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医師×クリエイターが挑む、前人未踏の課題

今回は、ジョリーグッドの「デジタル治療VR」の制作を主導する、2名のメンバーの対談です。前例のないデジタル治療VRを作り上げることの難しさ、共に乗り越えた困難はどんなものだったのか。まったく異なるバックグラウンドの2人だからこそ得られた学び、自身が受けた刺激、つくり上げられたものについて話していただきました。ジョリーグッドの環境ならではの成長の秘密は、必見です。

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エグゼクティブクリエイティブディレクター
丸山 安曇(まるやま あずみ)

10年以上、広告代理店でデザイナー・ディレクターとして活躍。ジョリーグッドに入社後は、全社のクリエイティブを統括。VRのみならず、発信するメッセージと社会の接点をデザインしている。
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上級医療統括顧問 精神科専門医・公認心理師
蟹江 絢子(かにえ あやこ)

国立の医療機関で精神科医・研究者として勤務していた医師。実際の臨床・医師の経験を活かし、上級医療統括顧問として、コンテンツを監修。
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クリエイター×精神科医 フィールドの違う2人で創る新しい医療

ーお2人はどのようなプロジェクトを推進されているのでしょうか?

蟹江:
DTx事業部で、VRDTx(Digital Therapeutics=DTx)事業の推進をしています。治療用アプリやVRを用いたデジタル治療のことで、精神疾患の治療を開発・コンテンツ化し提供する事業です。

そもそも、「デジタル治療」というのは、定義が定まっていない新しい言葉です。
狭義では医療機器そのものを指しますし、病気の診断・治療・予防を目的としたSaMD(Software as a Medical Device)と呼ばれるもの。非医療機器であるNon-SaMD(Non-Software as a Medical Device)は、デジタルツールと呼ばれ、健康増進や医療者を助けるツールを指すこともあります。

デジタル治療が役に立つ領域は様々あるのですが、私たちが特化している領域は、精神科など、心の分野です。うつ病の方にはデジタル治療という形で、統合失調症の方ではデジタルツールとしてコンテンツを開発をしています。

ー定義が定まっていない言葉「デジタル治療」…どれをどのように治療・事業として興して行かれたのですか?

丸山:
まず、前例がないので、どうやってつくり上げて行くか、とことん話し合うことから始めました。もちろん蟹江さんとも話しますし、患者さんにインタビューしたり、病院に視察にうかがったり。我々に何ができるのか、そして、患者さん・医療現場の方が何を求めているのか、とにかく掘り下げていきました。その中で、デジタルもしくは私たちのできることで代替できる・パワーアップできることを考え、模索していく。最初はそんな点レベルからのスタートでした。
それを治療というパッケージやソリューションにまとめ上げます。その過程でも、とことん話し合いをしていきます。本当に医療現場で活用してもらえるのか、映像の尺はどのくらいにするか、もしくは映像だけでいいのか……。あらゆる議論を重ね、何がこの医療現場に対して最適なのかを、手で探ってきました。

ーニーズ、ソリューション、すべてゼロから発見し構築していくわけですね。
お2人はバックグラウンドも専門領域もまるで違いますが、その点には刺激や学び、はたまた苦労もありそうですね。

丸山:
やっぱりカルチャーが違う、と感じる時はあります。
例えば、僕は印刷でも映像でも、すぐサンプルを作ってしまう。今までWordやPowerPointでやっていたことを、VRのシーン撮影をしてみて、とか。それをお互いが見て「これならここはこうした方が…」と進めていくのは、蟹江さんにとって新しいアプローチだったのでは、と思っています。

蟹江:
丸山さんは「分かりやすく伝えること」のプロです。私も、精神科医時代には医療者の常識と患者さんの常識を踏まえることはできていたのですが、一般の方がどう考えるのかは欠落していた要素だったと気付きました。「一般の方々にとっても分かり易いもの」をサンプルで見せてもらう中で、医療業界での仕事にも役に立つ視点が養われています。

丸山:
僕も、蟹江さんの視点を加えてものづくりをしたおかげで、気付いた事があります。改めて感じたのは、これまで作ってきた広告や映像は、本当にターゲットのことを想像しきれていただろうか?ということ。このプロダクトの中では、「良い映像の評価軸」がこれまで作っていたものと全く違う。この映像を見る人は認知機能が下がっている患者さんです。ナレーションのスピード、カット割の数など、患者さんの具体的な状態をわかっている蟹江さんがいるから、こういう視点が加わります。振り返ると、過去の自分はそこまで生活者のことを想像して作ることができていたのか、反省しました。

デジタル治療の中で、映像はツールです。症状を改善するためのものとして作っているので、伝わるかどうか、もう一段階捉え方のレベルを上げなくてはいけない。これまでしてきた、伝わるものづくりを、医療の領域で活かそうという時に、医療の領域のプロの視座をいただけるのは、自身の成長にもつながっています。


ーまさに、異業種で培った知見同士でプロダクトを磨き合っている様が浮かびます。壁やハードルはあったのでしょうか?

丸山:
作っているのは新しいものなので、一発で上手くいくことはまずないんですよね。「これは絶対いい!」と話していたものが、やっぱり違った、ということも。僕はこれまで制作畑にいて、リテイクには慣れているのですが、蟹江さんは大丈夫だったかな?と思っています。

蟹江:
私は研究者なので、事前に綿密な計画を立てるタイプです。なので、途中で変更が生じた時は、自分の責任だと思う気持ちが強くなるんですよね。もっと深く考えておけば良かったんじゃないかとか。

丸山:
しかもジョリーグッドは、プロジェクトの進行スピードもものすごい。精神科医時代は、2年とかのスパンで物事が動いてたと思うのですが、ジョリーグッドでは2年間の間にいくつもプロダクトを発表している。しかも、ひとつひとつの中で、相当数のコンテンツを作っている。密度・スピードが明確に早くなってるんですよね。

蟹江:
確かに、いろんなことに準備が必要だと思うタイプなので、スピードを伴うのが難しいと感じました。特にジョリーグッドは、自分の頭で考えて提案しましょう、アイデア勝負!という文化です。ですが、研究者として一定の学び終わりの状態にはいて、すでに知識のストックがある状態ではありました。自分の成長フェーズとして良い時期だったとも思っています。

向き合う課題の大きさがもたらす成長

ーお2人それぞれ、プロジェクトの推進を通して成長実感も得られているとのことでしたね。

丸山:
まず、ジョリーグッドが向き合っている社会の課題が、ものすごく大きなものだということを感じています。医療、精神科治療、その先にいる患者さんと、向き合えば向き合うほど痛感します。それに対して、今の我々はもちろん精一杯やっているけれども、同時にどんどん高めてもいかなくてはならない。間に合わないんです。遠慮している暇なんて無いし、聞いて、学んで、改善していく。それが我々の置かれている環境です。必要性を目の当たりにして、スピードに着いていきながら、結果的に成長しているスタッフはすごく多い。もちろん個々の成長意欲の影響もありますが、この会社が向き合ってる課題の大きさがそうさせているのでは、とすごく思います。

加えて、個人個人の成長はもちろんですが、チームとして一丸となって課題に立ち向かっていかないといけないとも思っています。この日本・世界が向き合う社会課題を解決していきたい、少しでも良くしたいというところに共感していただく方がいれば、結果的に、ここは成長の場なんじゃないかと僕は感じてます。

蟹江:
私も同じように思います。
私は医療業界にいるんですが、社会課題を解決するのは医療者だけじゃない、と思っています。もっと企業が入り込んで改善できることが沢山あります。「医療業界を企業が変えていく」というスピリットをもって、みんなで解決して、日本をより良くできたらと思っています。

丸山:
大塚製薬と共同制作している統合失調症患者さん向けソーシャルスキルトレーニングVR「FACEDUO(フェイスデュオ)」や、帝人ファーマと共同で行ううつ病向けデジタル治療VRのフィジビリティ試験は、研究レベルではなく、製品化して届けてフィードバックをもらうところまで行きました。ここまで進んでいるプロジェクトは、世界的にも数少ないです。これにより得られるフィードバックは、社会としても、企業としても、凄く価値が高いです。こうやって、企業同士がアセットを掛け合わせて、課題に立ち向かって行きたいですね。


丸山:
個人的にも忘れられないのは、ある病院の患者さんに、VRソリューションを体験してもらった時のこと。ゴーグルを外した患者さんから「これ面白いですね!」と言うと、医療者の方がニヤッとして。あの、手応えの感じ、すごく良いですよね。出来事としては、小さな一歩だと思うんですけど、そういったものが広がって最先端のところでやってるんじゃないかな、という実感はありますね。

蟹江:
自分たちが最善だなと思うことを考えて、実際にプロダクトとして患者さんに使ってもらって、フィードバックを得る。手触り感・実態がある中で、新しいものを作ってるという、という実感があります。

丸山:
手触り感があるというのは、僕もすごく思います。大変ですけど。大変なんだけど…それが、イイと思いますね。

ーお2人はこれから、どのようなチャレンジを考えていますか?

丸山:
まず一つは、伝える技術をもっといろいろな領域で試してみたいと思っています。
これまで、伝える技術はマーケティング等の世界でしか使えない、と思っていました。それが今回、医療と関わっていく中で、VRやマニュアルを実装するために、有用だなと改めて実感したんですよね。
これを、精神科以外の医療、または医療じゃない領域でも、今と同じように「治療自体」を作るマインドで課題と向き合ったら、出てくるモノが全然違うんじゃないかと思っています。そういった新しい領域との掛け算っていうのは、個人としてやってみたいです。
もう一つは、アウトプットの再現性を高めたいと思っています。医療を変える、患者さんに届けていく、という時に、エキスパートの個人の才能だけに頼るのは良くないと思うんですよね。いかに高品質なものを作り続けられる体制を作れるのか、それをパートナーや患者さん、医師の期待を裏切らずに提供し続ける責任があると思っています。

蟹江:
私は、医療業界でも、企業でも働いているという状況です。なので、患者さんに対することはもちろん引き続きやり続けていきたい。今後は加えて、一般の方に対して、この認知行動療法や心のことについて知ってもらえるようなアクションをしていきたい、と思っています。

(ライティング:橋尾 日登美)