シャッターガイ改 二次創作①【タナカとカナタ】その後の話
注意:梅棒さんの舞台「シャッター・ガイ改」の完全な二次創作です。何でも許せる人向けです。
月がとっても綺麗な夜だった。タナカはうーんと伸びをして首をこきこきと鳴らした。
ネコダの街も静かに眠りについている。こんな夜は一杯飲んで散歩するのがいい。
コンビニで買った酎ハイを片手にもう一口飲んだ。苦みと甘さが口の中に交じる。
「俺はこんくらいで、いいんだよな」
アルコール度数が3パーセントであまり強くない。これ以上飲むと寝てしまうし、これくらいでちょうどいい。【弱いなー手前は】といつも兄貴に笑われる。
ほんの2口ほど飲んでもう頭がボーとしてくる。顔が赤い気がする。月明かりの下タナカはふらふらと歩いていた。
きい……きい……
何か金属の軋んだ音が断続的に響いた。
「なんだあ?」
音はすぐ近くの公園から聞こえる。
深夜だし音が響くのだろう。
「おーいだれかいんのか?」
声が小さくなりつつも好奇心でちらっと公園内を覗いてみる。ドラマや漫画なんかだとこういう時は、幽霊がいたり、事件が起きたりする。
(主人公みたいだな)
ひひっと笑うと、酎ハイをもう一口飲んで「おっっしゃ」と公園の中に入っていった。
ブランコが視界に入った途端、タナカの心臓がどくんと大きな音を立てた。
「天使!!」
ブランコには天使が乗っていた。
銀色に輝く蒼い髪も、綺麗な顔も華奢な体もどこをどう見ても天使だ。羽は見えないけど天使だと思う。
その天使が空を見上げてはため息をついている。
びっくりした。本当に天使っているんだ。
酔っているから幻覚でも見たのかと自分の頬をつねってみると、しっかりと痛みが走る。
ということは本当の本当の天使ってことだ。
「空に帰りて―のかな?」
そうかもしれない。
ブランコに乗っても空にはとんでいかねーぞ、よし助けてやろう。
よしとタナカは頷くと、「よお、助けてやろうか?」と天使に声をかけた。
「はあ?」
天使は口が悪いのか、タナカを睨みつける。
ん?ん-?
この天使、どこかで見た気がする。熊のぬいぐるみをぎゅっと片手で抱きしめている。
「なんだ、ただのガキか」
よくよく見たら天使じゃない。
天使じゃなくてあれだ。あの洋服屋の孫だ。確か自分と似たような名前だった。タカナ?カタナ?名前が思い出せないが、まあ「偽天使」としておこう。本当の天使かと思ったのに、違ったらしい。
タナカはちぇっと口を尖らした。
「こんなとこで何してんだ?」
「うっさい」
「ブランコ楽しいのか?」
「変な顔の男に話したくない」
「なんだと?」
あーん?とメンチを切って見せるが、偽天使は「ばっかじゃない?」とぷいっと横を向いてしまう。そのまま、「はあ」とまた盛大な溜息をついた。いつもならもう少し突っかかってくるのに、なんだか調子が狂う。
「おう、おめえ、元気ねーじゃん」
「うっさい。あっちいけ」
「こえーな」
タナカは肩をすくめると、飲んでいた缶をポールの近くに置いた。
そうはいっても、こんな深夜に偽物とはいえ天使を置いていくわけにはいかない。悪魔に連れていかれたら大変だ。
ブランコに乗るのは何年振りだろう
あの技は今でもできるだろうか
隣のブランコにのると、地面を蹴ってみる。ブランコは一瞬リンクするかのようにゆらりと動きと上下に動き出す。足をまげて延ばしてと意識することでちょっと楽しくなってくる。
タナカは最大限の高さまでこぐと、体操選手さながら「よっ」と言って飛び降りた。体が宙に浮かぶ。転ばないようにバランスをとって着地すると、後ろの方で乗り手を失ったブランコが盛大に跳ねまわった。
「すごっ」
思わず偽天使が放った感嘆にタナカは振り向いた。
「だろ?」
にやりとして告げると「ちっが、そんなの全然大したことない」とまた慌てて偽天使は横を向いた。
「ま、いいけど」
褒めてもらったのはちょっと嬉しい。
タナカは缶を手に取り、一口飲むとまた隣のブランコに座った。
「うー」と偽天使は呻いて口を曲げている。熊の人形を強く抱きしめたままだ。
「泣いてんのか?」
「なわけないでしょ」
でもそういう偽天使の声はなんだか震えている。
深夜に一人で泣くなんて理由は一つだ。
「あれか?失恋」
「はあああ?」
どうやら当たったらしい。真っ赤な顔で睨みつけてくる。可愛い顔をしている分怒ると怖い。こういう勘は当たる。
「交番のあいつ、嫁もらったんだろ?」
「うるさい」
やっぱりそうか。
偽天使が爽やかな笑顔の警官に恋をしているのは知っていた。ネコダの住人は、ほぼ知っているんじゃないかと思う。
「初恋は実らないとかいったらぶんなぐるからね。もう聞き飽きた」
「へ?そうなのか?」
初恋って実らないのか。そうか。初めて知った。
タナカは感心したように頷いた。
「お前よく知ってんな。俺さ、初恋だけじゃなく飲み屋の子に恋しちゃってる時も本屋の子に恋しちゃったときも、アイドルに恋しちゃったときも一回も実ったことねーんだけど、いつ実るんだ?」
偽天使は一瞬びっくりしたような表情になり「ふふ」と笑い出した。
「なにそれ、振られてばっかじゃん」
「おう、20回は振られてる。自慢じゃねーけどな」
ふんぞり返って言うと、偽天使はくすくすと笑いだす。
「自慢げに言ってるし」
「なら自慢だな」
「なにそれ」
そういいつつも笑いがとまらないらしい。
偽天使の笑顔は妙にそわそわしてもっと見たくなる。顔がじんわりと熱くなる。
おかしい。これは一体なんだろう
まあ、あまり考えても答えは出ない。考えるのは得意じゃないのだ。
「おし、笑った。あーよかった。あれだな。お前は笑った方がいい」
「は?へんな顔の男に言われたくない」
「ああーん?」
メンチを切って見せると、「変な顔、だからもてないんだって」といって偽天使はまた笑い出した。
ま、いいか
笑われてしまったが、それでいい。
天使が笑ってくれたから、きっとそれでいい。
タナカはふっと息を吐き出して綺麗な月を見上げた。
「ねえ、一口頂戴」
偽天使がタナカのもつ酎ハイに手を伸ばした。
「やらねーし」
タナカは首をっぶんぶんと振った。
天使が飲んだらだめだろう。偽物だけど天使は飲んじゃだめだ
「ケチ」
「天使は水でものんどけ」
「は?意味わかんないですけど」
次は怒り出す。怒ったり笑ったり拗ねたり泣いたり、忙しいなと思う。
「天使は水かジュースだな」
良く知らねーけど……
一瞬
風が吹き偽天使の髪を揺らした。びっくりした表情でタナカをじっと見ている。
「ねえ……天使って……誰が……」
小さなつぶやきに、「お前」と言って視線を送る。
「はあ?ばっかじゃないの」
今度は怒り出した。
本当に忙しい奴だなとタナカは思った。
了
次回「幼馴染の話」お楽しみに!
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