見出し画像

クリストファー・ノーラン最新作「 TENET テネット 」と出世作「メメント」【 映画レビュー 】

「TENET テネット」(2020年9月18日)


作品の公開初日に劇場へ足を運ぶのは、いつぶりか思い出せないほどですが、レイトショーで鑑賞に間に合いました。

予習として「 メメント 」「 インターステラー 」を観直してから、今作に挑みましたが、時間の逆行や、科学SFの追求という共通点がありながら、過去作をどんどん更新していくノーラン作品の「新しさ」に、ブッ飛びました。
見どころは、何と言っても時間逆行の映像体験です。

SF小説の世界では、タイムパラドックスや「 時間 」を題材にした実験的な作品はそれほど珍しくはありません。(星新一、小松左京、筒井康隆、円城塔など)

しかし、それを映像として、しかもCGやテープの逆回転に頼らずに撮ったのは、凄いとしか言いようがありません。俳優たちも、逆行シーンでは、動作を反対にして演技したそうですね。

さらに、IMAXカメラによる撮影、そして回文的な物語を支える音楽、撮影日の天気(晴れよりも曇り)にも、こだわっていたようですよ。

ノーラン監督ならではの、細部へのこだわりが見どころであるのは、言うまでもありませんが、監督の、映画の力を信じる「 テネット(信条)」が、最大の見所でしょうね。

では、今作の新しさとは何でしょうか?

それは、「 何度も何度も繰り返し観られること 」を前提にしているところ、だと考えます。

「 ユージュアル・サスペクツ(1995)」や「 シックスセンス(1999)」のように二度観られることを前提に作られた名作はありますが、「 オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014) 」の主人公が何度も生き返るように、何度も反復して観賞することで、その度に新しい発見ができるでしょう。

まずは、作品のありのままの世界を受け入れて楽しみ、それから謎解きをしながら、細部を確認しながら、何度でも楽しむことができます。

ニール役のロバート・パティンソンでさえ「 完璧に理解するには物理学の博士号が必要かもしれない 」と話すほど難解でもありますが、監督自身は「 そんなに分析しなくてもいいよ 」と、主人公役のデイビッド・ワシントンに言ったそうです。

他の作品と比べものにならないくらい、リピート度の高い作品でしょうね。もう一度観なきゃ、というよりも、あと何回観るだろうと感じたほどです。

レイトショーを観終えて、そのまま回転ドアで劇場に逆行して、もう一度観たあとは、自転車を逆向きに走らせ、帰宅しました。

デジタル時計は0:00の表示。しばらく見つめていたら23:59に変わりました。

どうやら、まだ「 テネット 」の世界から脱出できていないようです。


「 メメント 」(2000年)


難解な映画のひとつとされる今作は、クリストファー・ノーランの原点が詰まった出世作です。

この記事では、今作の魅力とともに、難解だと言って放り出してしまわないための対処法を考えたいと思います。

まず、俳優たちが魅力的でした。

10分という短時間しか記憶ができないという、前向性健忘症という記憶障害を患っている主人公レナード。

『L.A.コンフィデンシャル(カーティス・ハンソン 1997) 』でデビューしたガイ・ピアースが、タフで繊細な男を演じていますが、初期( 『セブン(デヴィッド・フィンチャー 1995) 』『ファイトクラブ(同上 1999) 』のブラッド・ピットのような雰囲気が好きです。細マッチョなボディーに刻まれた、メモ代わりのタトゥーの似合う俳優は、他に探せないでしょう。

そして、レナードを助ける謎の男テディをジョン・パトリアーノが演じています。『 マトリックス(ウォシャウスキー姉妹 1999)で、人間側の裏切り者・サイファー役も演じているため、何となく安易に信頼してはいけない雰囲気を感じます。レナードの写真メモにも、「彼(テッド)の嘘を信じるな」と書かれており、冒頭でレナードに頭部を撃ち抜かれますが、今作のキーパーソンでもあります。

さらに、レナードを利用するウェイトレス、ナタリー。『 マトリックス 』シリーズを通してヒロイン・トリニティ役で一躍有名になったキャリー=アン・モスですが、レナードのみならず観る者までが騙される名演技を披露していました。

この俳優陣が、物語に魅力を与えています。

もうひとつ、好きな部分は、オチです。今作に関しては、本来的な意味でのオチは冒頭に来ますが、そうではなく、最後にレナードが発する一言。

「あれ? どこだっけ?」

衝撃のラストを目の当たりにして、緊張感が高まる中、当の主人公から発せられた言葉に、「(やっぱり)忘れたんかーい!」とツッコミを入れちゃいました。(←関西人)

緊張感の続く展開からの、軽妙洒脱な、素晴らしい幕締めだと思います。

初見でストーリーを把握するのが難しい点ですが、これは意見が分かれるところでしょう。この分からなさ、さらには、妻の安否など、最後まで疑問点が解消されない曖昧さが魅力でもあるのですから。

その難点をクリアするポイントは、後述しますね。

とにかく、見事な脚本による演出が見どころです。

時系列をテープの巻き戻しのように、逆向きに進めています。オープニングでは、ポラロイド写真に写った被写体が、どんどん黒くなっていくので、正真正銘のテープの逆回転ですが、全編をそのように流しては、それこそ訳が分からないものになりますよね。

オープニング以降は、繰り返されるカット割により、時間の逆行が再現されます。そのことで、主人公の記憶障害を追体験でき、レナードとともに過去を追求する(妻を殺した犯人を追い求める)スリルが味わえるのです。

ちなみに、脚本の原案はクリストファー・ノーラン監督の弟であるジョナサン・ノーラン。兄弟で引っ越し途中、車の中での会話がヒントになったそうですよ。

この演出こそ、今作の最大の魅力ですね。

では、時間軸の交錯による難点は、どのように対処すれば良いでしょうか。解決策は2つあります。

ひとつは、理解することをあきらめて、俳優の演技と物語の展開に身を委ねること。そうすることで、監督の仕掛けた、記憶の混乱を深く堪能できますよ。理解するな、感じろ、ですね。

もうひとつは、構造を把握した上で観ることです。今作は、時間の逆行する〈カラー映像によるパート〉と、過去から現在へ進む〈白黒映像によるパート〉が交互に現れます。〈カラーパート〉は巻戻し(◀◀)、〈白黒〉は再生(▶▶)と認識しておきましょう。また、〈カラー〉は現在から過去へ、〈白黒〉は過去から現在へ進むのだと覚えておけば、時間軸による混乱は、避けられるはずです。

最後に、レナードからの助言を引用します。「記憶よりも記録を信じろ」

これで準備オーケイです。

あとは、ノーラン監督に、まんまと騙されちゃいましょう。(笑)

この度は、10数年ぶりに観賞しました。

以前は、時間軸が交錯していて、よく分からないまま見終えた記憶がありましたが、その記憶自体、定かではありません。

今回、観直したら、難解というイメージが払われ、クリストファー・ノーランらしさが、よく表れた名作だと、改めて感じました。

間もなく公開される新作を観る前に、今作をリプレイしてみては、いかがでしょう?

「あれ?何を書いてたっけ?」(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?