【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【30】

全く予想できなかった一撃だった。

ドハを始めとする韓国代表団は、恐れ慌てふためいた。

法廷からの帰り道、ソン・チーム長が実務チーム・メンバーの方を振り返り、怒鳴りつけた。

「どうしてパク教授の話が日本チームに漏れた? パク教授がセミナー指導をしたということは秘密だと言っただろうが。一体誰なんだ? 今回の訴訟が失敗すれば、全責任は秘密を漏らした人間が負うことになるからな」

ドハは、はらわたが煮え繰り返る思いだった。

パク教授が資格不充分で問題となる可能性があると戦略会議で指摘されていたにもかかわらず、最後までパク教授を臨時裁判官にすると押し通した人物はまさにソン・チーム長本人だったのだ。

自分が責任を取るべき状況で、問題の焦点を秘密漏洩へとすり替えて、他人に責任を転嫁しているのだ。

翌日、法廷で裁判長がパク裁判官の資格に関する決定を読み上げた。

「パク・キヨン裁判官の資格問題についての協議結果を発表します。

日本側が提出した資料とパク裁判官の供述を総合すると、日本側の主張通り、パク教授が事前に韓国訴訟チームの訴訟準備に関与した事実が確認されました。

これに基づき、パク裁判官は、他の裁判官らの満場一致により、本件の臨時裁判官資格を喪失した旨をお伝えします。

合わせて、この暫定措置裁判はもちろんのこと、本裁判でも韓国側の臨時裁判官はこれ以上認めません」

そして二日後、暫定措置申請についての決定も宣告された。

「韓国側が申請した、竹島あるいは独島近海に駐屯した日本軍の即時撤退申請について、裁判結果を宣告します。

容認意見と棄却意見が7対7でしたが、裁判長がキャスティング・ボードを行使し、以下のとおり決定しました。

現在、竹島あるいは独島はその領有権が日本と韓国のいずれの国にあるのか明らかになっていない状況であるため、日本と韓国の両国のうちいずれの側も、相手国に対して同島への排他的権利を主張することはできません。

すなわち、日本と韓国のうちいずれの国も、同島を武力で占領することはで きないのです。

しからば、最も理想的なことは、本裁判所がこの島の領有権がどの国にあるか最終的に判決を下すまで、竹島あるいは独島にある両国の人力、装備及び施設を全て撤収させることです。

しかし、既に日韓両国がともに同島に武装兵力を派遣した状態であるという点、

交戦その他の危険な状況が発生していない点、

本裁判まで時間が残りわずかであるのに反し、韓国側の軍事施設を撤去す るのに相当な時間が必要となると見られる点、

双方がそれぞれの施設や軍事力を全て撤去してから本裁判以降に再び設置することは非常に非効率的である点等を考慮し、

我々国際司法裁判所は、規程第41、48、73、74条(※1)に従い、韓国の暫定措置申請を棄却します」

※・・・現実の国際裁判所(ICJ)規定は第70条までしかありません。

暫定措置裁判の結果がニュース速報で流れるや否や、国民はあたかも独島が日本領土に確定したかのような衝撃を受けた。

「独島裁判、日本勝訴」という具合に、センセーショナルなネット記事の見出しが意図的に国民の誤解を増幅させたとはいえ、暫定措置裁判敗訴の報がもたらしたものは失望以外の何物でもなかった。

外交部報道官が大急ぎで記者会見を開き、暫定措置裁判判決は、独島が日本領であると判断したものではなく、本裁判とは別個のものだと釈明した。

たが、かえって世論は、政府による真実の隠ぺい工作だと憤り、親日派が独島を日本に意図的に譲り渡そうとしているという陰謀論がますます拡散することとなった。

某日刊紙の世論調査によれば、本裁判でも我が国が日本に負けると答えた人の割合が87%となった。

訴訟反対の世論はますます加熱した。

ICJで問題を解決すべしとの安保理決定にもかかわらず訴訟を拒否したトルコの元外務省担当者のインタビューを紹介し、ICJ行きを選んだ韓国政府を批判するテレビ番組もあった。

新聞には、とある国際法の教授が、現時点で訴訟を中止すればどのような結果が起こるかについてのコラムを掲載した。

ネット上には、実務チーム・メンバー個々人に対する非難とともに、その個人情報が公開された。

最も激しかった問題は、やはりパク・キヨン教授の臨時裁判官資格の剥奪だった。

政府が繰り返し謝罪声明を発表しても、民心の怒りは収まらなかった。

結局、パク・キデ外交部長官が、パク教授の裁判官選任に関する全責任を負って、自ら辞任することとなった。

戦の間は武将を変えてはならないという反論も根強かったが、国民の失望と不安があまりに大きく、長官の辞任は不可避だという意見が優勢になったためだ。

新たに任命された外交部長官はオ・ヒョンホ前外交安保首席秘書官だった。

彼こそがソンを実務チーム長に据えた張本人だった。

オ新長官は、就任直後からパク教授の裁判官任命に対する真相究明調査を行った。

しかし、調査の焦点は、当初から欠格事由のあったパク教授を臨時裁判官に任命したのが誰だったかではなく、パク教授の欠格事由を日本側に漏らしたのは誰なのかということに変わっていた。

調査結果はメディアを通じて発表された。

犯人はケビンだった。

ケビンが彼女のユミを通じてパク教授の秘密を日本側に渡していたのだった。

ケビンは、「そんなことをしたことはない」と涙ながらに否認したのだが、オ長官はケビンを検察に告発し調査を終えてしまった。

ドハは、空いたケビンの机を見るたびに、実務チームを去るべきなのはソン・チーム長の方なのに、なぜケビンが去らねばならなかったのかと、納得がいかなかった。

しかし、そこでさらに問題を提起する人物は、少なくとも実務チーム内にはいなかった。

【31】へつづく

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