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【Zatsu】イライラとゲラゲラの境界で

映画を観に行ったときのこと。

東欧のドキュメンタリー映画なので小さなシアターでしかやっていない。しかも平日の昼間。地味な作品で一緒にいってくれる人もおらず、ひとりでいったんだ。
座席指定がなく、けっこう早めに映画館に入ったこともあって、一番いい席(中央の後方寄り、通路側)に陣取り、開演を待っていたのよ。

時間の経過とともに、席もだんだん埋まってくる。そうしたら、場内が薄暗くなったころにオバチャン3人がドタバタと入ってきた。当然もう前のほうの席しか空いていないから、そこに座る。で、予告編とかが始まった。

その瞬間、彼女たちが「ザッ」って立ち上がったんだ。

座席が前すぎてスクリーンが見づらいことに気づいたんだね。でも、おれはその慌てふためく姿をぼんやり眺めながら余裕だった。
何しろ一番いい席に陣取っているわけだから。
隣の席にバッグとコートを置きながらぼんやり本編のスタートを待っていると、オバチャンズは互いに何やら相談している。

「やれやれ、いまさら遅いぜ」

おれが心のなかで嘲笑わらっていると3人は、ずかずかとこちらに歩いてきた。そして、こう言ったんだ。

「となり、空いてるわよね?」


確かに……空いているといえば空いている。バッグとコートを置いているだけだし。よく見ると、その先ふたつの席も空いていた。でも――。

おれがあっけにとられていると、
「はい、すいません、すいません」
ガシガシひざをぶつけながら前を横切り、となりに座りやがった。

おれの座っている一番いい席の隣に!

「コレ(おれの荷物)そっちにいいかしら、ありがと」


そのあとは、映画が終わるまで地獄よ。
とにかく笑うわ、しゃべるわ。
そこまで笑う映画じゃないんだよ。深刻な環境問題の話なんだから。

なにしろ、犬が出てきただけでゲラゲラ笑ってやがる。犬だぞ、犬! ただの! 見たことねぇのかよ。いいか、犬ってのはなぁ、




こういうのだよ。知ってんだろうが。
馬が出てきても笑うし、じいさんが出てきても笑うし。もうー、



馬はこれ!


じいさんはこれ!



それに、あらゆる状況をとにかく描写したがる。犬がころんだら、
「あら、ころんだ」
馬が鳴いたら、
「あらあら、鳴いた」
あのな、オバチャンよ。
これはよ、映画なんだよ。
全員スクリーン見てんだよ。

おれはなんとか集中力を高めて映画の世界にのめり込もうとするんだけれど、となりからいちいち気に障るコメントが漏れ聞こえてくるもんだから、結局最後まで集中できなかった。

映画が終わった瞬間、おれはだれよりも早く立ち上がりドアを飛び出した。それがおれにできるせめてもの抵抗だったわけだけど……まあ向こうは気にしていないだろうな。くそー😠💢

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