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【最終話】独立(ストーリー編)/あのスタッフなぜ辞めてしまったのか?

辞めていくスタッフは、実は離職のサインを出している。
「オーナー」と「 辞めていく人」、2つの視点から語られる 、
エピソードを基に、離職を防ぐポイントを探る第3回(最終回)。

文・解説/多田 暢[melt]

第3話 独立 ストーリー編
「独立はふとしたきっかけ?」

登場人物
オーナー………今もフルタイムでサロンに立つ、
       開業15年のベテランプレイングオーナー。
スタイリスト…7年前に新卒で入店し、
       若手の中で一歩抜きん出たスタイリストに成長。

オーナーの視点

 美容室を2店舗経営している。2号店ができてからは、そちらを店長に任せ、私は今も1号店でサロンワークをしている。創業して15 年、サロンも順調だったが、最近は求人しても応募がない年もあり、新しい風が入って来ないことに少し焦りを感じていた(①)。

 最近、2号店のあるスタイリストがとても好調だ。SNSの発信も上手で、新規のお客さまをどんどん呼んでくる。彼の売上は、もうすぐ店長の売上にも届きそうな勢いだ。

 ある日、2号店の店長から相談を受けた。「自分はSNSが弱いため、そのスタイリストをどうサポートすればよいか分からない」と言う(➁)。確かに、SNS に関してはそのスタイリストが一段上のようだが、美容師として必要な接客術や技術など、店長として伝えてあげられることはたくさんあるはずだ、と彼に伝えた。

 定休日にサロンに寄ると、そのスタイリストはアシスタントとスタイリスト数人にスタイル撮影のコツを教えていた。私は、休みの日に自発的な勉強会が行なわれていたことに感心し、差し入れを持って再びサロンヘ。皆に声を掛けたら、全員から元気なあいさつが返ってきて、「いい雰囲気だな」とうれしくなった(③)。

 ある日、そのスタイリストに話があると言われた。少しドキッとした。彼は、自分のやりたいことを実現するためには、今のお店では難しい、と言う(④)。

 まさかの発言に驚いてしまったが、何とかその場は、彼を引き留めて終わった(⑤)。

 それから、2 回、3 回と彼との話し合いを重ねる中で、彼の気持ちが少し、離れていっているように感じていた。
 その年末、彼は独立の意思を正直に伝えてくれた。彼を思いとどまらせる言葉を、私はもう、持ち合わせていなかった。

スタイリストの視点

 僕は、今年でスタイリスト4年目。2号店がオープンした年にスタイリストデビューをして、そのまま新しい店舗に配属となった。
 2店舗とも、オーナーや店長のお客さまであふれていて、活気がある。お客さまの年齢層は比較的高いサロンだと思う(➊)。デビュー後も店長のサポートに入ったりもしていた。

 ここ1年ぐらいだろうか。SNSを使った集客に一生懸命取り組んできた結果、最近は少しずつお客さまが来てくれるようになってきた。美容師の仕事にやりがいを感じていた。

 ある日、店長とミーティングをして、もっとSNSを使って同世代のお客さまを増やしたい、と伝えた。店長は困惑しているように感じた(➋)。その日、店長からは大人世代の接客についてアドバイスをもらった。

 僕は、自分がやってきたSNSでの集客について、スタッフから質問が来ることが多くなってきたので、定休日を使って勉強会を実施することにした。思ったよりも参加してくれるメンバーが多く、とてもうれしかった。何となくだが、自分の考えていたことが肯定されているような、かすかな実感があった(➌)。

 その日を境に、僕の中であるひとつの疑問が芽生えた。僕がやりたいサロンづくりはここでできるのだろうか。

 ある日、オーナーに相談してみた。僕は、SNSを通してデビュー後のスタイリストが確実に成長できる環境にしていきたい、と伝えた(➍)。

 オーナーはしっかり聞いてくれていたが、その後何も変わらなかった(➎)。

 それから何回か、オーナーとは直接話す機会があったが、僕の中では、もうすでに気持ちは固まっていた。「来年、自分のお店を出したい」。僕は正直にオーナーに伝えた。
 僕はこれから、やりたいことを目指して独立する。

離職のサインはどこにあったのか?
解説編に続く☞

PROFILE 多田 暢(ただ・のぶる)/1988年生まれ。東京都出身。日本美容専門学校卒業後、都内の大規模店に就職。6年間在籍し、広報部門やプロジクトリーダーなどを担当したことで、人事や労務、働き方に興味を持つ。
2015年、吉祥寺に「melt」をオープン。その後、’18年に2号店の「emis」、’20年に3号店の「cofy」を同じく吉祥寺に出店。「スタッフの生活水準の向上」と「質の良い働き方」をテーマにサロンを運営中。

美容の経営プラン_2021_02月号_150dpi-1_page-0001