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ひとりといっぴき いきとうごう


ここはとある町の譲渡会場。
家族が欲しい動物と、家族が欲しい人間が出会う場所。
今日ここへ来た男の子、彼の名前はショウ君。
動物が好きな彼は、ずっと犬を飼うという夢を抱いていました。
10歳になったので、ここへ来ました。

この日のために、お手伝いも勉強も習い事もたくさん頑張りました。
「どんな子が居るのかな」ショウ君はドキドキ。手汗をパーカーの裾で拭きました。

ここは譲渡会場の中。
雑種犬のセンちゃんは諦めていました。どうせ誰も自分を貰ってくれない。
この前の譲渡会でも、変な顔だと笑われただけ。
誰もセンちゃんを連れて帰りたいとは言ってくれませんでした。

右隣のゲージには子猫の姉妹。彼女達は2匹揃って貰われていきました。
左隣のゲージのプードルの子犬も、すぐに家族が決まりました。
センちゃんは…誰も可愛いとは言ってくれません。

センちゃんのゲージを覗きこむ人は、何も見なかったかのように去っていきます。
「まぁいいさ。僕なんか殺処分されなかっただけラッキーだったのさ」
センちゃんは自分に言い聞かせます。
「これ以上望んではいけない。ここの職員さんは優しいし、ここが1番いい場所だ」
本当は自分だけの家族が欲しいのに。センちゃんは強がってるのです。

また誰かがセンちゃんのゲージを覗き込んできました。
センちゃんはその男の子の顔を見て運命を感じました。

ショウ君です。優しい瞳でセンちゃんを真っ直ぐに見つめます。
センちゃん、思わずニンマリ笑顔になりました。

「なんて可愛いくて優しそうな男の子なんだ!この子が僕の家族になってくれたらいいのにな…」センちゃんは思いました。

ショウ君もセンちゃんを見て運命を感じました。
「なんて可愛くて優しそうなワンちゃんなんだ!この子が僕の家族になったら嬉しいな!」
センちゃんとショウ君。出会った瞬間から1人と1匹、意気投合。

でもショウ君の両親は微妙な顔。
「この子、8歳だってよ?もう大人の犬だよ。もっと子犬の方がいいんじゃない?」
お母さんはそう言いまっしたが、ショウ君は
「このこじゃないなら犬を飼う意味なんてない!絶対にこの子がいい!」
と言いました。
ショウ君の強い意志が伝わり、お母さんもお父さんも、センちゃんが家族になることに賛成してくれました。

晴れてセンちゃんはショウ君の家の子になりました。
「僕を選んでくれたショウ君をガッカリさせない!最高の家族になってみせる!」
センちゃんは意気込んでます。
またショウ君も「僕の家族になってくれたセンちゃんを幸せにしたい!」と意気込んでます。
1人と1匹、意気投合。
言葉は通じないけど、気持ちが通じてる。

ある日の散歩中、大きな犬に驚いたセンちゃんとショウ君。
「も、もしもの時は僕がショウ君を守る!」
「も、もしもの時は僕がセンちゃんを守る!」
どんなに怖くても意気投合。
大きな犬が通り過ぎるまで1人と1匹、ドキドキ。
何も起きず、一緒に安心。


ショウ君、学校の給食で美味しいお肉が出ました。
「センちゃんが人間だったら食べさせてあげたいよ」
一方、お家のセンちゃん、お母さんに美味しい歯磨きガムをもらいました。
「ショウ君が犬だったら食べさせてあげたいよ」
離れていても、意気投合。

1人と1匹、悲しい時も悔しい時も
嬉しい時も楽しい時も、1番に想うのは相手のこと。
センちゃんはショウ君の幸せを
ショウ君はセンちゃんの幸せを
いつも考えていました。

そうして、1人と1匹が家族になって8年がたちました。
ショウ君は受験生。昔のようにセンちゃんと遊ぶ時間がなくなってしまいました。
センちゃは昔のように動けなくなって、眠る時間が増えました。

「最近ショウ君と遊んでないな。でもショウ君は忙しそうだし、僕も体が重たくて動くのも億劫だし、ちょうどいいや」
「センちゃんと最近遊んであげてないな。センちゃん歳取ってずっと寝てるし、俺も勉強で時間ないし、ちょうどいいか」
大人になっても意気投合…。


それでもセンちゃんとショウ君は、お散歩の時間は欠かしませんでした。
どんなに眠たくても、どんなに勉強したくても
1人と1匹、一緒に歩くこの時間が何よりも幸せな時間でした。


ショウ君は大学生になりました。
お家を出て、一人暮らしをして学校へ通います。
「ショウ君、がんばれ。どこにいても僕は君の味方だよ。元気でいてね」
「センちゃんがんばれ。次帰ってくる日まで元気でいて。お願いだよ」

センちゃんは眠くても毎日お母さんとの散歩に行きました。美味しくないシニア用のご飯も嫌がらずに食べました。
ショウ君が帰ってくる日まで、元気に待っているために頑張りました。
ショウ君も時間を見つけては、センちゃんに会うために実家へ帰りました。
帰るための交通費のためにバイトも頑張りました。勉強も頑張りました。

離れていてもお互いのために頑張りました。
本当は一緒に暮らしたい。もっと一緒にいたい。
歳をとっても意気投合。

でも寿命はみんなにきます。
センちゃんにもきます。

ショウ君はお母さんから連絡をもらい急いで駅へ向かいました。
新幹線の中、どうか間に合ってくれと涙を堪えて祈りました。

センちゃんも遠のく意識の中、きっとショウ君は帰ってきてくれると信じて
なんとか呼吸を続けていました。
すごく苦しいけど、楽になりたいけど。
もう一度ショウ君に会うまでは頑張ると決めたから、諦めない。

ついにショウ君は実家に辿り着きました。
リュックを背負ったままセンちゃんを抱き上げます。
出会った頃よりも随分と小さく軽くなったセンちゃんを
ショウ君は大切に抱きしめました。

ショウ君の温もりを感じたまま、センちゃん
「ありがとう」

センちゃんの温もりを感じながらショウ君
「ありがとう」

1人と1匹、出会った瞬間からお別れの時まで
ずっとずーっと意気投合。


センちゃんはお空へ
ショウ君は日常へ

日常の中で疲れると、ショウ君はセンちゃんのリードを持って
1人でお散歩へ行きます。
そうすると、センちゃんが隣にいるように感じるのです。
あの頃のように一緒に散歩しているようで、ショウ君の寂しさが少し薄まります。
「センちゃん、お空は楽しいかい?」
「ショウ君、お空は楽しくて綺麗だよ」


また会う日まで
センちゃんは忘れないし、ショウ君も忘れない。
未来永劫、意気投合。


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