マーダー・オブ・ミュージック

「鬼頭警部……これは……」

青木の顔が引きつっている。なんと言っていいか分からない、そういう顔だ。
正直、俺もそうだ。もうすぐ定年になるほどに警察人生は長いが、こんなバカバカしく、そして猟奇的な事件は初めてだ。

目の前の被害者の口、裂けた腹、本来あるべきものが無い眼球、その至る所に【レモン】がぎっしりと詰まっている。ぐりぐりと、入るはずのないサイズの異物を無理矢理に埋め込まれている。

「警部……バカな事言っていいっすか」
「なんだ」
「先週荻窪で発見された焼死体、たしか“小麦粉を含んだ生地に包まれた状態”で発見されましたよね……もしかして」

【ドーナツ】だって言いたいのか」

青木の突拍子も無い見解が理解できた。俺も可能性が脳裏によぎっていたからだ。
「これ、見立て殺人ってやつなんじゃ」
あまりの馬鹿馬鹿しさに頭痛がしてくる。だが、この犯人は確実に狂人だ。

「じゃあよ、青木。【みんな】ってのは、なんなんだ?」


#逆噴射小説大賞 #逆噴射プラクティス

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