質問事項

 しばらく髪を切っていない。
 私の髪にはクセがあるが、年と重なるにつれ、次第にひどくなってきた。髪が細くなりつつあるのだから仕方がない。何故、髪を切っていないかというと、単に仕事が忙しくて、時間が取れないだけではなく、理髪店での会話が面倒なためだ。

 数カ月ぶりに髪を切りにいくと、理髪店のご主人はしばらく会っていなかった知人に遭遇したように話しはじめる。その中で、必ず聞かれる質問が「最近の楽しみは何ですか」というものだ。

 私は、その店主に全く悪意はない。むしろ、数カ月に一度、汚いおっさんを比較的ましな姿にしてもらい、感謝すらしている。しかし、今の私に楽しみなどない。朝、携帯のアラームで起き、主食は日清食品のグラコロで、毎日部屋に寝に帰るだけの人間のどこに楽しみがあるのだろうか。

 先日、某社のWEB面接を受ける機会があった。開始後、しばらくして先方が私に興味を持っていないと感じた。話している面接官の意識の焦点が私にはないように思える。それでも、今の私にとって、最後まで面接を受けない理由はどこにもない。いろいろな方にお会いして、それが転職に結び付けばと考えている。戦い抜くことに意義があるではないが、聞かれたことに答えながら、頭の隅に浮かんでくるのは、「早よ終わらんかな」である。興味を抱けないなら、はっきり明言すればいい。そして、面接を打ち切られても、私はもはや恨みや怒りを覚えるという精神状況にない。今、端末の電源を切ったらどうなるんだろうな、と考えながら、受け答えをしていると、面接官の方がこう言った。「10年後、15年後のあなたの夢は何ですか」

 面接は、問われたからには何かを返さなければならないと私は考えている。自分の夢、と頭の中で考えを巡らせるが、何もでてこない。やむなく、御社の円滑な運営に貢献させていただけることが今の目標です、などと答え、質問をすり替える形で逃れた。

 今の私にも目標はある。退職届を出し、ロッカーから鞄を取り出してそのまま振り返りもせず退社することだ。しかし、夢はなんだろう。食うことに精一杯の生活をしている中で、いつしか夢を持つ余裕はなくなったようだ。若かった時の夢は、まともな会社で働くことだった。この夢すら叶っていない。それでも、生きている限り、拳を握りしめて戦うべきだと考えている。

 


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