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「英語ができる」ようにならないのは当たり前〜学習指導要領は根本的な見直しが必要

民間の英語検定試験を大学入試にも利用する制度が先日延期になった。

その中で「CEFR」という言葉が出てきたのを初めて耳にした人も多いのではないだろうか。

このCEFR、要はヨーロッパ(EU)で外国語の学習の進捗度を測るのに使用されている指標である。

ヨーロッパ言語共通参照枠(Wikipedia)

外国語学習の進展段階がうまく整理されているので、たとえば異なる検定試験の得点・級を比較するのに使われたりしている。

現行の学習指導要領と照らし合わせてみると、日本の学校での英語教育では、中学校での到達目標がCEFRのA2レベル相当になっているようである。

小学校学習指導要領(平成29年告示)
中学校学習指導要領(平成29年告示)

A2レベルは「初級学習者」ということになっているが、だいたい
「(定住ではなく)一時的に滞在する外国で、なんとかサバイバルできる
のがこのあたりだと思っていい。

いわゆる「義務教育」のゴールとしては、妥当な水準だろう。

だが、実際の学校での英語教育の中身が、この目標を達成できるような内容になっているかといえば、「ノー」と言わざるを得ないのが現状である。

中学校では、文法については基本的な骨組みをひと通り学習する。
A2レベルのコミュニケーションには十分な程度である。

ただし、語彙は圧倒的に不足している。
現行の学習指導要領で示されている指針が1600〜1800語。
2021年度から実施される新指導要領では、小学校と中学校を合わせて2200〜2500語になっている。
ただし、これはあくまでも「知っている」単語の数。
実際に「(アウトプットに)使える」のは、経験的に言って「知っている」単語のうち1/3程度なので、改訂後の指導要領でも800〜900語。850語で構成されるBasic Englishと同等の水準なので、CEFR A2の「サバイバルができる」ギリギリのレベルだろう。

一番問題なのは、これを習得するまでにかける期間である。
新指導要領では、小学校5年から中学校卒業まで、外国語(小学校では「外国語活動」)に合計で490時間の授業時間が充てられることになっている(現行指導要領では中学校のみで315時間。小学校は「科目」ではないので設定なし)。

小学校の標準授業時数
中学校の標準授業時数

授業時間の増加は教育の充実につながるのだから良いことではあるのだが、いかんせん、このレベルの学習に5年もかけてしまうのは長過ぎる

上に貼ったWikipediaのリンク先を見てもらえばわかるが、CEFRのA2レベルは、たとえば「実用フランス語検定」では準2級相当になっており、これはだいたい学習時間300時間程度にあたる、とされている。

実用フランス語技能検定試験 試験内容・試験形式

英語は、フランス語に比べると基本文法が単純な分だけ、これよりも少ない時間で目標に到達できるだろう。
(中級以上についてはちょっと話が違ってくるが)

初級レベルの外国語の学習は、(言語にもよるが)短期集中で一気に仕上げるのが実は最も効果的だったりする。
200〜300時間程度の学習であれば、長くて半年、可能であれば3ヶ月くらいの期間の中でこなさないと、大部分の人は永遠に「初級」の手前の「入門」から抜け出せないままである。
(実際、私立中学校の中にはこういうカリキュラムの組み方をしているところもあって、それなりに成果を上げているらしい)

また、いくつもの言語の学習に手を出して挫折してきた経験からいうと、「とりあえず早い段階で初級をひと通り駆け抜ける」のが外国語を「身に付ける」コツのひとつであるのは間違いない。
たかだか「サバイバル」レベルの習得に5年をかける、というのは時間のムダである。

少なくとも、学習指導要領に沿ったカリキュラムでは、初級レベルの英語を算数の四則演算のように生徒全員に身に付けさせる、というのは、どう転んでもムリゲーでしかない。

この根本的なところが改まらない限り、日本人の平均的な「英語力」が向上することはないだろう。

コミュニケーション・デザイナー。実態は翻訳とか通訳とか(英⇔日)。 外国語学習についてあれこれ書いていきます。 https://office-unite.com/