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#3 OTHER SIDE

店の外のは案の定、先ほどの学生グループがそこへ留まってはわいわいとやっている。
この時間帯にもなると駅前の人通りも殆ど無くなり、彼らのように持て余した若者か、駅前の居酒屋を後にしてタクシーに乗り込もうとするサラリーマンの類いにほぼ限定される。

30分ほど経った頃だろうか、ストライプグレーのスーツ姿が再度現れ、またしてもレモン酎ハイを購入して店を後にした。
女性は一緒ではない。女性を見送ってようやく家路に着きながら締めの一杯をといったところだろうか。

そう想いを巡らせている内にストライプグレーのスーツの男が、今度は先ほど俯き加減にレモン酎ハイを購入していった女子大生ともOLとも見て取れる女性を連ねて、再び店内へと足を踏み入れている様子に気後れしながらも改めて認識する。
「お姉さん、飲んでたヤツで良いの?」
「えー、ご馳走してくれるんですか?じゃぁ同じので(笑)」
「僕は今買ったばかりだからコレで良いや」

知り合いだったのかと一瞬合点しそうになるが、聞こえてくる会話のトーンからはどう考えても今そこの店先で知り合ったばかりだといった様子である。
「自分はコレあるからまだいいや」というのが、先ほどの女性とのこともあり常套句のように聞こえる。他人の私が見知らぬサラリーマンの決まり文句を察している状況が何だか可笑しい思った。

1人だと俯き気味であった女性も顔お上げて笑顔を見せているが、服の着こなしから大学生にも見えるためやはり年齢までは読めない。
2人並んで店を出て行く後ろ姿を眺めながら、持て余して真っ直ぐ帰宅したくなかったのはこの女性も同じなのではないかと感じた。
この後2人で何処へ向かうのだろうか。

客足が途絶えた合間を見計って水回りの掃除済ませて、陳列をしようと棚の前にストックしてあった商品に手を掛ける。
いつまでも通路を半分塞いだままでは気が気ではない。やれる事やれる内に済ませようと立ち回っていると、意外に時間が経つのも早く感じる。

ストライプグレーが頭からすっかり離れようとしたところ、先ほど店を後にしたばかりのはずの2人がいつの間にか店内に居ることに気が付き、うっかり声を出しそうになりながら二度見をしてしまう。流石にいつまでこの辺りに居るんだとも思う。
女性はスイーツコーナーで新商品を物色しているが、今から食べようという様子ではない。
一方でストライプグレーのスーツはコスメコーナーを行ったり来たりと何かを探しているようだ。カッチリした格好でそこ忙しなく動く間の抜けた様子に気持ちほど親近感さえ湧いてくる。

それを意に止めぬよう自分の手元の作業を継続していたところ、人影がこちらへやって来て声を掛けらたところで顔を上げた。ストライプグレーのスーツの男が何処か親しみを滲ませるように表情を崩している。
「お兄さん、ちょっとお聞きしていいですか?」
「はい、何でしょうか…?」
口元を手で覆い声を伏せるような仕草ではあるが声量は通常のままだ。
「コンドーム置いてます?」
「コンドーム…」

探していたのはソレかと合点しつつも、動揺を隠そうと必死になればなるほど相手の顔を見ることが出来ない。
確かにウチの店舗のソレはコスメコーナーの下段にひっそりと陳列してあるのだから見つからないのも無理もない。
「あ、あった!これで良いです~」
そうバリエーションにも富まない品揃えの中から、0.02ミリと表記された3つ入り700円の小箱を手に取りレジに向かうのを私は後を追いかけた。
紙袋を拡げながら、手渡しで良いと言いだすのではないかという疑念は、「そのままで良いです!」の一言で払拭される。
そのままで良いと、これから直ぐそこで使っちゃうのだといったトーンで言われるのだから、私の心は既に掻き乱されるがままにざわついている。
この付近にホテルは多いが、ホテルに行くならわざわざコンドームを購入しないだろう。
深夜にもなると屋外であろうが死角は多い。

2人が店を後にしてからも暫くは調子は狂ったままだ。
外の空気でも吸おうと気を取り直してゴミ袋を取り換えを行っていたところ、駅前の家電量販店の立体駐車場からストライプグレーのスーツ姿が女性と肩を寄せ合って出て来る光景が視界に入った。
心なしか早朝のように清々しいその表情に力無く肩を落とした。

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