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ドイツから中東問題を見ていると

政治系の記事をメインに書いているわけではないので、今回はあくまで雑談として。

ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃から始まった、急激に緊張する中東情勢について、ドイツの討論番組や報道を見ていて、「ドイツはイスラエルの肩を持つしかないのかな……」というのを実感しています。

もちろん、当初の被害者はイスラエル側なのですが、イスラエルによるガザ空爆で死者の数がイスラエル側よりも遥かに超えている中、イスラエルに何か物申す、みたいな内容の報道がほぼ無いのです。いや、全くありません。

イスラエルによるパレスチナ市民への「集団的懲罰」を非難したグテーレス事務総長の発言に対しては、大手テレビ局(ARD、ZDF)は「Eklat(スキャンダル)」というタイトルで報道していました(もう、結構前の報道ですが…)

トーンは、ありていに言えば「何この人、やば…」みたいな論調でした。

テロ事件から1か月が経ち、日本や欧米(除くドイツ)メディアの関心はガザの人道危機に移っていると思います。

もちろん、ドイツもその話は取り上げられているのですが、

「ガザ地区の境界付近のイスラエルの街・スデロットで、戦争の陰で生活する市民たちを取材しました」

と言う報道がこの時期(11月5日)でも主要ニュース番組で取り上げられるのは、ドイツならではのことではないかと思います。

ちょうど11月9日が、ナチスのユダヤ人迫害が行われた「帝国水晶の夜」(Reichspogromnacht、1938年)から85年の節目だったこともあり、反ユダヤ主義の増加を危惧する報道が一層増え、却って他国メディアの戦争報道との「ズレ」が目立ってしまったようにも思えます。

ホロコーストの過去があるので、ドイツは中東問題については慎重な立場を取らざるを得ないというのは知識としては知っていましたが、今回の件であからさまな(言わば)「偏向報道」を目の当たりにして、ドイツの抱える負の遺産の重みはここまでなのか、と衝撃を受けました。

ドイツ人にこの話題を振るのは、ロシア人に「ウクライナ戦争についてどう思う?」という話題を振るのと同じくらい重いので、この話題をするときは人と場所を選んだほうがいいかもしれません。

下手にイスラエルのしていることに反論するような発言をして、「反ユダヤ主義者」「ナチス」のレッテルを貼られることは、ドイツ人としては社会的死を意味するので、思うことがあっても口にすることはできないのでしょう。発言は独り歩きして大変なことになりかねませんから。

今の戦争についてのドイツの報道を見ていると、まるで権威主義体制の報道を見ているかのようで、何とももどかしい気持ちになります。が、これがドイツ人の生きている世界の現実なのでしょう。

ショルツ首相は「イスラエルの安全保障はドイツのレーゾン・デタ(国是)だ(Die Sicherheit Israels ist deutsche Staatsräson)」と発言し、

シュタインマイヤー大統領も「(ドイツにおける)ユダヤ人の生活を守ることは国民の義務である(Der Schutz jüdischen Lebens ist Bürgerpflicht)」と発言しています。

ショルツ首相も、ベアボック外相も、中東和平の「仲介役」として動こうとしていますが、ドイツがイスラエルの味方であり、それも負い目を負った味方なことは誰の目にも明らかです。とても中立的な仲介役など務まるわけもなく、見ていて何とも歯がゆく思います。

一方で、ドイツの報道の仕方で良いと思うところを挙げるとするならば、あくまでも今回の戦争の原点からブレていない、という点です。

原点というのは、今回の戦争がテロ組織ハマスによるイスラエル人や外国人に対する残虐なテロ行為から始まった、ということです。

日本のメディアや英仏のメディアは、今は原点の話はやや後景に退き、今ではイスラエルの侵攻によるガザ市民の犠牲、ひいてはイスラエルの占領によるパレスチナ人の受難の歴史と言うところに報道がシフトしているように感じます。

これだけ両者の死傷者に差が出ている中で、なおかつイスラエルに対して一定の距離を取れる国のメディアであれば、関心がそちらにシフトしていくのは自然だと思います。

一方で、ガザ市民の犠牲を大々的に報道し、「イスラエルはパレスチナ人に対するジェノサイドを行っている」という印象を視聴者に与えるのは、まさにハマスが期待している情報戦の目的の1つでもあります。

そう言う意味では、ドイツのメディアの「あくまでも犠牲者はイスラエル。ガザ市民の犠牲も、もとはハマスがイスラエルを攻撃したのだから、彼らもハマスの犠牲者だ」という報道は、一貫しているし、ある意味冷静だったりするんですよね。ある意味で。

ともすれば「イスラエルvsハマス」の構図が「イスラエルvsパレスチナ」にすり替わりかねない報道の中で、ドイツの報道はあくまで一貫しています。

それが良いと個人的には必ずしも思えないのは、上記に書いた通りです。

ということで、僕は今回の戦争が始まってから、ニュースはドイツ語よりも英語やフランス語で見ています。特にフランスのメディアです。

僕のフランス語のリスニング力はまだまだですが、YouTubeで自動字幕を付けるだけでもだいぶ分かるようになるので、勉強も兼ねて見ています。

ドイツの討論番組を見ていると、この件については何となく「思想警察」みたいな感じの人が入っていることが多いのですが、フランスの討論番組は、ハマスにもイスラエルにも言うことは言う、都合の悪いことも報道する、と感じたからです。

もちろん、あくまでドイツの報道との比較で、英仏も結局は西側のメディアなので、西側としての立場から報道するという限界があるのは否めません。

一刻も早く、今回の戦争が終結することを願うばかりです。





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