やる気のないGKの選手に「貢献してくれたこと」を感謝できてますか?(アドラー心理学+サッカー指導)

こんばんは。
いつもご閲覧をありがとうございます。

今回は、いつまでもやる気の出ない中学生のGKの選手に対しての「勇気づけ」のお話です。

読み終わるのに10分弱かかるお話です。お時間のある方は、何卒よろしくお願いいたします。

やる気の出ない中学生のGKの選手

私が中学生の部活動監督をやっていた時のことです。その選手(以下、A選手)は、小学校低学年の頃からGKを専門的にプレーしていました。彼は中学に入ってからもサッカー部に入部し、私たち指導者と出会い、そのままGKをプレーし続けていましたが、出会った当初から「覇気が無い」「やる気があまり無いように見える」といった具合で、2年生になってもやる気や意欲が全然上がらない様子でいました。

A選手は2年生に上がって自分が上の学年になってもやる気や意欲が依然として上がらない様子でしたが、他のGKの選手は中学からGKを始めた選手だったり、1年生のGKだったため、経験と技術のある2年生のA選手が試合では正GKを務めていました。

A選手は練習にも試合にも休まず参加をしてくれるのですが、(指導者から見て)覇気の無い様子でプレーをし、自分がミスをしてもふて腐れたり、他の選手のせいにするなどして、その態度は変わらずにいました。

あまりにも態度が変わらないので、指導者はその選手には特に檄を飛ばしたり、熱心に応援し、励ましていました

指導者たちは試行錯誤しながら、A選手のことを一生懸命励ましてみたり、それとは逆に一生懸命檄を飛ばしてみたりするなどして、A選手のやる気に火を点けようと熱心にアプローチし続けました。

それでもやはり、A選手のふて腐れた態度や他の選手のせいにする態度は変わりませんでした。

私も含め、指導者たちは「A選手のやる気がどうしたら上がるのだろうか?」と、3ヶ月くらい悩み続けていたと思います。

しかし、その当時、指導者が思いつくかぎりのあらゆる方法でアプローチをしても、A選手のやる気や意欲は変わることがありませんでした。

そしてある日の公式戦のことです。

その試合ではいつも通りにA選手がGKを務めていました。そしてA選手は大きなミスをすることもなく失点をゼロに抑えていました。相手のチームは明らかに自分たちよりも格上でしたが、いつも以上にプレーが冴えていたA選手は一生懸命ゴールマウスを守ってくれていました。

しかし、試合終了間際にDF間の連携が乱れてしまったところを突かれて失点をし、0-1のスコアで惜しくも敗退してしまいました。

「GKとしてゴールを一生懸命守ってくれてありがとう」

そのGKのA選手の健闘もむなしく、試合は惜敗で終了しました。試合終了間際までA選手はナイスプレーの連続でしたので、コーチ陣はA選手を褒め続けていましたが、試合終了直後のA選手のふて腐れた態度や周りの選手のせいにしてしまう態度は、以前から相変わらずといったところでした。

私は指導監督として、A選手にどんな声をかけようか、と試合終了後のミーティングまでの短い時間の間に一生懸命考えました。

しかし、試合中の声かけに夢中になっていた自分の頭はすっかりカラッポになり、かける声も思いつかないまま、試合終了後のミーティングが始まりました。

そして自分の頭でなにも考えられない私は、とっさにこう言いました。

“A選手、GKとしてゴールを一生懸命守ってくれてありがとう!A選手のおかげでチームはたくさんのピンチを救われたし、皆もがんばって健闘ができたよ。格上のチームからたくさんのシュートを受けて、大変だったろう!?”

と。

すると中学に上がってからは試合で負けても全く泣くことのなかったA選手が目に涙を浮かべて、「いやいや、今日のオレはダメだったっスよ…。皆もがんばってくれて、ありがとうな」と少し笑いながら返事をしてくれました。

次の練習から様子の変わったGKの選手

公式戦で惜敗し、指導者から「ありがとう」と言われて涙ながらに返事をしてくれたA選手は、試合明けの練習から態度が変わりました。

それまでとやる気は(見違えるほど)変化し、練習場へ入る時間も一番になり、練習の準備も積極的に行うようになりました。そして、次第に自分からすすんで声を出したり、チームを盛り上げようと明るく振る舞ってくれたりするなど、ポジティブな態度で活動に関わってくれるようになりました。

私たち指導者は、A選手に何をしたから変化をしたのでしょうか?

私はその当時は、すぐにはその原因や理由がわからずにいましたが、彼らが卒業をして時間が経ってから、

「A選手に当時どのような意識の変化が起きていたのか?」

についての話を伺ったことと、自分が大学の心理学部に再入学して基礎心理学やスポーツ心理学を学んだ末にわかることができました。

何をしたからその選手は変わったの?

理由はずばり、

「GKとしてゴールを一生懸命守ってくれてありがとう」

と、A選手に感謝をしたからです。

エッ!?

そんな簡単なことで!?

心理学の専門的な知識でもなんでもなくない?

誰にでもできることじゃない!??

と思う方もいるかもしれません。
しかし、意外に思われる方もいるかもしれませんが、これは立派な心理学の知識を用いた結果、起きたことなのです。
そしてこれも意外に思われる方もいるかもしれませんが、「選手が貢献してくれたことに対して感謝をする」ということができない指導者は、意外といらっしゃるのです。

(「感謝」という行為は簡単にできることなので、かえって気がつかないこともあるんです)

では、GKのA選手に感謝をした際に、A選手の心の中でどのようなことが起きていたのか、検証してみましょう。

心理学的な見地からその指導で起きていた現象について考えてみることにします

心理学のジャンルの一つでもある精神分析学には、『投影』という言葉があります。
投影という言葉の意味を理解すると、A選手の心の中でどんなことが起きていたのか、わかることになります。

【『投影』とは】

人は、自分自身のことをダメだと思うと、つい、「自分は他の人の役に立っていない」「自分には生きる価値が無い」「自分がチームにいる意味がない」などと思ってしまうこともあります。
そして、ついつい、他の人に対して「自分の味方じゃない」などと孤独感を感じたり、コーチに対して「コーチたちは自分の敵だ」などと敵対心を感じてしまい、他の人のことが恐くなってしまうのです。

『投影』が起きていたGKの選手

人は、自分が人の役に立っていると思えないかぎり、孤独感を感じたり、他人のことを敵視する傾向にあるのです。

これが『投影』の原理です。

つまり、そのGKのA選手の心には、投影の現象が起きてしまっていたのです。

A選手たちが卒業をし、私は同窓会に呼ばれた際にその選手に当時のことを訊ねてみたのですが、A選手が言うには、

“自分は小学生の頃からGKをがんばっていました。しかし、自分はGKを務めていたことをそれまで一度も、誰からも感謝をされることがなかった”

とのことでした。
そのため、

“自分自身が誰かのための役に立っている気がしなかったし、孤独感を感じていたし、指導者とはいつまでも仲良くなれる感じがしなかった”

そうなのです。
そして私から「GKとしてゴールを一生懸命守ってくれてありがとう!」と言われて初めて、

“自分はGKを務めてよかった!”
“コーチから感謝をされたから嬉しい!”
“またGKをがんばろう!!”

と思えたそうなのです。
この話を聞いた私は、自分が当時A選手に感謝の言葉を述べることができてよかったと思う反面、それまでA選手の気持ちをわかってやることができなくて本当に申し訳なかったと、深く反省いたしました。

「あのとき気がついてやれなくてゴメンな」

私がそう告げると、

“イヤイヤ、あのとき佐藤さんに声をかけてもらったからやる気が出たんだし、本当に言ってもらえてよかったッスよ(笑)”

と満面の笑みで言ってもらい、私はホッとしてしまいました……

今思い返してみても、あのとき、あのような声かけができて、本当によかったと思っています。

(逆に、あのとき「ありがとう!」のひと言が言えていなかったら、今本当にどうなっていたかと思うとゾッともしています)

【投影、あなたの子どもがなってしまっていないか、注意してみましょう】

子どもが人間関係でつまずくときに、よくこの『投影』の現象が起きてしまっていることもあるのです。
子どもは自分が他者に対して貢献していると感じたとき、「自分に価値がある」と感じることができます。
そして、子どもは自分に価値があると感じたときに、「またがんばろう!」「また誰かのためになろう!」とやる気が上がるようにもなります。
そして他者に貢献できることで、仲間や友だちとの友好関係をより深くすることもできるのです。

ここで大事なことは、親子関係の中での子どもの貢献にも着目し、積極的に評価をしていくことです

自分の子どもがGKの選手でない親御さんも、子どもが学校やスポーツクラブなどの集団生活の中でこの『投影』の現象が起きてしまっていないか、子どもが『貢献』をすることができているか、よく注意して観察してみてはいかがでしょうか。

ただし、『貢献』と言っても、なにも大きな仕事を成し遂げた場合でなくても『貢献』を評価することはできますし、ささいな『貢献』に大人が感謝をしていくことは確実に効果があります。
たとえば、毎日の家事の何か一つを子どもがやってくれた場合にも、「◎◎、家の手伝いをしてくれてありがとう。おかげで家族みんなが嬉しい、幸せな気持ちになれたわ」などと子どもの『貢献』を喜んで受け入れてあげてください。きっと子どもは自分に価値があると感じて、自信ややる気も上がっていくと思います。
また、子どもが大人のやっている掃除や料理などの家事をやろうとするのは、子ども自身が本来もっている、『発達欲求』(自分が成長したい、自分が良くなりたいという欲求)があるとも言われています。子どもが少しでも大人のマネをしたがって家事や手伝いをやろうとした場合には、ぜひお願いをし、子どもがもしも失敗をしてしまったら、その否定をする前にまずは『貢献』について感謝をしてみましょう。

また、子育てのゴールでもある、子どもが成人をしたときに、お子さんがやる気のある、他者のために貢献のできる立派な大人になればいいのですから、子どもが子どものうちにたくさん挑戦してもらい、自分に価値を感じ、他者のために貢献のできる能力を少しずつ増やせるようにしてみてはいかがでしょうか。

以上が、今回の「やる気の出ないGKの選手への勇気づけ」のお話になります。スポーツ指導にアドラー心理学の知識を、上手く活用されてみてください。

【おわりに】

貴方がサッカー指導者なのだとしましたら、自分のチームのGKの選手に「GKとしてゴールを一生懸命守ってくれてありがとう」の感謝の言葉を伝えられていますか?

また、DFの選手にも、FWの選手にも、MFの選手にも、『貢献』に対しての感謝の気持ちを述べられていますか?

ささやかなことですが、もしも今まで声をかけたことがなかったのでしたら、是非ぜひ明日からひと声かけてあげてください。

指導者から「ありがとう」のひと声をかけられた選手のやる気や自信は、確実に上がると思います。そしてそんな選手が大人になって、

“僕は○○コーチから「貢献してくれてありがとう!」と言っていただいたおかげで、自分に自信がついてやる気のある選手になれました!”

などという感謝の気持ちを貴方に向けることができたら、私としても嬉しいかぎりです。貴方たちにそんな結果が待っていることを、陰ながら応援しております。

それでは、ご清聴ありがとうございました。
以上

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