テロリストは、なぜモテるのか
山上徹也はモテる。今日会った人(55歳二児の母)も彼に夢中で、「生で見たいし、同じ空気を吸いたいから、裁判には全部行く」と言っていた。
「裁判は奈良でやるんじゃないの?」と言っても、「奈良なら近い。ナイロビでも行く」と歯牙にも掛けない。
テロリストに夢中になる人を見ると、頭おかしいんじゃないかと思うものだが、1987年11月、大韓航空機を爆破した金賢姫(キムヒョンヒ)の人気もすごかった。世界中からプロポーズが殺到したのだ。当時、私は学生だったが、学友たちもみな、「ヒョンヒョン」とか言ってのぼせ上がっていた。
彼女には死刑判決が出た。100人以上の命を奪ったのだから、この判決は予想されたものだった。ところが、彼女は特赦によってすぐに釈放された。監獄には3年くらいしかいなかったと思う。政府は彼女のモテモテぶりを見て、「彼女を死刑にしたら革命が起きる」と思ったのだろう。
モテるテロリストといえば重信房子さんも大道寺あや子さんもそうだ。重信さんの人気は言わずもがなのことだが、あや子さんの評判もよく、彼女が勤めていた会社の社長は「日本女性の美徳をすべて備えた女性だった」と絶賛している。
山上徹也のモテモテぶりを知ったとき、私は「彼がモテるのは民間人を犠牲にしてないからだろう」と思ったが、金賢姫も重信房子さん大道寺あや子さんも多くの民間人を犠牲にしている。だから、犠牲の有無は関係ない。恋愛は善悪の彼岸にあるのだ。
テロリストは、なぜモテるのか。
梶原一騎は『巨人の星』の中で、星飛雄馬にこう言わせている。
「俺はあなたに九回二死満塁ツースリーのような迫力を感じる」
この「あなた」とは、飛雄馬が宮崎キャンプで知り合った看護師の美奈。美奈はテロリストではない。が、自分の命が残りわずかであることを知りながら生きる女、死のすぐ近くで生きる女だった。
死のすぐ近くで生きるという点では、テロリストも同じである。
私は多くのテロリストを見てきたが、テロリストにはそういう崖っぷちにいる人間特有の迫力、というか、えも言えぬ説得力のようなものがある。だから、飛雄馬が美奈に惹かれるのもわかる。
しかし、こういう人に惹かれる人間は少ない。たいていは、見て見ぬふりをする。下手に関わると自分も崖から落ちてしまうからだ。
しかし、飛雄馬は栄光の巨人の星よりも、一つの名もなき星にならんとする彼女を選んだ。
なぜ、飛雄馬は美奈にそこまで惹かれたのか。おそらく、飛雄馬自身に転落願望のようなものがあったからだろう。
実際、飛雄馬はそれから何度も何度も転落を繰り返す。やがて、飛雄馬の転落劇は野球界の名物となり、川上哲治は転落癖に苦しむ飛雄馬に「お客さんはおまえのそこを見に来ているんだから、それでいいんだ」と励ます。
今、「山上さん、すてきー、セクシー」と騒いでいる人たちにも転落願望があるのかどうかはわからない。が、「山上さん、大好き!」とか言って大騒ぎしていると、それが原因で転落するかもしれないから、そこは注意した方がいいと思います。
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