ミス・サイゴン Why God Why
作:アラン・ブーブリル クロード=ミッシェル・シェーンベルク
日本語訳詞:岩谷時子
日英楽曲比較、次はミス・サイゴンにします。
オリジナルの脚本・作曲を担当したアラン・ブーブリルさんは、訳詞への要望がとても厳しく、日本語訳詞を担当した岩谷時子さんはとてもとても苦労なさったとか。
「1音1文字」(=1音1音節) は鉄則、しかも発音もできるだけ英語に近づけるという条件を満たすため、情報を厳選し、それでいて全体の意味がわかるよう、表現を変えている部分もあるので、英語の原文を見ると色々わかって面白い。
ミス・サイゴンはブロードウェイで30年ほど前に(!)観たのですが、ほとんど内容を覚えておらず、歌だけ聞くとピンとこない部分もあったのですが、今回日本語版の再演を見て、英語の歌詞を見直して歌の意味がよくわかりました。
国の為に闘ったが 帰国したら白い目で見られた
戻ってきた 再びサイゴン まだ気楽さ 大使館のドライバー
When I went home before
No one talked of the war
What they knew from TV
Didn't have a thing to do with me
I went back and re-upped
Sure Saigon is corrupt
It felt better to be
Here driving for the embassy
・re-upped: (軍に)再入隊する
実は情報量の多い英語版でもこの部分がいまいちピンと来なかったのですが、クリスは一度ベトナムを離れてアメリカに帰国したのですね。そしたらアメリカではTVで戦争の報道を見て、戦争に反対する人も多く、ベトナムから帰国した兵士を温かく迎える雰囲気はなかった。そこが「国の為に闘ったが白い目で見られた」の部分(この部分の訳はすごいと思います!)それでいたたまれなくなり、軍に再入隊して再びサイゴンに旅立ったのだとわかりました。
今回、英語版のみにあって、結構重要だと思ったフレーズは
(But) why does nothing here make sense?「(でも) なぜここにあるものすべて、つじつまがあわないんだ」です。(日本語で「話がちがうぜー」と歌われてる部分)
Why is she cool when there is no breeze 「なぜ風もないのに彼女は涼やかなのか?」
Why God? Why today? 「なぜ今日なんだ?」(サイゴンを発つ直前なのに)Why am I high on her cheap perfume?「なぜ安物の香水で気分が高まるのか?」
Why me? What's your plan? 「なぜ自分なんだ?」
Why such beauty in this place?「なぜこんなきれいな人がこんなことろにいるんだ?」("filthy room" 「不潔な部屋」と言ってました)
その他もろもろ...
すべての矛盾が、この "nothing here makes sense" に集約されるなと思いました。
主よ どうして清らかな顔が
想い出を胸に ベトナムを離れよう 今
Why God? Why this face?
Why such beauty in this place?
I liked my memories as they were
But now I'll leave remembering her
Just her
歌の終盤部分で "Why this face?" が「清らかな顔が」となっているのは、前に出てきた”Why is she cool when there is no breeze”の"cool"から来てるのでしょうか。それから、最後のロングトーン「いま」の「ま」 と "her" の [-er]を近い発音でそろえたのだろうなと気づき、あっぱれと思いました。
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