元屋敷遺跡のお墓　～埋設土器～

2021年11月2日 13:07

　死ということを文化にしているのは、地球では人類だけです。
　縄文人じょうもんじんも死に対して特別な行おこないをしていたことが分かっています。それは、特別な場所をつくったり、墓地ぼちを定さだめたりといったことから推測されています。

　死に対する特別な行いとして、縄文人はお墓はかを作りました。
　縄文時代のお墓は、土坑墓どこうぼという遺体いたいを埋葬まいそうするための穴が主おもになります。しかし、縄文時代も後半になると文化が熟成じゅくせいし、埋葬の仕方も多様になります。
　ここでは、縄文時代後期（約4000年前）～晩期（約3000年前）の遺跡である奥三面遺跡群おくみおもていせきぐん元屋敷遺跡もとやしきいせきから検出されたお墓である埋設土器まいせつどきについて紹介していきます。

埋設土器とは

　埋設土器とは、屋外おくがいに土器を埋めておいたものです。

元や埋設土器報告6-1

元屋敷遺跡埋設土器の出土状況

　おもに深鉢形ふかばちがた土器が埋められていました。
　最近の発掘はっくつでは、福島県ふくしまけん川俣町かわまたまち前田まえだ遺跡44号土器埋設どきまいせつ遺構いこうから幼児の頭骨とうこつが検出されました。元屋敷遺跡の埋設土器も同じように幼児の棺ひつぎとして子供を土器の中に納おさめていたと考えられています。

埋設土器の特徴

元屋敷遺跡の埋設土器は出土状況から埋設態位まいせつたいい、欠損状態けっそんじょうたい、付随物ふずいぶつ、埋設方法まいせつほうほうといった観点かんてんから分類しました。

元や埋設土器模式図

埋設土器分類ぶんるい模式図もしきず（元屋敷遺跡Ⅱ報告書から）

元屋敷遺跡からは、埋設土器が206基きも検出けんしゅつされています。

上記の出土状況の特徴から
1. 深鉢形土器が最も多く90％以上を占しめる。
2. 埋設態位まいせつたいいはA：正位せいいがほとんど。B：逆位ぎゃくいは1割以下。
3. 欠損なしで埋設されるものが70%。胴下半を欠損けっそんするものも24％ほどある。
4. 付随物ふずいぶつは、a：伴ともなわないものが50％ほど、c：石が伴うもの36％となっている。大型の平たいらな石を蓋石ふたいしとする例がある。
5.単独で埋設されるものが約90％である。その中で3割は近接きんせつして埋設されていた。特定の場所に埋設される傾向けいこうがある。
以上の点がわかりました。

つまり。。。

埋設土器は、
普段使ふだんづかいの深鉢を、
決まった場所に、
土器の口を上に向けて、
場合により平ひらたい石を土器の蓋ふたにして、
穴の中に埋めている。

ということです。

　埋設土器は、棺ひつぎにするためだけに作られたものではありません。普段から鍋なべとして使っていた深鉢ふかばちを埋めました。深鉢にオコゲやススがついていることから日常的な煮炊にたきの道具であることが分かります。
　また、子供は子供のお墓の場所、大人は大人のお墓の場所というように埋葬まいそうの仕方、場所が大人と子供では違いました。

元や埋設土器報告4-2

隣接する埋設土器（元屋敷遺跡報告書から）

元や埋設土器報告4-1

　平らな石を蓋ふたにしていた例がありました。丁寧ていねいな埋葬だと感じさせます。子を想う親心は、縄文時代から変わらないようです。

おわりに

　人間は、腕力わんりょく、爪つめ、牙きば、素早すばやさといった身体的しんたいてきな攻撃能力こうげきりょくは低いのですが、群むれでくらし、道具をつくり、集団で狩かりをするといった社会性の高い生き物です。縄文時代は、ひとりでは生きていくことが難しい時代でした。だからこそ、人と協力することで生きていたのでしょう。それは、子供であっても大切な仲間であったことが考えられます。
　なかなか子供が大切にされていたことは証明しょうめいしにくいのですが、埋設土器という子供のためのお墓があったということは、子供を縄文社会の一員として認めていた証あかしであると考えられています。

　それでは、なぜ子供の棺ひつぎに土器が使われていたのでしょうか。それも日常的に使っている深鉢を。
　おそらくは、
　深鉢形土器は煮炊にたきする道具であり、命をつなぐ、命をはぐくむ道具です。
　そして、子供も女性のおなかの中で命をさずかり、命をはぐくんで、生まれ出てきます。
　つまりは、　
　命をはぐくむ器うつわに納おさめて、また、母体ぼたいに帰ってきてくれることを祈いのっていたのではないかと想像します。

　縄文時代は、子供のお墓や食料事情しょくりょうじじょう・医療状況いりょうじょうきょう・民俗例みんぞくれい・民族例みんぞくれいといったことから0歳までで亡なくなっている子供が全体の1/3ほどであったのではと推測されています。
　縄文人は、子供が亡くなったことを悼いたむ気持ちに対して、埋設土器を使った子供のお墓という形で表現していたのでしょう。