【小説】テクノロジーを語る勿れ【第32話】

 現実離れしたパーフェクトさ加減のイリアナの体に触れると、どうしても周囲の日本人女子学生の筋肉量の少ない柔らかくてしなやかな肌触りと比較してしまう。思いのほかそこには弾力があり、細くて華奢な割に肉付きが良いように思えるのは単に体の立体感がそうさせている訳ではなかったようだと合点する。非常に例えが悪いが、中学生の時に駐輪場脇の側溝に放置されていたダッチワイフが頭を過ぎる。もちろん、目の前の生身のイリアナの裸体は当時のそれのように当然お粗末なものではないのだが、広木にとってイリアナは、人間の好みをふんだんに盛り込んで作られた人形さながらだった。
 そういった旨をもちろん褒め言葉としてイリアナに伝えようと試みたが、一般的な日本人についてのイメージすら持てていない彼女にとっては、何を言いたいのか今一つ腑に落ちない様子だったが、広木が感嘆した様子で必死に伝えようとする様を見て改めて”Gracias”と微笑みながら返した。
 プレイの間も広木は拙い英語を駆使して、出来るだけ行為に応じた言葉を発し続けていたが、それは洋物のポルノ映像さながらだったに違いない。まるで人形のようだとイリアナを例えることももちろん出来るのだが、洋物ポルノの世界に自ら登場することをイメージする方が、その日現実感は想像し易いのかも知れない。
 広木が”harder"と言えば、イリアナは口元により笑みを浮かべながら、立てた舌先や口元にグッと力を加えて返した。広木はそうした掛け合いも含めてイリアナとの時間を目一杯楽しむことが出来た。
 事を終えて、2人で並んで自撮りするように写真を撮った。イリアナがTバック姿で鏡の前に立って仕度をしているところを再度、「後ろからその完璧な姿を撮らせて欲しい」と打診すると言うように応じてくれた。もう二度と会うこともないのだろうと投げやりにというよりは、イリアナはせっかくだから記念に持っておいてくれといった様子だ。

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 帰国に向けての日程感も大方定まりそうになったある日、広木はそれに向けての諸々の手仕舞いや地元の馴染みや今回のインターンをサポートしてくれた方々への土産探しに追われていた。一時期眠れなくなった夜も、この生活自体に終わりが見えてからか、こういった雑務に追われる生活を送ることが想像以上に体力の消耗を招いてからか、夜もぐっすりと眠れるようになり、何事も無かったかのように症状も出なくなった。人の心や体は人間関係を含めた周囲の環境などの微妙なバランスで保たれているのだと改めて実感する。

 そういった生活の隙間に、今度は上京して就職するための備えもしておかなければと、Match.comで取りあえずの拠点とする予定となっている寮の周辺に絞って友達探しにも勤しんだ。また、就職して地元を離れている女友達や、帰省時に地元で紹介されはしたが、進学や就職を経て大阪や東京へと拠点を移している、これまで交流しようにも地理的にどうしても無理があった友達にも片っ端からメールを撒いた。
 大阪で美容師をしているナオも、そういったメールにリアクションを返してくれた中の一人だった。
 広木より一つ歳が下になるナオは、もう一年前になる彼女達の成人式が終わった後に仲の良いグループで持て余していたところを、広木達のグループに合流する形で知り合った。ナオのグループのリーダー格のミチが、広木の連れのユウジと高校生の頃に交際関係にあり、ミチとユウジが連絡を取り合っている中でたまたま持て余していたタイミングが重なり、その様な場のアレンジに至った。

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