうちゅうしていました。この場所は、お墓の他に、配石遺構という石を組み合わせた遺構が検出されています。
　配石墓・配石土坑は儀式などをするエリアに造られていました。
　以下、配石墓、配石土坑について説明していきます。

配石墓・配石土坑

　元屋敷遺跡の配石墓・配石土坑は、以下のような基準きじゅんから判断はんだんされました。

墓標ぼひょうのような配石はいせきが上部にあり、下部は、縁石えんせき（棺状ひつぎじょうの組石くみいし）があるもの、または土坑どこうになっているもの

　そして、当てはまるものをさらに分類ぶんるいしました。

長さと幅はばの比率ひりつから
Ａ類＝長さと幅が５：４以下になる長楕円ちょうだえんのもの
Ｂ類＝長さと幅が５：４以上になるほぼ円形のもの

さらに、石の配置はいちにより分類しました。

１類＝蓋石ふたいしのみのもの
２類＝蓋石と縁石えんせきがあるもの
３類＝縁石のみのもの
４類＝穴を掘ほった際さいに出てきた石を縁石にしている可能性のあるもの
５類＝蓋石の中央に立石りっせきと推定すいていされる石があるもの

また、B2・B3類においても、A類との位置いち関係かんけいから

a類＝A類配石墓に隣接りんせつし、縁石を共有きょうゆうするもの
b類＝墓域ぼいきに単独たんどくで存在するもの

と分けられました。

以下がそのまとめです。

　上記の分類の結果から、99基の内訳として、A1類13基、A2類29基、A3類22基、A4類23基、Ａ5類4基、B1類1基、B2a類1基、B2b類1基、B3a類1基、B3b類1基、B4類2基、B5類1基となりました。

　分類の結果から、Ａ1～4類、B2a類、B3a類の89基を配石墓はいせきぼとし、上部じょうぶ構造こうぞうのみであるＡ5類、Ｂ1類、B2b類、B3b類、B4類、B5類の10基を配石土坑はいせきどこうとしました。

元屋敷遺跡における配石墓・配石土坑の特徴

　まずは、配石ということから、どのような石が配置されているかを説明します。

蓋石について

　蓋石ふたいしのタイプとして、Ａ1類では、50㎝ほどの平たいらな石と拳大こぶしだいの石をいくつか並ならべるもの、10㎝ほどの石をお墓全面に敷しきつめるもの、15㎝ほどの石を不規則ふきそくに並べるものがありました。
　Ａ2類では、平らな石と拳大の石を配置するもの、拳大～頭大あたまだいの石を不規則にならべるものがありました。
　蓋石ふたいしは、主に拳大以上の石を乱雑らんざつに並べておくようなお墓が多いのですが、中には、平らで大きな石を置おいたり、石を敷きつめたりするお墓もあります。お墓である目印めじるしだったのでしょう。

縁石について

　縁石えんせきのタイプとして、お墓側面そくめんに全周ぜんしゅうするものが6基、残りは、まばらに配置はいちするもの、長辺ちょうへん部分に配置するものがあります。お墓の穴の上部に配置するものがほとんどで、1基だけ穴の底面ていめんまで縁石を配置したものがありました。
　また、Ａ2類・Ａ3類では、50㎝ほどの平らな石1、2個を長辺部分に立てて配置するお墓が12基検出けんしゅつされました。

お墓の大きさ

　元屋敷遺跡の配石墓の大きさは、長さ約130㎝、幅約60㎝、深さ約24㎝です。A類だと、大きいものだと、長さ360㎝になるものありますが、長さ180㎝以上のお墓は少ないです。B類では、直径120㎝が最大で、直径約50㎝のものが多いです。

　お墓の大きさから埋葬者まいそうしゃがどのような姿勢しせいであったのかが推測すいそくできます。A類は膝ひざを曲まげた姿勢、Ｂ類は横向よこむきにして足、背中、首を丸まるめた姿勢（体育座たいいくずわりを横倒よこだおしにした感じ）ではないかと考えられます。
　また、掘りこみの深さが24㎝と浅いことから、お墓は地面より上に盛もり上あがった土どまんじゅうのようなものではなかったかと考えられます。

お墓の長軸方向について

　長楕円形ちょうだえんけいのお墓が多いことから長軸ちょうじくが向いている方向からお墓の規則性きそくせいがみてとれます。
　元屋敷遺跡における多くの配石墓は東南～北西方向に長軸が向いています。お墓が並んでいることから同じような方向に配石墓が造つくられているようです。ただ、元屋敷遺跡の縄文人にとって生死観せいしかんを表あらわすような方向であった可能性かのうせいもあります。太陽や月、星、または竪穴住居たてあなじゅうきょや配石遺構はいせきいこうとの位置関係いちかんけいなどに即そくして縄文人の感覚かんかくで考えられたお墓の配置であったのではないでしょうか。
　また、頭の位置として多くは西側に頭部があることが、お墓の副葬品などの出土位置から推測されています。はっきりと頭部位置が分かるものが少なく、東側にあるものもあることから、どのような規則ルールで縄文人が埋葬まいそう時の被葬者ひそうしゃの頭部の位置を決めていたのかは、はっきりとはしません。

お墓の中から見つかった遺物について

　配石墓内から見つかった遺物いぶつには、勾玉まがたまなどの玉類たまるい、赤色せきしょく漆塗うるしぬりの竪櫛たてぐしの欠片かけら、石剣せきけん、赤色土せきしょくどなどがありました。
　赤色土はベンガラの粉こなが混まじった土とただ見た目が赤い土の2タイプがあります。タイプによる違ちがいは見受みうけられず、縄文人にとっては、赤い色に意味があったのではないかと推測すいそくされます。
　赤色土は、お墓の中の底面、上から底まで、上面といった3タイプのまき方がありました。赤色土は、亡くなった縄文人を寝ねかす前にまいたり、寝かしてからまいたり、寝かす前後でまいたりしたということが分かります。亡くなった縄文人を弔とむらうために赤い土をまくという行為が行われていたと推測されます。
　また、玉類たまるいの出土したお墓からは、赤色土中から石鏃せきぞく、棒状ぼうじょう加工かこう礫れきが出土しました。赤色土は伴ともなわないのですが、玉類たまるいと土錘どすいが出土した例もありました。このほか、石剣せきけん、竪櫛たてぐしが出土していることから、亡くなった縄文人は盛装せいそうして埋葬まいそうされていて、故人こじんとの関係が深いものも一緒いっしょに埋葬されることもあるようです。

焼けた骨が埋まっていたお墓

　元屋敷遺跡の配石墓からは、焼やけた獣けものの骨や焼けた人骨じんこつが検出けんしゅつされました。焼けた獣骨がでた配石墓は１基、焼けた人骨がでた配石墓は２基でした。
　配石墓から出土した焼けた獣骨は、ツキノワグマ、カモシカ、ノウサギ、鳥類でした。副葬品ふくそうひんや儀式ぎしきとして亡くなった縄文人と共ともに埋うめられたようです。
　焼けた人骨は、380ｇ、58ｇと焼人骨やきじんこつの全体量ぜんたいりょう（成人男性せいじんだんせいの焼人骨の総量そうりょうは約2㎏、成人女性せいじんじょせいは約1.3㎏）に及およばず、小片しょうへんのため、はっきりとすべてが人骨と認みとめられない骨もありました。また、人骨と共に、ごくわずかに人以外の哺乳目ほにゅうもくの動物の骨が確認できました。
　検出けんしゅつできた獣骨も人骨も白くなっていることから、650℃以上の高い温度で長い時間かけて焼かれたことが考えられています。また、死後しご、完全に白骨化はっこつかしてしまう前、軟部なんぶ組織そしき（腱けんや筋肉きんにくなど）が残のこっている状態じょうたいで焼かれたことが確認されています。
　つまり、お墓から見つかる焼けた人骨の状況じょうきょうから分かることは、

焼けた人骨が出る配石墓は少ない。
墓内はかないで焼いたのではなく、別の場所で火葬かそうし、一部の骨をお墓に入れた。
焼けた人骨は、人体のすべてではない。
焼けた人骨は、白骨化する前である。
焼けた人骨は、650℃以上で長時間にわたり焼かれている。
焼けた人骨は、焼けた獣骨といっしょにでる場合もある。

以上がお墓から見つかった焼けた人骨の特徴でした。

元屋敷遺跡の配石墓から分かること

　元屋敷遺跡の配石墓の特徴をまとめていくと

長さ約130㎝、幅約60㎝、深さ約24㎝の長楕円形
大きい平らな石や拳大こぶしだいの石がお墓の上にならべられている
墓穴の縁を囲かこむように大小の石がならんでいる
北西方向側に頭があるお墓が多い
勾玉まがたまなどの玉類たまるい、竪櫛たてぐし、石剣せきけん、石器せっきといった副葬品ふくそうひんが一部のお墓で出土
赤い土を、お墓の底や埋める土として使っているお墓がある
一部のお墓からは、焼けた人骨が出土する
焼けた人骨は人体すべてではない

元屋敷のお墓

以上の点から元屋敷遺跡の配石墓はいせきぼを推測すいそくすると、

　配石墓は、元屋敷遺跡東側にまとまっていています。お墓の形は、長径ちょうけい130㎝の長楕円形ちょうだえんけいの土どまんじゅうで、穴の周まわりに石がならべられていています。
　勾玉まがたまなどの玉類たまるいや竪櫛たてぐしで縄文人の盛装せいそうしたご遺体いたいが、膝ひざを曲まげた姿すがたで埋葬まいそうされました。石器せっき、石製品せきせいひんが副葬品ふくそうひんで入れられたお墓もあります。また、赤色土せきしょくどを頭側にまいているお墓もあります。
　一部のお墓には焼けた人骨が埋葬されました。人体の一部分、頭や足の骨であり、また、火葬かそうした場所はお墓内でないことから、集落しゅうらくのどこかで火葬し、その骨の一部をお墓に埋葬したようです。
　焼けた動物の骨が出土するお墓もありました。狩猟しゅりょうした動物を火葬して亡くなった縄文人にお供そなえするという儀式があったのではないかと推測します。

最後に

　元屋敷遺跡の配石墓はいせきぼは、石で囲かこんだお墓でした。また、決まった場所に配石墓の墓地ぼちを作っていました。
　配石墓には、盛装せいそうした縄文人が埋葬まいそうされました。中には、儀式により火葬された縄文人もいました。
　これらのお墓、埋葬方法から、縄文人は、死を弔とむらうという考えがあったことが分かります。集団で協力して生きていくという中から、コミュニティー内の大切な仲間、家族、絆きずなを、縄文人は分かっていたのでしょう。
　現代人が行っているお葬式の原点のひとつには、縄文人のお墓があるのではないでしょうか。
　それぞれの人にタイムリミットである「死」があるからこそ、生きることを大切にできる。死が隣となり合あわせであった縄文人の残のこしてくれたお墓から我々現代人が生きることを考えていく材料になることを願います。

　元屋敷遺跡における、埋設まいせつ土器どきという墓制ぼせい、配石墓はいせきぼ・配石土坑はいせきどこうという墓制を紹介してきました。さらに、土坑墓どこうぼという墓制が確認かくにんされています。

次回、縄文の里・朝日note
元屋敷遺跡の土坑墓
君は、縄文ときの涙を見る。。。

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