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ソナタ形式について 〜形式とは〜

ソナタ形式とは

ソナタ形式とは、ソナタでよく用いられる形式のことです。
まずは、基本的な構造について説明します。

構造

A-B-A’ という3つの部分に分けられ、Aを呈示部(提示部)、Bを展開部、A’を再現部と呼びます。

Aは最も重要な主題である第一主題と、それに対比される第二主題があります。

Bではそれらの主題やそれに内包されている要素を展開します。

そしてA’でAが再現されます。
しかし、呈示部+展開部を経た時間の蓄積があるので、 ”再現” ではありますが呈示部と完全に同じにはなりません。

また、呈示部の前に序奏があったり、再現部の後に終結部(コーダ)があることが多いです。

例として、クレメンティのソナチネOp.36 No.1を見てみましょう。

呈示部(A)

緑の線の前が第一主題(a)、その後が第二主題(b)です。

aがこの曲の基本の形となります。
aには、同音連打や3度音程などが要素として重要になっています。

bにもこれらの要素が含まれていますが、aが下行音形が多いのに対しbは上行音形が多い、という対比がされています。

展開部(B)

呈示部のaに含まれていた、同音連打や3度音程などの要素を用いて音楽が展開されます。

再現部(A')

aやbが再現されますが、少し変化があります。

調性

ソナタ形式では、調性にも基本の形があります。
長調と短調で少し異なります。

長調の場合
第一主題の調を主調とよびます。
それに対し第二主題はその属調(主調の5度上の調)となります。

先ほどの曲では、aがハ長調で、bがその5度上のト長調でした。

再現部では、第二主題も主調で再現されます。

短調の場合
第二主題は主調の平行調(同じ調号を持つ長調)となります。
例えば主調がハ短調であれば、変ホ長調となります。

そして再現部では同主長調(同じ主音を持つ長調)となります。
ハ短調に対し、ハ長調です。

これらを図にすると以下のようになります。

歴史

ただしこれらの構造は基本的なものであり、多くの曲はこの構造に忠実ではありません。
例外が数多くあるので、その場合は
「なぜ基本構造から外したのか」
を考えてみると面白くなるかと思います。

ちなみに「ソナタ形式」という言葉は、1824年にアドルフ・ベルンハルト・マルクスによって作られた言葉です。
それまで「ソナタ形式」という概念は存在しませんでした。

先ほどの説明では、ソナタ形式は「A-B-A’ という3つの部分である」と説明しましたが、実はこの考え方はロマンは以降の考え方です。

古典派の時代の18世紀には、ソナタ形式を和声の視点による2部分の構造とみなされていました。
つまり、【主調→5度調(単調の場合は3度調)】の部分と、【任意の調→主調】の部分、という捉え方です。
【第一主題+第二主題】と【展開部+再現部】とも言えます。

今回例として紹介したクレメンティの曲も、正確にはこの捉え方をしています。
展開部も短いですよね。

それが19世紀以降、主題に視点を置くようになり、【第一主題+第二主題】【主題を展開】【主題の再現】という3部分の構造と捉えられるようになりました。
この捉え方になったことで主題の内容や展開部での展開の仕方が豊富になり、曲の規模が大きくなっていきました。

形式とは

そもそも形式はなぜ存在しているのでしょうか。
それは、音楽が時間芸術だからです。

絵画とちがって音楽は時間と共に進んでいき、その瞬間はその瞬間しかなく、次の瞬間へ流れてしまいます。
つまり言い換えれば、記憶の芸術なのです。

そのため、いかに記憶に残し、それを利用するかを考えています。
形式は、その曲に"統一性と多様性を共存させる"ためのツールなのです。

形式にとらわれる必要はありませんが、便利で重要でものなのです。


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