【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【28】

韓国からはソン・チーム長が、自身の希望に従って弁論を引き受けた。

チーム長は、実務チーム・メンバーたちが2時間かけて作成した弁論文を、退屈なトーンと不明瞭な発音で読み始めた。

「ご承知の通り、2ヶ月余り前、日本の海上自衛隊が独島に侵攻しました。

日本は恐るべき武力を持った軍艦を動員し独島を包囲し、今この瞬間も艦砲の狙いを朝鮮半島に定めています。

このような状態で、我が国がまともに裁判に臨むことができるでしょう か? 

立場を変えて言うなら、日本列島上空に原子爆弾を搭載した爆撃機が飛んでいれば、日本はまともに裁判を行うことができるでしょうか?

公正かつ平和な裁判がなされるよう、直ちに日本の海上自衛隊を独島外に撤収させる暫定措置の発令をお願いいたします」

日本側からは、赤紫色の絹の帯の垂れた黒いガウン姿の山座局長が弁論を行った。

山座局長は、ソン・チーム長と直ちに比較できるほど鮮明な発音と洗練されたマナーで、まず日本代表団を順番に紹介し、弁論に移った。

「ご列席の裁判官の皆様、私はまず韓国側が『侵攻』という用語を用いたことに対して遺憾の意を表明したく存じます。

侵攻は他国の軍隊が自国の領土を侵攻した際に使う用語です。しかし、竹島は韓国の領土ではなく日本の領土です。

日本の領土に日本軍が入ったことがどうして侵攻となりうるのでしょうか? 

竹島に侵攻したのは日本ではなくむしろ韓国です。韓国は約60年前に日本の領土である竹島に重武装した警察を派遣し、今日に至るまで不法占拠を行い続けているのです。

10年余り前からは、日本を狙った軍事訓練まで定期的に実施しており、挙げ句の果てには数ヶ月前に竹島に軍隊を派遣するという呆れた措置を発表しました。

これこそ侵攻であり挑発なのです。

日本の自衛隊はその設立趣旨に従い、韓国軍が日本列島内に侵攻する前に竹島を封鎖するほかなかったのです。

この世界で、自国の領土に他国の軍隊が侵入するのを黙って見ているだけの国がどこにあるというのでしょうか? 

モンゴルが中国に押し寄せるとすれば、中国は黙って見ているでしょうか? 

ドイツの軍隊がフランスに侵入したとして、フランスは黙って見ているでしょうか?

ある国がアメリカを相手に挑発をすれば、アメリカは黙って見ているでしょうか?」

ここで山座局長は、中国、フランス、米国籍の裁判官と目を一人ひとり合わせながら弁論した。

「更に、ご列席の裁判官の皆様も既にお気付きのことと存じますが、韓国の主張は暫定措置裁判の争点からかけ離れています。

韓国の主張を聞いてみると、暫定措置裁判が何たるか、暫定措置の要件が何かさえもよく分かっていないように見受けられます。

韓国の主張は自国の領土である竹島近海に日本の艦隊が入ってきたことが不安で裁判を進めることができないから追い出してほしいというものです。

しかし、暫定措置はそのような理由で申請することはできません。暫定措置を講じるならば、暫定措置を取らず放置した場合に『取り返しのつかない損害』が発生する恐れがなければなりません。

ですが、現在韓国が一体どのような『取り返しのつかない損害』を被っているのでしょうか?

取り返しのつかない損害どころか取り返しのつく損害さえも被ってなどいません。

今この瞬間も、竹島には韓国の国旗がたなびいており、武装した韓国の兵力が駐屯しています。

日本の海上自衛隊は朝鮮半島に向けて艦砲一発、銃弾一発さえ撃ったことはことはなく、これからも撃つことはありません。

しかし、一体韓国に何の取り返しのつかない損害が発生するのか、私としては到底理解することができません」

「韓国代表団、反論はありますか?」

予想しなかった裁判長の質問に、ソン・チーム長が慌て始めた。

最初の弁論は実務チームが書いてくれた原稿をそのまま読めばよ かったが、日本側の反論に対する再反論はその場で解決しなければならない。

しかし、ソン・チーム長はそのような準備をしておらず、そのような能力も無かった。

ソン・チーム長は、後ろに座っているアン課長の方を振り返った。

「アン課長、私の代わりに少し何か話してくれないかい。ちょっと喉をやってしまってね」

自分が弁論するなど予想しなかったアン課長は、戸惑った表情で立ち上がり、もじもじしながら短く反論した。

「現在海上自衛隊の独島侵攻によって韓国国民たちは非常に不安を感じています。学生、社会人、主婦の別なく正常な日常生活を送れずにいます。

我々の国民のこのような衝撃を何によって慰め、何によって回復させることができるでしょうか?

このような精神的損害がすなわち韓国が被った取り返しのつかない損害です。

裁判部で早急に暫定措置決定を下し、独島近海から日本の艦隊を撤収さ せるようお願いします」

アン課長が言い終わるやいなや、山座局長が余裕のある態度で前に出て反論した。

「裁判官の皆様、皆様よくご存知のこととは存じますが、暫定措置の発令のための取り返しのつかない損害には精神的損害は含まれておりません。韓国側は基本的な理論さえも知らずに、感情的な訴えをしているのです」

反論を受けたアン課長の顔が強張り、それ以上何も言わなかった。実戦での威圧感は予想以上に大きいようだった。

裁判長がこれ以上反論はないかと尋ねたにもかかわらず、誰も前に出て反論することができなかった。

ドハはウンソンを見つめた。瞬発力と弁舌に優れたウンソンなら、何かいうことができると思ったのだ。

少し前に別れたばかりでお互い口をほとんど聞かない状況だったので、声をかけるのがぎこちなくてやりづらかったが、ドハは勇気を出してウンソンに反論するように頼んだ。

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