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当事者は国民全員|医療課題に切り込み未来をひらくプロジェクトを解剖

2023年11月、ジョリーグッドにより発表されたプロジェクト「ひらけ、医療。」、「誰もが医療に参加できる未来へ」と掲げ、医師とアーティストがメインビジュアルを飾るこの取り組みはいったいどんなものなのでしょうか?

プロジェクトの目的から目指す未来「ひらかれた医療とは」まで語ります。

記事冒頭では、日本に住む人が避けて通れない重大な課題を突きつけられます。未来を少しでも良いものにするために、まず必要なのは声をあげること。いまわたしたちが一歩動くことで変えられる未来とは。

「ひらけ、医療。」プロジェクトサイト


細木 豪(ほそき たけし)
執行役員/エグゼクティブ・プロデューサー JOLLYGOOD+局 局長
早稲田大学商学部卒。ソフト流通会社、ゲームコンテンツメーカーに在籍。エンターテイメントの分野で約20年、事業企画・事業管理・制作・広報・営業・製造販売などの職務を歴任したのち、2018年より現職。現在は、医療教育事業の営業部門を統括する傍ら、ヘルスケア分野に向けたVR教育ソリューションのプロデュースを手がける。


誰でも受けられる医療が当たり前ではなくなる未来

ーまず、プロジェクト名に「ひらけ」とあるということは、医療は現在「とじている」という課題感から発進しているという理解をしていますが、この点はどうでしょうか?

「ひらけ」という言葉にも色んな思いが込められていますが、私自身は特に2つの側面を重要視しています。

まず、ひとつ目の重要な「とじている」部分は、将来予想されている医療へのアクセスです。高齢化が進んでいる日本では、ごく近い将来、我々生活者が今まで当たり前に受けることができていた医療への道が狭く閉ざされてしまう可能性があります。
我々が危機感を感じているのは、その状況が一般生活者にリアルに伝わっていないのでは?ということです。

ー医療行為を受けることができなくなる未来がある、ということでしょうか。

ハードルが高くなることは予測されます。

少子高齢化により、2040年には日本の全人口に対する高齢者の割合が、過去最大の約35%に到達し、労働力不足、社会保障費の増大といった社会危機が起こりうると言われています。いわゆる2040年問題ですね。

医療業界でも大きな影響が予測されており、厚生労働省の試算では、2040年時点で医師が5万2千人不足 というデータが出ています。

ー医療行為を行える人が不足する、という問題ですね。まず単純に病院にかかりにくくなることが予想できますね。

もちろん国を挙げての対策として、早期人材育成や労働環境改善など整備が進められています。

その柱の1つが、医師業務の一部を、他の医療職種人材で行えるよう法改正や制度構築が行われてきた「タスクシフト」というものです。これによって医師の業務のうち25~40%相当が、看護師・薬剤師などの他の職種へ移管可能になるだろうと言われています。

ところが、実態としては業務の受け手であるそれらの職種も同様に人手不足が進むとみられており、例えば看護師は約25万人、薬剤師は約5万人もの不足が見込まれているのが現状です。医療従事者全体の抜本的な確保が喫緊の課題であることは変わらないのです。

これにより、いま身近にある医療は今後、誰でもあたりまえに受けられるものではなくなってしまう可能性がある。これが大きな問題と捉えています。

ーこれがひとつ目の「とじる」ですね。医療への道が閉ざされかけている、と。

医療者同士のシフトでも間に合わないのであれば、でき得る対策は、医療者の先にシフトすることです。つまりは患者・患者家族で出来ることを増やすしかありません。もっと言えば、健康であり続けられるよう、すべての一般生活者が自らやれることを増やすしかない。

これは日本国民全員で考えなくてはならない問題ですが、まだまだ認知も広がっておらず、危機感にも差がある状態です。

ー実感は得難いのが正直なところです。

そうですよね。
生活者の意識はもちろん、医療業界内にも壁は存在し、この壁が道を「とざして」いるのも現状です。

ーもうひとつの「とじる」ですね。

はい。
人の命を預かるという重責が伴う医療は、高度な技術と専門的な知識を持つ方々の厳格なルールと秩序、そして情熱によって支えられている業界です。我々が取組をご一緒している医療者の皆さんは本当に素晴らしい志を持って医療に従事されています。

高い専門性を求められる世界であるがゆえに、実績と経験を積むため、医療従事者の方々は自ずと専門性を極める環境に長く身を置くようになり、組織や体制も縦に分かれた構造になります。そうなればどうしても限られた人間しか踏み込めない領域が生まれやすくなります。外からはその中が見えにくく、中にいる人も外に共有が出来にくくなります。

職種や部門単位の組織構造が強固であるがゆえに、一般的な業種と比べて横断型の情報共有や連携の難易度が高いのが医療業界の特徴であると感じます。これは我々がこれまで200社を超えるクライアントやパートナーとお取り組みをし、私自身も数千人の医療者の方々と対話してきた中で感じた、率直な感想でもあります。

医療業界の敷居は、人の命を預かる立場であるがゆえの必然性の下で築かれたものとも認識しています。ですが見方を変えると、内と外を隔てる壁、閉ざされた扉になっているようにも感じます。
たとえば、診療科目ごとの壁、職種が持つテリトリー、医療従事者と生活者の境、がそれに当たります。

そしてこの壁や扉は、生活者の医療知識が乏しいがゆえにできている側面もあります。患者にとって最適な医療は、本来ならば患者自身で選択し判断すべきもの。ですが実際は専門性の高い医療知識がなければ良し悪しの判断はできない。結果として生活者は医療者への信頼と同時に、期待や依存も高くなり盲目的になってしまう。あるいは、逆に医療を避けたり遠ざけそうとする人も出てしまう。

そうならないためにも、我々は患者や生活者が医療情報にアクセス出来る機会を増やし、医療に参加する意識を高める場所が必要になると考えています。これらの「とじ」をひらき、医療と生活者のかかわりを変える。2040年にやってくる社会の状態に向けた取り組みがこのプロジェクトなんです。

この問題は日本の国民全員が当事者である

ーそう遠くない、危機的な未来に向けてのアクションなのですね。では、このキャンペーンによってどのようなことを叶えようとされているのか、教えてください。

患者や一般生活者が医療に参加する意識を醸成すること、医療情報にアクセス出来る機会を増やすこと。そのために必要な医療業界そのものの門戸をひらくことを目指しています。

ー具体的にはどんなことが想定できるでしょうか?

一例として、重篤な病気を克服して社会復帰された方のその後についてお話しします。

社会復帰後の課題は実は様々存在しています。
病気の再発の恐れはもちろん、治療の副作用、孤立、精神的な負担から心の病気など別の疾患に繋がってしまうケースが多々あります。

ですが、この予後の患者さんが医療にアクセスする方法は実はすごく少なくて、リハビリや精神的ケアといった支援環境は十分とは言えないんです。定期検査や通院が終わり医療機関から足が遠のくと、一度治療を受けて完治したがゆえに逆に見逃されてしまうんですね。

そこで患者自身や家族、生活者の方にある程度の医療やセルフケアできる環境があることで、こういった方々を救うことができます。2040年の医療従事者の不足環境では、こういった「予後」や「未病」の方々を救える状態に持っていく必要があるんです。

ー医療の情報や手法がオープンになることで、病院にかからずとも健康に近づけれる人が増えると。

そうですね。
医療は治療と回復だけではありません。難病の方にとっては現状を維持し続けることも医療です。進行を止められない人に寄り添うことも医療です。患者の状態によって医療の形は変化するんです。

常に生活と地続きなんです、医療は。決して他人事ではなく、生活者みんなが当事者です。だからこそひらかなくてはいけない。

届け、つなぎ、ひらく。まずは声をあげること

ーまずはいち生活者である我々がこの状況を知り、自分ごとと捉えることが重要と理解しました。プロジェクトではどのようなことを行うのでしょうか?

このプロジェクトは以下の3ステップで展開し、様々な立場の方を巻き込んで広める想定をしています。


STEP1:医療従事者の仲間を増やし、コミュニティを形成
STEP2:医療と生活をつなぐスペシャリストを巻き込む
STEP3:集まった人たちが広げる医療の選択肢


STEP1:医療従事者の仲間を増やし、コミュニティを形成

「ひらけ、医療。」のキャンペーン目的は、自らが抱える医療課題をテクノロジーのチカラで解決していきたい仲間を募り、医療業界の外と中を繋ぐコミュニティを作ることにあります。

ただ、僕らのような医療業界の外から、いきなり壁を壊すアクションは難しいと考えています。まずは同じ課題感を感じている仲間に、中から声をあげてもらい、それを拾っていきます。

ー「中」というのは医療業界の内側、ということでしょうか。

そうです。先述した縦組織の内側にも、同じ危機感を持っている医療従事者は多くおられると思うんです。

ー2023年11月頭より行っている大々的なキャンペーンがこれにあたるのですね。医師の方々が実名と顔を出してメッセージを公開しています。

はい、まずは賛同してくださった医師の方々の声を広く大きく届けるため、規模の大きいリレーションを仕掛けました。これをきっかけに仲間を増やし、医療従事者の声が集まる場所としてコミュニティ化していくイメージを持っています。

STEP2:医療と生活をつなぐスペシャリストを巻き込む

ステップ1で形成した医療従事者コミュニティと生活者を繋ぐ存在として、医療業界以外のスペシャリストの参画を推進していきます。

というのも、医療と生活者の間にできた壁は思いのほか高く、使われている用語や慣習、文化、デジタルテクノロジー、そういったものを翻訳し、架け橋となる存在が必要だと思うんです。

架け橋となるのは、非医療の企業や団体のみならず、アーティスト、技術者、生産者、クリエイター、あらゆる分野にまたがります。

STEP3:集まった人たちが広げる医療の選択肢

ここまでで届けるフェーズを終え、ステップ3では能動的、主体的な個々人の参加を生んでいきたいです。それによりこの場所が大きなコミュニティへと成長を遂げ、生活者と医療の間の道がひらかれていく。

やがて未病や予防といったセルフケアの分野への扉もひらき、あらゆる人に取って医療の選択肢が増やせるような社会への道筋をひらきます。

当事者である私たちがすべきこと

ーこのプロジェクトを知った人にはどんなアクションを望んでいるでしょうか?

まずは、このキャンペーンを知って感じた思いや感想を、わたし達に共有いただきたいです。もちろん医療従事者、生活者問わずどなたでもお待ちしています。
※弊社キャンペーンサイトより、X(旧Twitter)Facebookよりポスト可能

日頃抱えておられる課題や個人的な問題もぜひシェアいただきたいと思っています。1人では叶えられないけどどこかに伝えたいアイデアや展望、ぜひ僕らにぶつけてください。

それを受けて、僕らが今現在できること、やることを考えて、実現に向けて動きます。僕らだけでできないことがあったら仲間を募りますし、逆に声をくださった方に相談をさせてもらうかもしれません。

ー社内メンバーも団結して取り組んでいるとお聞きしました。

このプロジェクトは発足から足掛け約半年、全社員参加で一丸となっての取り組みです。
先日行った「JOLLYGOOD WALL」という社内イベントでは、全社員がプロジェクトにかける想いをメッセージにしてオフィスの壁に書き記しました。

熱いメッセージに溢れていて、みんなの本気度に感動を覚えました。元々、大きなことを成し遂げるために少数精鋭でちからを合わせるというカルチャーが根付いている会社なのですが、今回のプロジェクトにかけてより一層、気持ちがひとつになっていると感じます。

僕も、「未来はけっこう変えられる」と思う

ー最後に、細木さん個人がプロジェクトにかけている想いを聞かせてください。

僕の中でも、大きなチャレンジのきっかけになっています。

これまでもVRとAIテクノロジーを軸とした「医療者への支援」をサービスとして提供してきましたが、このプロジェクトを通して、これまで以上に「支援の可能性をもっと拡げたい」「その為の仲間を増やしていきたい」という思いが強くなっています。

根本的な社会課題へアプローチする上で、医療業界の外にいる方々とも繋がっていかなければならない。
僕らは直接医療行為をする立場の人間ではありませんが、縁あってデジタルテクノロジーという鍵を手に医療業界の扉の中に入らせていただく機会を得ました。

そして、医療者の方々と共に課題と向き合い、業界の中で様々な実績を築いてきました。

そんな我々だからこそ、テクノロジーを活かして、医療業界の中に道を通したり、外と橋をかけることができる。それによって、真摯に医療を極めている医療従事者と、あらゆる生活者が生きるための手助けになるかもしれない。

このプラットフォームに集まる仲間と共に、生きる上での選択肢を増やすサービスの確立を目指したいと考えています。僕も、「未来はけっこう変えられる」と思っているんです。

(取材・文 橋尾 日登美)