見出し画像

地獄のローライン

中学校の英語の授業で
私が1番苦手だったものが
『地獄のローライン』だ。


これはALTの先生が来た時のみ行われる。


授業開始の挨拶をしたまま全員立ちっぱなしで
ALTの先生が出す
簡単な質問に答えることができたら
座っていい というルールだった。

そして 回答し、座る権限が与えられた者は
自分からみて
縦列か横列の生徒も一緒に座らせることが
できる。


多感な時期の学生にとって
最後まで残って立っている
ということは非常に恥ずかしく

できることなら
他力本願で座りたい
と思っていた。


出される質問は
「What is your favorite color?」

「How are you today?」
など簡単極まりないものであったが
簡単だからこそ
間違えたくない、チャレンジしたくない
と思ってしまうのだ。


自分の縦か横にいる生徒がチャレンジ成功した際は

『お願い!!!! 横!!横!!』

と小声の全力でお願いをした。


傍から見たら
そちらの方が滑稽であろうが
中学生の私たちは
そんなことより「座りたい」が勝つのであった。


私の後ろの席には
池田くんという、言わば  <天然>  な男の子が座っていた。


勉強はできるが
人とコミュニケーションを取ると
少々バグが発生することが多かった。



池田くんは
英語を得意としていたため

『地獄のローライン』は早い段階でチャレンジし
成功することが多かった。


だが
彼は絶対に「横」を選ぶ。

私の記憶している限り
「縦」と言ったことはない。

私のことが嫌いなのではないかと思ったことさえあるほどだった。



だから
英語の得意な池田くんが真後ろにいても
彼の力で、私が座れることは無いのだ。


ある日も
彼は早々にチャレンジを成功させ
横列を選び
少し気だるそうに座った。


期待など1ミリもないので
私は
「How are you today?」
がきたら
「I am fine」
と答える。

それ以外は、誰かが座らせてくれるのを祈っていた。


そういう日に限って
「How are you today?」
は質問されないし
横列は全滅だし
前にいるのはフィリピン生まれ日本育ちの
日本語も英語も曖昧なブラウンくん。

2列横の席に座る2人と
私たち2人。
計4人が残った。


このまま答えられなかったら
ブラウンくんと私だけ残って
ひとり1個ずつ問題を出される
羞恥プレイになるかもしれない。


だったら次の質問に一か八か答えて
座れる確率を上げるか…


そう考え
次の質問を待ち構えていた。




背後から

「あ、チョコ見沢さん」

と呼ばれた。
後ろの席の池田くんだ。

私の焦りが伝わったり
何か助言をくれるのかと
少しだけ期待して
振り向いた。


池田くんは真剣な表情だった。

そして
こう言った。



「橋を越えたらところにある
セブンのシュークリーム美味しかったよ」




池田くんと
シュークリームの話をしたことなど
1度もない。

そして
どこのセブンでも、そのシュークリームは美味しいだろうし

その話は
絶対に今じゃない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?