kintone値上げの裏側:元社員が語る、サイボウズの見えない危機



kintone値上げの裏側:元社員が語る、サイボウズの見えない危機

筆者について

本記事の筆者は、2010年代にサイボウズに勤務していた元社員です。在籍期間はそれなりに長期にわたりましたが、経営層ではなかったため、内部の機密情報は持ち合わせていません。ただし、ビジネスサイドで働いていたため、市場や顧客に対する一定の理解があります。

なお、本記事は匿名での投稿としています。

はじめに:なぜ私がこの記事を書くのか

私は元サイボウズの社員です。在籍中は情熱を持って働き、今でも会社への愛着は強く、心の中では常にサイボウズを応援し続けています。しかし、今回のkintoneの大幅な値上げを目にして、一抹の不安を覚えずにはいられません。

この記事を書く理由は明確です。私は、今回の値上げがサイボウズの長期的な成功を脅かす可能性があると危惧しているのです。そして、この危機感は社内の人間だけでは十分に共有されず、結果として必要な変革が起こりにくいのではないかと考えています。

外部の視点、それも会社のことをよく知る元社員の視点で現状を分析することで、サイボウズや、ひいては日本のSaaS業界全体にとって何らかの示唆を提供できれば、と考えています。

値上げの背景と理由:本当にそれだけなのか?

サイボウズは値上げの理由として、主にインフラコストの上昇や、セキュリティ強化のための投資などを挙げています。確かに、これらは事実でしょう。クラウドサービスを運営する以上、これらのコスト増加は避けられません。

しかし、私が懸念しているのは、この値上げの背後にある、より根本的な問題です。それは、「新たな成長戦略の欠如」です。

kintoneはすでに日本の業務アプリ開発プラットフォームとして一定の地位を確立しています。普及期を過ぎ、成熟期に入ったと言っていいでしょう。このフェーズでの大幅な値上げは、つまるところ「新規の顧客獲得やプロダクトの抜本的な進化よりも、既存顧客からの収益最大化を優先する」というメッセージにほかなりません。

増収の使い道:本当に製品強化につながるのか

では、値上げによって得られた追加の収益は、どこに使われるのでしょうか。

ここ数年のサイボウズの動向を見ていると、大規模な製品強化や画期的な新規事業への投資は見当たりません。代わりに目立つのは、テレビCMをはじめとする大々的な広告活動です。

もちろん、認知度向上のための投資は重要です。しかし、プロダクト自体の革新が伴わなければ、一時的な顧客増にはつながっても、長期的な成長は見込めません。

私が危惧するのは、この追加収益の大半が、中身のないCMや既存社員の処遇改善に充てられてしまうことです。従業員満足度は確かに大切ですが、今のサイボウズに必要なのは中長期的な成長戦略です。

kintoneの現状と未来:楽観は禁物

確かに、kintoneは使いやすさでは他の追随を許しません。しかし、エンタープライズ向けの高度な要件には機能が不足しており、大企業や複雑な要件を求める顧客の獲得ができておらず、市場拡大が期待できません。一方で、サイボウズは中小・中堅企業向けにまだまだ市場があると見ているようです。

たしかに、kintoneによるDXを必要としている中小企業はまだ多く存在します。しかし、それらの企業の獲得にはこれまで以上の時間がかかるでしょう。なぜなら、初期に飛びついてくれた「イノベーター」や「アーリーアダプター」はすでに顧客になっており、これからは慎重な「アーリーマジョリティ」や「レイトマジョリティ」を説得していく必要があるからです。

その間に、生成AIをはじめとする新技術を搭載した新興サービスが台頭してくるはずです。むしろ私が懸念しているのは、すでにkintoneを利用しているDX先進企業が、これら新サービスに乗り換えていくスピードの方です。彼らの離反ペースの方が、新規顧客の獲得ペースを上回る可能性が高いのではないでしょうか。

開発の停滞:失われつつある競争力

kintoneの現状について、さらに深刻な問題があります。それは機能の飽和と、新機能開発の長年の停滞です。

かつて革新的だったkintoneも、今やその機能は飽和状態に陥っています。この状況は、実は社内でも強く認識されています。現在の機能セットだけでは、急速に変化するビジネスアプリケーション市場で戦い続けることが難しくなっていることを、ほとんどの社員が理解しているのです。

そして、より憂慮すべきは開発のスピードです。ここ数年、真に革新的で尖った機能の開発は、そのほとんどがサードパーティ製のプラグインに委ねられています。確かに、強いエコシステムを持つことはkintoneの強みです。しかし、コア機能の進化まで外部に依存しているようでは、本末転倒と言わざるを得ません。

つまり、サイボウズ自体の開発力が著しく低下しているのです。現在のkintoneの開発現場には、新たな技術を使って市場を牽引する製品を開発するモチベーションがみられません。

この現状は、単にエンジニアの問題だけではないでしょう。経営陣が、現在の安定を良しとして、リスクを取った大胆な開発投資をためらっているという側面もあるはずです。顧客のニーズが「まだ言語化されていない段階」で先回りして機能を提供する。そんな姿勢が求められるのです。今回の値上げで、開発体制を抜本的に変えることにつながればよいのですが、私の知る限り、そういったメッセージや狙いは見えてきません。

組織の現状:安定を求める大多数

サイボウズの現在の組織文化にも、深刻な懸念があります。かつては革新的で挑戦的だった社風が、徐々に「安定志向」に傾いてきているのです。

その要因はいくつか考えられます。まず、社内に健全な競争が失われつつあること。SaaS事業が安定軌道に乗り、一定の収益が見込めるようになったため、ある種の危機感が希薄になっているのです。

さらに、サイボウズが先駆的に推進してきた「働き方改革」。これ自体は素晴らしい取り組みですが、皮肉なことに「安定」や「快適さ」を求める社員の増加につながってしまった可能性があります。結果として、リスクを取ってまで新しいことに挑戦しようという機運が、徐々に失われているように感じます。

経営層の保守化:チャレンジしない幹部たち

この「安定志向」は、経営層にも顕著に表れています。事業が順調に成長している中で、結果的に保守的な経営陣が多数を占めるようになってしまいました。結果として、リスクを伴うチャレンジよりも、現在の事業基盤をもとに、国内市場で着実に収益を上げることを優先しているのです。

この姿勢は、グローバル競争が激化するSaaS業界において、長期的には大きなアキレス腱となるでしょう。(筆者の観測範囲で、サイボウズ以外でも同様の課題は聞くので、急成長したSaaSメーカーの宿命なのかもしれないですが。)

値上げにみる思考停止:戦略不在の料金改定

ここまでに記載した観点も踏まえて今回の値上げを詳細に見ると、そこにも戦略の欠如が露呈しています。

例えば、成長の余地がほとんどない「サイボウズOffice」と、まだまだ戦略的な価格設定の余地がある「kintone」を、同一の料率で値上げしているのです。これは、各製品の特性や市場環境を十分に考慮しない、いわば「どんぶり勘定」的な値上げと言わざるを得ません。

また、今回の値上げで5ユーザー以下のプランが廃止されたことも気になります。収益性の観点からは理解できる判断ですが、果たしてこれで良いのでしょうか。

私は逆に、より小規模な事業者や、スタートアップにもkintoneを使ってもらえるよう、むしろ小口顧客向けプランを充実させるべきだと考えています。彼らの中から急成長する企業が現れれば、それはkintoneの成長にもつながるはずです。小規模で使い始めて、その効果を実感すれば、自ずとユーザー数は増えていくはず。(過去の売上の実績をみて、5ユーザー以下の売上貢献が少ない・かかるコストが大きいというので、単純に切り捨ててしまったのだとすると、自分たちの強みを忘れてしまったのかと感じざるには得ません。)

今回の一律値上げと小規模プランの廃止からは、そうした戦略的な思考を感じ取ることができません。kintoneの強みである小規模ユーザーの存在を軽視し、短期的な収益性のみを追求したような印象を受けます。この判断が長期的にどのような影響をもたらすのか、注視していく必要があります。

ビジネス提言:無料版kintoneで新たな成長の芽を

ここまで、今回の値上げに関する懸念点を述べてきました。しかし、批判だけでは建設的ではありません。そこで、一元社員の立場から、サイボウズの更なる発展のための提言をさせていただきたいと思います。

小規模事業者向け無料版kintoneの提供:圧倒的シェア獲得への道

今回の値上げで、9ユーザー以下の小規模プランが廃止されました。このセグメントはもはやターゲットではないという判断なのでしょう。

であれば、逆転の発想で、この層向けに無料版のkintoneを提供してはどうでしょうか。この戦略は、kintoneを圧倒的なシェアを持つサービスへと成長させる可能性を秘めています。

小規模ユーザーの利用におけるkintoneの利便性・活用効果は折り紙つきです。小規模で使い始めて、その効果を実感すれば、自ずとユーザー数は増えていくはず。そうすれば自然と有償版への移行も進むでしょう。何より、この策によってkintoneの裾野が大きく広がることが期待できます。

もちろん、無償ライセンスの提供には原価の問題がつきまといます。しかし、それを理由に無償版の提供をあきらめる必要はありません。無償版に関しては、一部の機能やスペックを落とし、必要最小限の機能に絞って提供することも可能でしょう。例えば、アプリ数の制限やストレージ容量の制限、一部の高度な機能の制限などです。

このアプローチにより、小規模事業者はkintoneの基本的な価値を十分に体験でき、成長に合わせて段階的に有償版にアップグレードしていくことができます。また、サイボウズにとっても、原価を抑えつつ、潜在的な顧客を大量に獲得できるというメリットがあります。

さらに、こうした戦略は従来型のマーケティング手法と比較しても、はるかに大きな効果が期待できます。高額なCMや広告キャンペーンにお金をつぎ込むよりも、実際に無料でkintoneを使ってみるユーザーを増やす方が、潜在的なマーケティング効果は大きいでしょう。

kintoneが真の意味で圧倒的なシェアを獲得するためには、小規模事業者を含む幅広いユーザー層にリーチする必要があります。無料版の提供は、そのための強力な武器となるはずです。それは単なるプロモーション施策ではなく、製品そのものの価値を伝える最良の手段なのです。

サイボウズには、長期的な視点に立ち、この戦略的な選択肢を真剣に検討してほしいと思います。大胆な無料戦略が、結果的に最も効果的なマーケティングとなり、kintoneの圧倒的な優位性を確立する近道になるかもしれません。

過去の教訓を活かす

「でも、無料版の収益化は難しいのでは?」

そんな疑問の声が聞こえてきそうです。確かに、サイボウズには過去に「サイボウズLive」という無償サービスを提供し、収益化に苦戦した経験があります。

しかし、kintoneには「サイボウズLive」とは決定的に異なる点があります。それは、充実したエコシステムの存在、とりわけサードパーティによる多様なプラグインです。

プラグインを活用した新たな収益モデル

kintoneの活用にはプラグインが欠かせません。現行の正式版では、各ユーザーがサードパーティのプラグイン開発者と直接契約するため、サイボウズにプラグイン利用の収益は入りません。

しかし、無料版ではこの仕組みを少し変えてみてはどうでしょうか。例えば、プラグインの利用料の一部(たとえば30%)をサイボウズが受け取る、といったモデルです。

App StoreやGoogle Playのように、プラットフォーム提供者がアプリ販売の一部を収益として受け取るイメージです。無料ユーザーであっても、業務に欠かせない便利なプラグインは利用するはずです。それが新たな収益源となる可能性を秘めています。また、このモデルは、サイボウズだけでなく、プラグイン開発者にとってもメリットがあります。無料版の登場でkintoneのユーザー数が飛躍的に伸びれば、それだけプラグインの潜在顧客も増えるからです。

今回、サイボウズが切り捨てようとした小規模ユーザーは、エコシステムのパートナーにとっては、重要な顧客かもしれません。エコシステムという武器を最大限活用する戦略につなげれば、新たな収益源の確保と、ユーザー基盤の劇的な拡大が同時に実現できるはずです。

求められるのは、目の前の増収や値上げではなく、このようなビジネスアイデアの検討と実行ではないでしょうか。世界に通用するSaaS企業に成長するための、サイボウズの次の一手に期待しています。

おわりに

 

おわりに:過去の成功体験からの脱却を

以上、やや厳しい論調になりましたが、これはサイボウズへの期待の裏返しです。日本を代表するSaaS企業として、単なる値上げではない、真の意味での「次の一手」を打ち出してほしい。それが、元社員としての率直な思いです。

この記事が、サイボウズの、そして日本のSaaS業界の明るい未来につながる議論の契機となることを願っています。

(本人特定を避けるため、文章の一部を生成AIで記載しています。)


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