【小説】テクノロジーを語る勿れ【第31話】

 交渉が成立した方の女性と並んで歩き始めながら、顎先で何処でも良いからしけ込む先のモーテルを選んでくれと示唆される。華奢なのに骨格がはっきりとしているように見えたのは、胴長な日本人とは全く違う、外国人特有の手足の長いスタイルがそうさせているのだと合点する。その場から一番手前のモーテルを指先で示してそちらへ歩みを方向転化すると、彼女も広木の真横に並ぶように続いた。

 受付で部屋の料金を支払うと、必要であればと小さな籠へ重ねられたコンドームを出され、無作為に上から二つほどを指先で摘んで彼女にこれでバッチリだろうと視線を向ける。部屋へ向かう階段を並んで昇りながら、簡単な英語での会話は出来そうだが、彼女の方も広木と同様に相手の使うフレーズに依ってはその意味の解釈に難儀してしまう、そんな調子に見て取れた。
 そうはいっても簡単な自己紹介を交わし、自らの情報を取り留めも無く交わすくらいのコミュニケーションは、スキンシップをしながら行えるだろうと踏んだ。何も問題は無い。

 部屋に入って簡単で必要最低限に備えられた部屋の設備をながら、広木は自分がインターンで数カ月滞在していること、今回の滞在が2度目であること、情報工学を専攻していることなど、当たり障りない情報を取り留めも無く先ずは伝えた。それに対して、スペインに子供が二人いるのだが、自分はこうしてシンガポールで過ごしていることを自嘲気味に語る相手の女性はイリアナと名乗った。
 密室で2人きりになってからのイリアナは特にこちらに対して警戒したり、強い姿勢を見せたりすることは無さそうだ。背中に手を回せばハグを交わすかのように体を預けてくる。そのタイミングで胸元のマスクメロンのような乳房がタイトなTシャツ越しにこちらの体の何処かしらに突き刺さる。それを掌に納めるようにその片側に触れると、やはりそう来るかといった調子の反応を返すので、その流れに沿ってもう一度背中に手を回し、ブラのホックを一瞬それに触れるタイミングで外して見せた。
「どうやったんだ?」といった様子のリアクションを返すイリアナは、「その先のサービスはしっかりとするから先に」ともいった様子でチップを欲しがるような仕草で親指と人差し指の先を擦るように笑みを浮かべながらこちらへ示した。広木も事前に伝えられていた金額をSGDで支払うと、服はこちらに脱がさせてくれといった旨をすかさず添えた。それくらいはお好きにどうぞといった調子でこちらへ体を差す素振りを見せながら、イリアナはバッグの中からヘアゴムやヘアピンを手際良く取り出した。

 どちらからともなく二人でベッドの上に膝を掛けながら横たわる。イリアナは必要であれば使ってとローションを枕元のヘッドライト脇に携えた。
 外したブラジャーの下へと腕を差し込み、Tシャツもろとも裾から上部へ剥ぎ取るように捲し上げると、絵に描かれたような体の秘部がそこへ露わになる。金髪の白人のイリアナの体は出るところがはっきり出た、彫刻のような肉体美を誇るようだ。広木にとって、特に外国人の女性が好みということは毛頭無く、寧ろ同じ日本人女性以外の良さを見いだせない側であるのだが、流石にこれには感嘆せずにはいられない。
 漫画やアニメの世界のように現実より大幅にオーバー気味に表現されたその被写体のような裸体が現実として目の前に横たわっている。よくよく窺うとイリアナは小さな顔に小振りだが高い鼻、切れ長ではっきりとした二重瞼にブルーの瞳と、東洋人である広木がその造形についてとやかく言うことは憚られるといった具合いと言うべきか、まるで圧倒されるように整っていた。乳房や尻の立体感もさながら、一般的に男性が望む出るところや引っ込むところの理想をそのまま具現化したような体は、ある意味では完成度が高過ぎて返ってリアリティに欠けるようにも思えた。

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