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コロナ禍で「取材」はどう変わった?書き手の手腕が問われる時代に

 コロナ禍に入ってから3年が経とうとしています。流行し始めの頃、私は新聞記者1年目の終盤。ある殺人事件の取材中に「県内初感染」の一報が入り、絶望したことを鮮明に記憶しています。今では世間が新規感染者数に一喜一憂しなくなり、サッカーW杯の観客はマスクなしで大声を出して応援するようになりました。

 コロナ禍で変わったことはたくさんありますが、取材の仕方も大きく変わりました。今回は、特に長く携わっている野球取材の変化について書こうと思います。

コロナ前の野球取材

 新聞記者1年目の夏。初めての高校野球取材は宮崎県大会でした。武藤敦貴選手(都城東高出身、現・楽天)らが3年生だった年です。1日数試合取材し、戦評を書いたり、スコアを打ち込んだりと様々な作業がある中、1年目の記者が最も苦労するのが「人もの」の取材。一人の選手に焦点を当て、エピソードを交えながらその日の活躍を伝える記事です。

 まずは試合前のスタンドで情報収集。保護者や関係者に「〇〇選手はどんな選手ですか?」と聞いて回ります(事前アンケートなどである程度目星はつけていますが)。試合中に取材対象を決め、試合後に取材。選手通路から出てきたところを捕まえ、時間の許す限りじっくり話を聞きます。

 全国紙、地元紙、スポーツ紙、テレビ…など媒体によって記者の視点が異なるため、監督や主将の取材はいわゆる「囲み取材」になりますが、「人もの」の取材は対象がバラけることが多いです。そのため、会場では各所で「1対1」の取材が発生していました。ここまでが恐らく、コロナ前の一般的な取材方法です。

ちなみに取材形式は各都道府県ごと、また地方大会と全国大会、高校野球とそれ以外(大学野球、社会人野球など)で異なるため、あくまでも私の経験の中での話です。

選手を守るための「制限」

 初めての高校野球取材から1年後。まず、甲子園が中止になりました。県の独自大会は取材できたものの、「スタンド取材禁止」「試合後に取材できるのは監督+選手1人」「取材時間は5分以内」といった制限が設けられました。

 さらにその翌年(2021年)は甲子園での選抜取材に参加しましたが、全国大会で多数のメディアが集まることもあり、地方大会以上の制限がかかりました。「対面取材禁止」「試合後は監督+各社の抽選で選ばれた選手数名を合同でオンライン取材」。これはあまりにも大きな制限でした。

 普段から取材している都道府県の学校であれば、大会前に学校のグラウンドで取材することも可能ですが、全国大会では普段取材しない都道府県の学校も担当します。学校によっては、取材後のオンライン取材と、監督、コーチの携帯越しの電話取材だけで記事を書くことも。かつては宿舎の食堂や風呂場で生活をともにしながら取材することもあったと聞きますが、それどころか、選手と一度も顔を合わせることなく終わるということもザラにありました。

 こういった制限を否定するわけではありません。最も大事なのは選手たちの健康。実際、どれだけ注意を払っていても部員が感染し、出場辞退を余儀なくされるという悲劇は今でも各所で起きています。選手たちを守るためには必要な制限なのかもしれません。しかし、書き手としてはかなり苦しい状況でした。

深みのある記事を書くために

 ウィズコロナになってからは練習や地方大会、地方リーグの取材はある程度通常通りできるようになってきましたが、やはり大きな大会ほど制限は依然厳しいままです。先日取材した明治神宮大会は、敗戦チーム→勝利チームの順に選手+抽選で選ばれた選手2名が登場し、一斉に囲んで10分以内で取材するという形式でした。この時間以外は選手との接触を禁止されていました。

 このような状況下で、記事のオリジナリティを出すことはコロナ前に比べて難しくなりました。取材時間が短い上に個別で取材できない、また場合によっては顔を合わせることもできないとなれば、深い話を引き出すのは至難の業。そもそも記事にしたい選手がいてもその選手に話を聞けないということも多々あります。媒体間で記事の内容が似通ってしまうのも無理はありません。

 ただ、こういう状況だからこそ、書き手の手腕が如実に現れる時代だとも言えます。選手にとって、試合でプレーする時間はほんの一部の時間。試合に向けた練習や普段の生活に割く時間の方が圧倒的に長く、そこにこそ物語はあると思います。そんな彼らの「日常」をいかに見て、話を聞くかが、記事の良し悪しに直結するようになったのではないでしょうか。また試合当日に限らず、大会前後にだっていくらでも記事は出せます。付け焼き刃で深みのある記事は書けないという、ある意味理にかなった時代になったのかもしれません。

 選手たちをよく見て、よく話を聞く。コロナの有無に関わらず、やるべきことは変わりません。そんな取材の原点を忘れてはいけないと、改めて痛感させられた野球シーズンでした。

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