掌編小説 たばこの始末は。 星新一風ショートショート ブラック
ある国では、たばこは健康を害するものとして大統領により禁止された。
ある喫煙所で、男たちがたばこを吸いながら、ぐだぐだ話しをしている。
「たばこを吸うのも肩身が狭くなたなあ」
「家でも、妻や娘に嫌な顔をされるし、ベランダで吸うと、隣人から苦情がくるし、困ったよ」
「昔はどこでも吸えたもんだよ。電車でも映画館でも」
「たばこも、随分、高くなったし、たばこはもう高級品だよ。たばこの値段を上げても止められる訳ないさ」
「しかし、たばこ嫌いの大統領が、たばこを禁止したのに、なんで、国のあちこちに、こんな立派な喫煙所を作ったんだ。喫煙所だけではたばこを認めるなんて不思議で仕方ないよ」
「そうだなあ。この喫煙所だって、耐火性は従来の喫煙所の何百倍だって言うぜ。爆弾が落ちたってビクともしないらしいじゃないか」
「大統領は、たばこを禁止すると言っても、建前で禁止しただけで、たばこを吸う者の権利を認めているのさ」
と、まあ男たちは好きなことを言っている。
この時、喫煙所を監視する政府の役人は、ため息をついた。
「馬鹿だな」
とつぶやくと、役人は、赤いボタンを押した。
テレビでは、国営放送のアナウンサーがにこやかにニュースを読んでいる。
「おはようございます。朝のニュースです。今日でたばこをが禁止されてからちょうど一年です。昨年の一年間で、わが国の喫煙者の数は半減いたしました。専門家の分析によると、喫煙所の効果だということです。喫煙者のみなさん、たばこは喫煙所で吸いましょう」
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