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アキバ探偵シリーズ 秋葉原八十八ヶ所お遍路事件 #5

「結果を聞こう」

秋葉原は昭和通りの一角、築50年の年季を醸し出す寂れた雑居ビルの2Fに
我らがアキバ探偵の探偵事務所は存在する。
居住者の内面を表すかのようにカオスの極みを見せる雑多としたオフィス内の、申し訳程度に隙間が空いた一角に存在する小汚いソファーベッド。

その上でアキバ探偵は気だるげに腕かけに頭をのせて横になっていた。

ソファの周りには、BEEPで購入したはいいが一度も起動されていないレトロゲーム、明らかに公式ではない絵柄の今季アニメの缶バッジ、Uberで届けられたらしき近くのケバブ屋の包装紙、ジャンク通りの路上で無駄に安く売られている聞いたこともない国で作られたUSBメモリ、充電ケーブル、SDカード、「形而上学世界におけるコンピューティング技術について」と書かれた同人誌etc…..、文章で書いたら原稿用紙3枚はくだらないであろうアキバで集まる様々なオブジェクトが、モラトリアム活動家がストライキで使用するバリケードのように敷き詰められていた。

事務所の惨状に手に持っていたカバンを床….ではなくその上にひしめいているゴミの上に落とす小林少年。

「僕が三日間出入りしなかっただけで、どうしてこんなことになるんです!」
事務所内の荒れようを見て激怒する小林少年。いいぞ、もっと言ってやれ。

「万物は流転するんだよ、小林くん。常に同じものはこの世に存在せず、物事は常にうつろいゆくんだ」
だから、事務所のこの状態は至極当然のことさ、と言い捨ててソファにふて寝するアキバ探偵。

「そんな哲学的なことを聞いてるんじゃありません!物は使ったら戻せって言ってるんです!」

「この件が終わったら、片付けるよ…今はこの仕事に取り掛かっている最中だからね。多少事務所が散らかってもしょうがない」

「僕をこの三日間使いっぱしりにしただけで、先生何もやってないでしょう!そこのゲームとUberのゴミを見れば三日間ここでだらけてたのは、わかるんですよ!」

ソファの向かいにある大型ディスプレイを指差す小林少年。そこには数十時間はレベル上げとビルドに費やしたであろう、キャラクターのステータスが表示されている。

「まま、小林くん、事務所のことは皆まで言うな。いつものことだろう?ここでお互い水を掛けあってもしょうがないじゃないか?」

「何が水を掛けるですか!先生のはお茶を濁すっていうんです」

全く僕がいないと、駄目なんですから!とブツブツ言いながら、ソファの周りのゴミを自治体指定のゴミ袋に詰める小林くん。実際健気である。

「で、だ。三日間、やつらを追っていてなにか分かったかい?我が助手よ」
ふふん、と偉そうに笑いながら小林くんに不遜な態度を見せるアキバ探偵。引きこもりのゴミ山の王の癖になぜこんなに人に尊大な態度を見せられるのか、この文章を読んでいる皆さんも理解に苦しむであろう。

「まあ、分かったというか分かりたくもないというか…..とりあえず、情報は色々集めてきたんで先生に後はお任せしたいですね」

片付けて少しはマシになったソファに座ろうとする小林少年。腰をソファの上で寝ているアキバ探偵の組んでいる足の辺に落とそうとするが、寝ていたアキバ探偵が素早く場所を空ける。

「….先生、別に寝ててもいいですよ?」

「男にのっかられる趣味はないねぇ」


いけずです!と残念そうに言いながら、先程落としたカバンからゴソゴソと何かを取り出す小林少年。

この三日間で撮影したらしき、数十枚の写真と赤いマーカーで書き込みがされた秋葉原周辺のマップをソファの前のガラステーブルの上に広げた。

それに目をやり、ぱっと顔を明るくするアキバ探偵。

「….小林くん、やっぱり君は最高の助手だね」

「そうでしょう?」


ソファの上で目を合わせた探偵と助手がニヤリと笑った。

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