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元祖平壌冷麺屋note(37)

袖触れ合うも。

「多生の縁」と僕は言う。
「それそれ」と彼女は言う。「どういう意味なの?」
「前世の因縁ーたとえささいなことでも、世の中にまったくの偶然というものはない」
(村上春樹『海辺のカフカ』より)

たとえ些細なことでも、世の中にまったくの偶然というものはない。

4年ほど前に、実家暮らしの時に10年間通い続けた、ボナルーカフェに立ち寄った時、キヨトくんに再会した。キヨトくんは、阪神大震災で実家が全壊になるまで、同じ住所で隣同士に住んでいた幼馴染だ。

家の屋根が繋がっていたので、二階の窓から屋根越しにお邪魔し合って、こっそり遊びに行ったりしていた。

20年ぶりくらいの再会だけど、いたずらっぽく笑った時の楽しそうな顔が、少年の時のままだった。キヨトくんは、元町のトアロードのワインバーを営んでいるというので、いつか訪ねる約束をして別れた。

いつでも行けるという距離は、近いようで遠い。やがてコロナの波が、訪ねる機会をさらって行った。

先週、ふと思い出し、近くをぶらつく機会があったので、店名を頼りに探してみたが、天性の方向音痴のため、とうとう見つけられず、その代わり、ボナルーカフェのマスターと10年前に訪ねた、BARディランに、たどり着いた。

飲まなくても、飲めなくても、スピーカーの良いお店は、居心地が良い。

ジョージ・ベンソンのギターソロ、クリス・レアのオンザビーチ、そしてサザンの栞のテーマに。

マスターに、うちの娘も名前に「栞」が入っているんですよ、と話したら、

「偶然にしてはでき過ぎていますね」

と、微笑んで、ボナルーマスターがお店の16周年記念でプレゼントしてくれた、ディランの肖像を版画にしてラベリングしたボトルを見せてくれた。

「あ」

そうか、ボナルーマスターは、今、このお店の近くに住んでいるのだ。そして、そのお店で働いていたスタッフのTさんは、王子公園駅前のカレー屋で勤めたのち、いまは、週に二日、ディランで働いているとのこと。

カレー屋で、数年ぶりに、偶然、再開した時

「偶然ですね!おもしろ〜」

と、本当に面白そうに、笑っていたのだった。

ボクたちは、出来すぎた偶然と、気まぐれな必然のはざまで暮らしている。

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