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【Zatsu】眼鏡屋進化論

今日、ショッピングモールへ買い物に出かけたんです。連休初日ということでイベントもやっていたもんだから、家族連れも多くにぎわっていたんだ。

たびたび訪れているモール。わりと広くてテナントも豊富なんだけれど、人の生活スタイルって意外と限られているものだね、いつのまにか行く店が限定されてきて、こんなにたくさん店舗があるのに、実際に入ったことがある店はいくつもないことに気づいたんだ。

そこで今日は世界を広げようと思い、嫁とふたりで普段は立ち寄らないフロアとか、行ったことのない通路にあえて足を延ばしてウロウロしていたら、眼鏡屋が見えてきたんです。

眼鏡屋ってけっこう住み分けが進んでいて、金子眼鏡みたいな高級志向から、ZOFFやJINSのようなファッション系まで、コンセプトがはっきりしているところが多いじゃない? そんななか、目の前の眼鏡屋はその中間に位置していて、言い方は悪いけれどどっちつかずな印象なんだ。

でも、せっかく来たんだからちょっと覗いてみたのよ。おれは普段コンタクトなんだが、家では眼鏡をかけることもあるので、気に入ったフレームを探して店内を適当に回っていたんだ。すると、向こうで接客中の男性店員が視界に入った。おどろいたことに、その店員さん、眼鏡かけていない。眼鏡屋の店員って基本的に伊達でも眼鏡かけているもんだと思っていたから、あれ? いいのかな、と。

というのも、眼鏡をかけ慣れていないと、ノーズパッドの具合とか耳の痛さとか、そういう微妙な感覚がピンとこないから、お客さんとまともに話せないと思うんだよね。お客さんも、知識だけあって実感わかない店員さんには相談しずらいだろうし。

しかも、その店員の服装は落ち着いたスーツとは対極で、漫才師というかディナーショーというか、なんかキラキラしたジャケット姿。ちょっと小太りのその男は、口角を上げ「ニカッとした笑顔」とややオーバーなアクションでお客さんに売り込みをかけている。
グッチ裕三じゃん」嫁がつぶやく。
けっこう老舗のチェーン店なので、もっと地味なイメージがあったんだけれど、時代とともに客層が変わって、それにあわせて店員も変わってきた、といったところか。

高級店に行くこだわり客でもなく、かといってファッション系の若い子たちでもない。この店のメインターゲットは、TVで通販番組をやっていると思わず見入ってしまう中間層、といったところだろう。ならば、グッチ裕三を配置するのも納得である。

いろんな事情があるんだな。でも、接客するなら眼鏡はかけておいたほうがいいと思うけどね~。そう思いながら見渡すと、もうひとり男性店員が目に入った。

黄色いフレームの大きな丸いサングラス。ロングヘアにひたいのバンダナ、シャツの胸元は軽くはだけている。
なんでヒッピーがいるのよ」嫁がふたたびポツリ。
最初、まさか店員とは思わなかったが、胸のプレートが、まちがいなく店員であることを示していた。あまりに個性的で独特ないでたちはスーツですらない。
けっこう老舗のチェーン店なので、もっと地味なイメージがあったんだけれど、時代とともに客層が変わって、それにあわせて店員も変わってきた、といったところか。

60’s音楽へのあこがれと回帰、まだ見ぬ未来への嘱望。この鬱屈した世の中、政治の腐敗と権力への反発、カウンターカルチャーの象徴として眼鏡をとらえたとき、この令和の時代にヒッピースタイルの中間層が……いや、無理があるな。この店員はちょっと擁護できない。

結局、きょうは眼鏡を買うこともなく品揃えを見ただけで店を後にしたんだけれど、帰ってから今までずっと気になっているんだ。あの店員ふたりの姿が頭から離れない。
眼鏡が欲しいというよりも、あの店員に接客されて眼鏡を買わされたい、という屈折した欲望がとめどもなく湧いてくるんです。正直、眼鏡もどうでもいい。とにかく接客されたい。で、売りつけられて軽く後悔したい。

いまのところ眼鏡を買う予定はないんだけれど、この店はあまりお客さんも入っていなかったので、ちょっと危機感を抱いています。でもさぁ、結構なお値段するのよね。軽い後悔では済まない可能性もあり、そこが悩ましいんだよね。


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