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東京マラソン2021を通じて感じたこと

 先週末の東京マラソン2021は2人の選手が印象的でした。

  日本人では鈴木健吾選手の強さを改めて感じました。ペースメーカーが離脱した25キロからほぼ1人で走り切って、2時間5分台28秒でしたが、競り合う相手がいればさらに1分以上は伸ばせるのではないでしょうか。次のマラソンが今から楽しみです。

 そしてエリウド・キプチョゲ選手、本当にすごかったです。よく知られている通り、2003年のパリ世界選手権5000mを18歳の若さで、今も残る1500mの世界記録をもつヒシャド・エルゲルージなどの有力選手を抑えて制しています。その後もトラックで世界のトップを争い、2013年からマラソンキャリアをスタートさせました。マラソン世界歴代2位の記録を持つケネニサ・ベケレもトラックで世界記録を出すなど、長く世界のトップに君臨し、後にマラソンに移った選手です。現在、マラソンにおいて世界のトップシーンで戦うためにはトラックのスピードは必要な要素と言えるでしょう。改めて自分自身を振り返ると、20歳ころまではそれなりにトラックで走れていましたが、大学3年で初マラソンを踏み、早くからマラソン中心の強化を進めてしまいました。今、当時の自分自身を指導できるなら、やはり若い間はトラック中心の種目選択をし、高強度のトレーニングでスピードをもっと磨いてから、マラソンに向かわせることは間違いないですね。

  キプチョゲ選手のフィニッシュまで崩れないフォームを見て、いかにエネルギーを節約して走るかというランニングエコノミーの重要性を感じましたが、それもトラックで培ったスピードが裏付けにあることは間違いありません。そしてランニングエコノミーを語る際に、最近の高性能シューズの影響もあり、足の運び方や接地の改善の必要性が語られます。しかし今回の東京マラソンでのキプチョゲ選手を見て、上半身、特にリズミカルに腕を振る動作は省エネかつ推進力を生むために手本にできると感じました。

 私はバイオメカニクスの領域は専門ではないので感覚的ですが、現役時代から「腕を抱えるな」と言うランニングフォームの指導に疑問を持っていました。マラソン練習で70キロ走という超長距離を走る機会があり、腕をコンパクトにたたんで走ったほうが楽であることに気づきました。キプチョゲ選手を見ても、ひじを90度かそれ以下、鋭角にして胸の前に拳がくるような腕ふりをします。「腕を抱える」ようなコンパクトな腕振りですが、これは長距離を走るうえでエネルギー節約している動きなのではないでしょうか。

 例えば、ウェイトトレーニングのクリーンなどオリンピックリフトにおいて、シャフトバーを挙上する際に、体の近くで移動させる動作は基本です。フォームはもちろん、その方が楽に持ち上げられるからです。実際に選手らを指導する際にも「行進をするとき、腕を伸ばし大きく振るのと、小さく振るのではどっちが楽か」という話をよくします。長時間動かし続ける時には、腕にも重さがあるため体の中心に近い位置でコンパクトにして振ったほうが楽なことは間違いありません。それと重なるのではと感じています。

クリーンでは体近くを最短距離で一気に引き上げます

 足の着地では、フォアフットやミドルフットでの接地ももちろん大切です。しかしその習得は普段から気にしていても実現はなかなか難しいのではないでしょうか。その点、腕振りは目にも見えますし、改良しやすいポイントです。世界レベルで強い選手の多くは胸の近くで横ブレなく楕円を描くように振っていることに注目してください。この部分は今後、パワーセンサーを用いて計測して根拠を示したいと考えています。

 根本的なところで言えば、ケニア人選手のランニングエコノミーの高さの大半は高地環境でのトレーニングによって作られていると思っています。レースを見ながら考えている間に、かつての日本のオリンピック金メダリスト、2人のことを思い出しました。

 高橋尚子さんは高地で長期合宿を繰り返し、シドニーオリンピックで金メダルを取りました。またアテネオリンピックを制した野口みずきさんはウェイトトレーニングに積極的で、あの小さな体で高重量でのスクワットする姿が強く印象に残っています。現在、高地トレーニング、ウェイトトレーニングの必要性は多くの研究で明らかになっています。2人の当時の記録は今の時代でも十分通用するレベルです。彼女らがもし、厚底シューズで走っていたら・・・。

 20年以上前に高橋尚子さん、野口みずきさんが取り組んでいたことは大きなヒントになると思います。コロナ禍で海外の高地にはなかなかいけない状況ではありますが、低酸素トレーニングという手段もあります。低酸素もウェイトも城西大学でも積極的に取り入れているので、さらに追及したいと強く感じた次第です。

 いつか城西大学からもトラックのスピードを活かし、マラソンでも世界で戦える選手が出るように。まだまだ私も勉強しないといけませんね。

 

低酸素トレーニングはランナーを新たな世界へ誘う


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