【英語】定冠詞と「とりたて」

今回は「英語の歴史から考える 英文法の『なぜ』」(朝尾幸次郎著、2019年)の受け売りです。

冠詞をつけるかつけないか、つけるとしたら定冠詞なのか不定冠詞なのか。
これは日本語を母語とする英語の学習者にとって永遠のテーマです。

そんな中、上記の本で書かれている定冠詞の使い方の説明が、今のところ一番しっくり来ています。

それはずばり、定冠詞は「とりたて」を表す、というものです。

「とりたて」と言っても意味は色々ありますが、ここでは「対比」と同じ意味合いで使われています。

例えば、「春夏秋冬」「東西南北」「左右」「午前・午後・夕方」を表す個々の英単語には、基本的には定冠詞が付きますよね。

これは、同じジャンル(季節、方角、方向、時間帯)の中で1つのものを取り上げ、他のものと対比しているためです

つまり「the winter」は単に「冬」を意味するのではなく、
「(春や夏ではなく)冬」と言った意味を表します。

「the west」は単に「西」を意味するのではなく、話者の頭の中には
「(東や北ではなく)西」という風に、他の方角と対比しているわけです。

この「とりたて」を使うと、スポーツを表す単語は通常無冠詞で、楽器が通常冠詞を必要とするのも説明できます。

楽器の場合は、オーケストラやバンドなど、他の楽器と一緒に演奏する場合が多いです。

もちろん、独奏だってできるわけですが、通常は楽器を合奏の中で使われるもの、集合の中の1つと考えるわけです。

吹奏楽をやっていた人なら、個々の楽器グループを「パート」と呼ぶのには馴染みがあるのではないでしょうか。
各楽器を合奏という集合の「一部(パート)」と見なしているわけです。

ですので、「play the clarinet」と言う時は、「(フルートやサックスではなく)クラリネット」という風に、他のパートを念頭に置いた上で、クラリネットを「とりたてて」いるわけです。

一方で、スポーツの場合は、競技それぞれが独立しています。サッカーとバスケットを一緒にするということは考えられませんよね。

ですので、スポーツの場合は「スポーツ群」という集合として捉えることはなく、結果として定冠詞もつけなくて良いというわけです。

ただ、大事なのは、「定冠詞をつけるのかは名詞によって決まっているわけではない」という点です。

頭の中に「対比」の考えがあれば「定冠詞」がつくけど、
同じ名詞でも「対比」の考えがなければ定冠詞は不要
です。

「季節については『基本的に』定冠詞をつける」と書きましたが、逆に言えばつかない場合もあるのです(英米語の違いとはまた別に、です)。

The Italian coast in summer attracts the rich and famous.
(夏、イタリアの海岸には金持ち、有名人がやってきます)

前掲書 p.165

上の場合、「in summer」は単に「夏」という季節を指しているだけであるため無冠詞ですが、下の場合は「冬『は』」「夏『は』」のように季節どうしを対比させているため、定冠詞がつきます。

This house is warm in the winter, cool in the summer and looks spectacular with Christmas lights. 
(この家は冬は暖かく、夏は涼しい。クリスマスの灯りがともるとそれはみごとだ。)

前掲書 p.166

上の訳にもある通り、日本語の「は」にも「対比」「とりたて」の意味合いがありますね。

これを無理やり「I play the clarinet」に当てはめると、

「私はクラリネット『は』吹きます」

というのが、もしかすると原文のニュアンスに近いのかもしれません。

だからといって、同じ「は」のニュアンスをスポーツでは出せないところが、日英の違いの悩ましいところですが……。

すっかり長くなってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです!

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