父の成長をビシバシ促す子どもたちによって生まれた「即興ものがたり」
「ねえ、父、〇〇の話して」
真っ暗にした部屋に寝転がる32歳の私。
両隣には3歳と1歳の子ども…
昨年の夏頃、
夜寝かしつけの度「〇〇」に毎回違うお題を入れてリクエストしてくる時期があった。(今も形を少しずつ変えながら継続中)
初めの頃は、
『フクロウの話』
『消防車の話』
『恐竜の話』
こんな感じ。
どれも即興で話をはじめ、
「適切な」長さを求められる。
案外こういうアドリブが苦手ではないので(どちらかというと得意)、眠さと戦いながら話していく。
心の中で「(お!なんかいい感じの展開になるかも!)」なんてこちらも楽しみながら話すことも。
しかし、ある晩…
「ねえ、父…
『赤ちゃん怪獣とオバケの話』して」
驚き桃の木山椒の木。
いきなりのレベルアップ…!
本当なら
「あー、面白い組み合わせできるようになってるなー、成長感じるなー。うんうん。」
なんて感慨深く思えると良さそうな場面だけど、
実際は
「おいおい、まてまて。」
と心の中では大慌て。
怪獣とオバケという2つのお題…
しかも怪獣は赤ちゃん…
「(こ、こういう時は題材をもらおう…
『怪獣のバラード』という歌があるな
ひとまずその怪獣をモチーフでいこうか…)」
こうしてなるべく焦りを見せず
とにかく話し始める。
(以下、話した時の表現とは少し違うけどなんとなくの流れ。子どものスパルタトレーニングによって比較的長い話になり、話している途中で結末までパッと閃いたやつだったので残してみます。ここから先は物好きな方だけどうぞ。)
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『赤ちゃん怪獣とオバケの話』
赤ちゃん怪獣
ある砂漠にひとりぼっちの赤ちゃんの怪獣が暮らしていた。
ある日、遠くから旅をする人たちの鈴の音が聞こえてきた。
寂しくてたまらなかった赤ちゃん怪獣は叫びながら走り出す。
「おーい!そこの旅の人たち!一緒に旅をしよう!海が見てみたいんだ!」
しかし、いつまで叫んでも走っても追いつくことができない。
むしろ叫べば叫ぶほどに旅団は遠ざかっていったのだ。
赤ちゃん怪獣はついには諦めて、またひとり歩き始めた。
「なんだよ…もう!」
オバケ
所変わって、数日後の話。
ある街に1匹のオバケがいた。
こちらのオバケもひとりぼっち。
その姿を見るとみんな怖がって逃げていってしまう。
その日も1匹寂しく酒場の端っこで隠れながら周りの人たちの話を聞いていた。
「おい、そういえば、この前の砂漠で聞こえた叫び声なんだったんだろうな?」
「ああ、あれは砂漠にひとり暮らす赤ん坊の怪獣だ。仲間を探していたんだろうな。」
「そうか。だから一緒に行きたい、海が見てみたい、と叫んでいたのか…かわいそうなことしたかな…。」
「いくら強い怪獣でも1匹は寂しいんだろう。」
「だけど赤ちゃんでも怪獣だ。仕方ない。」
オバケはそんな話を聞いて
すぐに体が動き出した。
そうして一度も町を出たことのないオバケは初めて旅に出た。絶対に会わなきゃと思った。まだ見ぬ赤ちゃん怪獣を探す旅が始まった。
出会い
ある日、赤ちゃん怪獣が砂漠を歩いていると、向こうのほうから同じように1人とぼとぼ歩く何かを見つけた。
徐々に近づく、白く、ぼんやりと透けているような姿。様子が変だ。
なぜならその白くぼんやりとした影は自分の方を一直線に見つめながらぼろぼろ泣いている。
「君が赤ちゃん怪獣か。君に会いたくて歩いてきたよ…」
2人はそこに座り込み、しばらくお互いに話したり聞いたりした。
「ぼくの旅の目標はもう叶った。君のしたいことは何かあるかい?」
赤ちゃん怪獣は答えた。
「仲間と一緒に旅に出て海を見に行きたいんだ」
何故か嬉しそうにオバケは言った。
「…海?ぼくも見たことない!!」
そうして2匹の旅は始まった。
旅路
随分と歩くと光り輝く水面が見えた。
海だと思って走り出した先はオアシスだった。
そこには疲れを癒す動物たちが集まっていた。
ヘンテコな2匹の組み合わせに逃げるものもいた。
だけれど「面白い旅をしていそうだねえ」と話しかけてきてくれたラクダの親分が「確かに海はある」と教えてくれた。
何日も何日も歩いた。
話さなかったり話したりしながら歩いた。
隣で一緒に歩いている存在が心強かった。
歩いて歩いて歩いて、また歩いた。
そして、2匹は海にたどり着いた。
もともとあった、もともといた
2匹とも初めて見る海にえらく感動して無言で見入っていた。
「海は初めてですか?」
砂浜を散歩していたご婦人が話しかけてきた。
「ええ、どちらも初めてです。海を見たくて旅をしていたんです。」
海を見ながらオバケが答えた。
しばらくしてからオバケはギョッと横を見た。
「…あの、さっき、ぼくたちに話しかけてくれたんですか?」
「ええ、そうですよ。私たちの海をこんなにも目をキラキラさせて見る方たちがいて、私の方が嬉しくなってね。」
「…えー、あのー、ぼくたちオバケと怪獣ですけど逃げないのですが?」
「ふふふ。逃げませんよ。」
2匹は初めて人間と話した。
「旅でお疲れでしょう。うちでお茶でも召し上がって?」
しばらく2匹と1人で砂浜を歩きだした。2匹は不思議な気持ちだった。しばらくすると町が見えてきた。
すると、オバケのあるようなないような足が止まった。
赤ちゃん恐竜とご婦人が気付き振り返るとオバケは泣きながら笑っていた。
「なんだよ…!
ぼくが住んでいた町じゃないか!!」
完
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他の即興ものがたりもだいたい主要キャラクターがひとりぼっちだったり強烈なコンプレックスを抱えている。笑
子どもたちよ、父は本当は暗いんだよ。
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