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歴史的虚無の声「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」

展覧会「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」(2021)は、ホー・ツーニェンの最新作であり、京都芸術センターで発表されました。このインスタレーションは、太平洋戦争前夜の京都学派の思想が戦争の正当化に利用された歴史をテーマにしています。以下に、いくつかの見出しに分けて作品の概要と多角的な考察を行います。

展覧会概要

「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」は、ホー・ツーニェンが山口情報芸術センター(YCAM)とコラボレーションして制作したインスタレーション作品です。この作品は、京都学派の哲学者たちが1930年代から1940年代にかけて発表した思想がどのように戦争の正当化に利用されたかをテーマにしています。展示は、茶室、牢獄、空、禅の瞑想室の四つの空間で構成されており、VRやアニメーションを用いて観客に強い没入感を提供します。

京都学派の背景と作品の構成

京都学派は、西田幾多郎や田辺元などが中心となり、日本の伝統的な思想と西洋哲学を融合させた学派です。彼らの思想は、戦争中に戦争の正当化に利用されたことがあり、作品ではこの歴史的側面が探求されています。インスタレーションは、次の四つの空間で構成されています:

  1. 茶室(左阿彌の茶室): 西田幾多郎や高坂正顕らが討論した場面がアニメーションで再現されます。

  2. 牢獄: 反体制的な活動により投獄された三木清や戸坂潤の姿が描かれます。

  3. : 田辺元の「死生」に基づく講義が展開される場面です。

  4. 禅の瞑想室: VRを通じて観客が茶室、牢獄、空を体験することができます。

考察のポイント

歴史的再評価と批評

ホー・ツーニェンの作品は、歴史的事実とフィクションを交錯させることで、観客に複雑な歴史の再評価を促します。作品は、京都学派の哲学者たちがどのように戦争を正当化したかを示しつつも、彼らの思想が必ずしも一枚岩ではなかったことも明らかにしています。例えば、西田幾多郎の「無」の哲学が戦争協力の一環として利用される一方で、田辺元が戦争に対する懺悔を表明していたことも作品内で示されています​​。

現代社会への問いかけ

作品は、観客に対して歴史的な問いかけを行うだけでなく、現代における思想の役割やその利用についても深く考察する機会を提供します。ホー・ツーニェンは、権威的なシステムへの批判を込めており、シンガポール出身の彼自身の経験が反映されています。作品は、権力の濫用や知識の利用に対する倫理的な問いを観客に投げかけています​​。

視覚的・身体的体験

「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」は、視覚的に魅力的でありながら、観客に身体的な体験を提供する作品です。VRを用いることで、観客は物理的に異なる空間を行き来し、哲学者たちの視点や歴史的な状況を体感します。これにより、単なる視覚的な鑑賞だけでなく、身体全体で歴史と対話する経験が得られます​​。

まとめ

ホー・ツーニェンの「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」は、京都学派の思想とその歴史的文脈を探求することで、観客に対して歴史的な問いかけと現代社会への批判的な視点を提供する作品。視覚的な美しさと哲学的な深みを兼ね備えたこの作品は、観客に強い印象を与え、知識の利用に対する責任について再考させる力を持っています。


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