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穏やかな休日のはなし

平和だな...

池の周りに腰掛ける人を眺めながら、その言葉がふと浮かんできた。
平和という言葉には、忘れられない記憶がある。

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「どうしたら世界は平和になると思う?」

隣に歩く友人が、真剣な顔で問うてきた。

むかし学問の考え方をかじり出していた僕は、「政治学的にいえば各国のパワーバランスが均等だと平和になるかな」とか「経済学的にいうとお金が循環してる状態かな」なんて、ものすごく固いコメントをした。覚えたてのおもちゃを使いたくてうずうずしていたのかもしれない。

すると彼女はまた考え込みながら、「あなたにとって平和ってどういうこと?」と問うてきた。

純粋なその問いに、僕はかたまってしまった。自分の中に答えが浮かんでこないことを紛らわすために、必死で何か言葉を作り出したけれど、何を言ったかはまるで覚えていない。ただ、その問いかけが心を揺さぶったことをすごく覚えている。

僕は「自分の意見は持っている人」だと思っていた。人の意見は尊重するけど、自分の考えはしっかり持っている。

でも振り返ってみるとそれは、理論武装しただけの張りぼての考えだった。確かにそれも一つの意見とは言えるけれども、「自分がほんとうにそれを望んでいるか」という意味では、自分の意見は持ってなかったんだと思う。

世の中に絶対的な正解なんてなくて、人それぞれの考え方がある。
だから、それぞれの主張をお互いが認め合っていったら良いんじゃないか

そんな考え方の中に、肝心の自分はその対象に入っていなかった。

誰にも責められない振る舞いをしようと、理論武装はどんどん強化されていった。考えがない姿を、誰にも悟られないように。

けど今なら分かる。どれほど素朴な考えでも、思考を積み重ねた結果ではなくても、誰にでも「そうだね」って言ってもらえなくてもいい。

それぞれの考え方が違うからこそ、話せることもあるんだから。

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池の周りでのんびりと過ごす人たちを見ながら、「これは平和だ」と感じられるようになった自分を少し褒めてやりたくなった。

また平和を感じたくなったら、この池に立ち寄ることにしよう。

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