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妊娠①

生理が遅れている。
まさか…という気持ちで検査薬を買ってきた。

検査すると、線二本が出る。
妊娠…スプーンさんの子だ。



今日は彼と話をしてきた。
3時間半、スコセッシの映画と同じくらい。

なので今回のnoteは長いです。。


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久しぶりに会ったスプーンさんは髪がさらに伸びていた。半袖半ズボンじゃない彼を見たのは初めてだ。セーターの下に私のプレゼントしたTシャツを着ている。

彼は俳優業をしている。

今度テレビの撮影を控えてるらしい。

あたたかい河原沿い。

途中スーパーに寄る。だんごが食べたいというのでだんごを買う。

彼が私の家方面に来たのは、7月ぶりの事。(初めて会った時以来)
遠かったでしょ?と聞くと、うん…でもこれをいつも通ってきてくれてたんだもんな。と言うスプーンさん。

マイペースに空の写真を撮ったり、
河原の茂みを探索し、枝を拾ったりする。

彼はどんな時でもマイペースだ。
これから自分達の妊娠について話す時でも。


この川の対岸に私の家がある。
いつも見えてる景色が川を挟んだだけで違って見える。

河原沿いにベンチが3つ並んでいて、そこの一番左端で話をする事にした。

いざ話す…と私が身構えてると

今日は傷つけたり攻撃する為にきたわけじゃないから、そこは安心して、と言われる。


🥄:まず最初に連絡もらった時、バイトの休憩中だったんだけど
気が動転したというか。フワーッとした気持ちになったよ。
自分に家族が出来る、父親になる…
初めての感覚だった。嬉しかった。

どうして妊娠したって気づいたの?

👩‍🎨:生理が遅れてるのと、つわりみたいな症状が出てきたから…

🥄:前にさ、不妊治療してたって言ったじゃない?
どれくらい治療してたの?

👩‍🎨:1年。
病院に通ったのは1年だけど
旦那さんとは
6年交際して、結婚6年経っても妊娠しなくて。それで今回初めて妊娠して…
自分が妊娠できるんだ、って驚いてる。


🥄:俺最初に妊娠してるって聞いた時
ひどいかもしれないけど騙された、と思った。
妊娠しないって言ってたから。


👩‍🎨:…………。



スプーンさんの考えはこうだ、
一番大切なのは私の今いる息子くんだと思ってる。
子どもがもし産まれても
俺は一生罪の意識みたいなのに苛まれる。

俺には俺の人生がある、親にも散々苦労かけたから親孝行しないといけない。
頼むから、わかってくれ。

つまり、堕してくれ、と。

彼は唇を震わせた。

…私は妊娠してるってわかって嬉しかった。
好きな人の子供だから。

どんな形であれ産みたいと思ってる、と。

私は今日何を言われようとも、絶対にブレない、と決めてきたのだ。

深いため息をつくスプーンさん。

👩‍🎨:わかってくれると期待してた?

🥄:半々くらいかな…
逃避しよう、現実を生きるためにって
最初言ってたじゃない?
会ってる時間楽しむからこそ、現実を丁寧に生きる。そんなつもりでいたんだよ。

君はさ、好き好きってすぐ感情的になるじゃない?
だから最近さ、あんまり会わないようにしてた。
気持ちの熱量が違うから。

最初から、俺は君を家庭ありきの人としてみてる。家族がいる人として。普通に付き合ってるのとは違う。

好きになるって事はさ、
相手の事を冷静に見ることなんじゃない?
相手の立場とかさ。


あと、今言うことじゃない本当に小さな事なんだけど…

👩‍🎨:なに?言って。

🥄:いつもうち来てトイレ使うじゃない?
でも君はトイレのスリッパを揃えない。

…絶句。そんな事…


🥄:もし本当に好きだというなら
相手の気持ちも冷静に見てほしい。

👩‍🎨:思いやってたつもりだったよ…
むしろ、いつも合わせてた。
何で私ばっかりうちに行かないといけないんだろう、
会う日にちはスプーンさんの都合次第で。

🥄それはさ、働いてるからだよ…

👩‍🎨いつもどうしたら喜んでくれるんだろう、
パンもどれだったら喜んでくれるんだろうって考えてた。

🥄……。

君は俺と会ってる時自分の家族の事はどう思ってたの?

👩‍🎨:…考えてなかった。
自分が分離して、女の部分があなたに恋してた。
家族の事はどう思うか…って。うーん…

いつも夜寝かしつけの時間になると、
おやすみー、って2人とも上に行って
旦那さんはリビングの電気を消していっちゃう。
真っ暗なリビングに1人残されて。

私、いらないじゃん、って。
この家に私いらないじゃんってずっと思ってて。

🥄それを、旦那さんと話し会った事はないの?

👩‍🎨:ない…

だんご食べます、とだんごを一本ずつ
食べるスプーンさん。


🥄:もしその子どもが生まれて
旦那が疑ってバレた時、
真っ先に俺にくるって思わない?

俺の人生のことはどう思ってるの?

👩‍🎨…本当の意味では、スプーンさんの事好きじゃないのかもしれないね…

🥄うん…

日が陰ると寒くなる。
私はスプーンさんからカーディガンを借りてお腹にかけた。

🥄:それに君の子ども。

君の子どもが一番。
子供時代に受けた傷っていうのは
一生残ると思う。

俺はそんな十字架背負いきれない。 

俺には俺の人生がある…


何度も頭を抱えるスプーンさん。

タバコ吸っていい?
と初めて私の前でタバコを吸うスプーンさん。
もちろん煙がいかないよう、離れたところで。

相変わらず、かっこいいな…
いくら傷つけられても
彼を好きなのが、つらい。

私は体がだるくてベンチで横になる。


すべてに罪悪感しかない。ボソリとスプーンさんが言う。

きちんと最初に会った時に、
関係をハッキリとさせておけば良かったと今は思うと何度も言う。

避妊しなかった事への後悔も。

🥄:でも誕生日にスノーマンのコップとキーホルダー、くれたの嬉しかったから…
いつも眺めてたよ。

俺の頼みをわかってくれないか。

さっき半々くらいって言ったけど

わかって欲しかったんだろうな…俺。

俺そんなに強くないからさ…。

泣くスプーンさん。

頭を抱える2人。

👩‍🎨:あのさ、今日だけじゃ決まらないよ、きっと。もう時間だ…

🥄:お互いの着地点が見つからなかったのが残念だ…


そろそろ私が子供をお迎えに行かないといけない。

歩き始めると、
私のカバンを持つよと言うスプーンさん。

堕して、って言うのに
なんでカバン持つの?!
私はスプーンさんの手を振り払う。

それとこれとは別…と言うスプーンさん。

👩‍🎨今日会いたくなかった。
🥄そうなの?
👩‍🎨動揺するってわかってたから。

🥄でも結局先延ばしになるだけだよ…

2人無言で坂道を登る。
登ってる途中で彼の腕を掴んだ。

私は抱きしめてほしかった。

抑えてた気持ちが爆発して彼にしがみついて泣いた。

うう、うう…と
しばらく泣く。


お互いこうなりたくて出会った訳じゃないもんな
ごめんな…

と今度はスプーンさんが泣く。

スプーンさんの方が涙脆い。

お互い手を繋いで、一駅歩く事にした。

歩きながら、ふと
なんでそんな事いったかわからないけど、

「ねぇ、私何人と会ったと思う?
ティンダーで」

えー

2?

3?

5?

8?

じゃあ1人?

全部に首を振る。

全然当たんない、何これ、と笑うスプーンさん。

20?

30?!

惜しい、という私。

34!

当たり。

スプーンさん34人目。
(会ってるのは40人だけど)


🥄そんなに会っとるんかい。面白!
その中の何人と関係があったの?

👩‍🎨2/3…

スプーンさんは?

🥄えー、ちゃんと数えてないからな…
7〜8人かな

👩‍🎨その中で関係を持ったのは?

🥄1人。

私は疑ったけど、そうらしい。

🥄そんなに会ってて…

👩‍🎨なに?
なに、言ってよヤリマンクソビッチだって?

🥄違うよ笑
せっかく人がオブラートに包もうとしてるのに笑
たまにすごい強い言葉使うよね。

👩‍🎨で、なに?

🥄いや、そんだけ寂しかったんだなって…

👩‍🎨うん、そだね…


🥄どうして俺なの?

👩‍🎨そんなの、公衆の面前で言えないよ。

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あなたの低い声が好き、
匂いが好き、
右曲がりに曲がったおちんちんが好き。

そんな事言えないよ。

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駅の近くになると手を離した。

👩‍🎨撮影頑張ってね

🥄うん

👩‍🎨また連絡する。
あと、家に無事着いたら連絡ちょうだい。

🥄いつもの逆か笑

👩‍🎨うん

またねと手を振り別れる。


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彼とはもうセックスをしない。
もう出来ないだろう。

もう会わないかもしれない。

これきり…?

とりあえず彼が使ってる柔軟剤はソフランのオレンジという事がわかった。
私は恋しくなったらソフランの匂いを嗅がないといけない。



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