千年杉の下で

この杉は、小さな町を見下ろす丘の上に生えている。

近所の宮司の言うことには、千年前の記録には既にその存在が語られていると言う。
いつの頃からか、この杉は町に住む学生達の間で「2人きりで告白すると必ず結ばれる」なんていう噂が広まっていた。

今日もそうだった。
やって来たのは、男女2人。制服からして、中学3年生の男子と、中学1年生の女子だ。
おそらく、女子の方が先輩を連れてきたのだ。

青い精一杯の勇気に感心させられる。
やがて、先輩が小さく頷くと、女子は泣き出した。喜びの涙だった。
なんと美しい光景だろう。2人の未来に幸あれ、心からそう思った。

ぎこちなく手を繋ぎ、夕日に向かって歩いていく2人の姿を、私はじっと見ていた。

彼らがいなくなるまで、ただ、じっと。

そうやって私はじっと、何組もの真実の愛を、あるいは悪意を。じっと見続けてきた。

私がこの杉の上に住んでいる事は、誰も知らない。
私はただ、じっと見ているだけだ。



#逆噴射小説大賞 #逆噴射プラクティス

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