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【憑(の)り移れるのは一分だけ。】

さっきまでいじめられていた少年は、
バスケ顧問の先生に呼び出され、職員室に来ていた。

「え~~君に伝えなくてはならない事実があるんだ。」

やる気のない目の前に座るバスケ顧問は、だらだらと口を開く。

「廃部(はいぶ)が決定した。」

絶対に聞きたくのない一言だった。

「先日の0ー187が決定打だったようだ。
教育委員会に電話が殺到してね、、あまりにも酷い試合内容だったと。
実力もない、人もいない。 それで昨日、学校長と先生たちで
話し合ってもらったんだ。 その結論が”廃部(はいぶ)”だよ。」

追い付かない頭に反し、
目の前のバスケ顧問は淡々と続ける。

「最後に1試合だけ試合を設けてもらったよ。なぁーに、 
学園長だって鬼じゃない。いわば”お別れ試合”みたいなもんだよ。
もちろん最後だからね? 近隣に住まれる方々や君たちの保護者、
”全生徒”のみんなも観客席に入れてくれるそうなんだ。
直々に学園長も来て下さる、感謝するんだな。」

「え、、、全生徒も観客席に入れるんですか、、なんで、、?」

笑いながら、バスケ顧問は答える。

「当たり前じゃないか? 廃部(はいぶ)するんだよ?
これでもう終わりなんだ。
ここの生徒も、気付かぬ間に”バスケ部廃部”していました、、なぁんて、
みんなびっくりしちゃうでしょ? 完全に学園長直々のはからいさ。」

少年は学園長を一度も見たことがなかった。というより誰も
学園長の姿を見たことがなかった。学園長はその”冷酷さ”で有名で、
彼の指図一本で、ばったばったと教員たちが飛ばされていた。

(全生徒が来ること、、学園長が直々に観戦しに来ること、、
え、、、終わった、、、)

バスケ部顧問がまるで苦虫を嚙み潰したような顔で言う。

「対戦高校は、、湘鳳(しょうほう)高校だよ。」

その言葉に案の定、、
どんどんと顔が、、真っ青になっていく泣き虫くん、、

「いったい、、学園長は何を考えているのやら、、、
湘鳳なんて、、毎年必ず”全国ベスト8”に入ってくるバケモン高校だよ、?
それをなんで”廃部するバスケ部”にぶつけてくるのか、、、」

「ぐっっへ、、、、」

少年は、貧血症状が出まくっていた。
まさか”湘鳳(しょうほう)”という言葉が出てくるなんて。

「学園長は人脈と権力が半端じゃないからね、、
かの湘鳳高校でもぼくたちみたいなのに試合を受けてくれるのは、
そういうことなんだ。
まぁもちろん、、条件付きだけどね?、」

「条件付き、、?」

バスケ顧問は面倒くさそうに言った。

「 ベンチメンバーだよ、 きみたちの対戦相手。」

少年は、目瞬かせる。

「本命のレギュラーメンバーは、全員ベンチで見守っているよ。
君たちはベンチメンバーいわば”2軍”と戦うことになる。
良かったね、?」

いたずらっぽい表情で目の前のバスケ顧問は笑みを浮かべた。
その笑顔に反して、心の底から絶望する。

「もう帰っていいよ、教室。授業でしょ?」

その先生の言葉に、少年は職員室をあとにした。
教室へ向かう彼の顔面は、もはや崩壊寸前だった。。。



「先生っ、、目を覚ましたっ、
かれが、、意識を取り戻しましたっ、、! 」

病院内の一室で、はり叫ぶ担当看護師。
担当医師も慌てて一室に走り向かう。

病床で横たわる彼は、病院の天井をじっと見つめていた。
駆け付けた担当の医師が彼に問いかける。

「僕の声は聞き取れるかい?」

横たわる彼は、天井をじっと見つめたまま、ゆっくりと口を開く。

「ええ先生 ちゃんと聞こえますよ」

安堵する担当の医師や看護師。
担当の医師は驚いた表情で口を開く。

「これは奇跡(きせき)だよ、、君は半年前の”バス転落事故”から
ずっと意識が戻らないままだったんだ。
半年も意識不明で、まさか、、目を覚ますなんて、、」

かれはずっと無表情のまま、天井を見つめていた。
じっと天井を見つめたまま、冷たい声でかれは言った。

「せいとたちは どうなったんですか?」

その質問に押し黙る担当の医師と看護師。
覚悟を決めた表情で、医師は彼に事実を伝える。

「運転手の君以外、生徒七名全員、亡くなったよ。」

それでも必死で取り繕う医師。

「でも君が悪いわけじゃない、、あれは代えがたい事故だったんだ。
警察も”交通事故”の一つとして、処理を進めているそうだ。
これから色々事情聴取をされるとは思うけど、でも
けして自分を責めてはいけないよ、?」

病床で横たわる彼に、諭(さと)すように伝える医師。
彼への検査を進めるため、一室から出ていく医師と看護師。

天井を見つめて横たわる彼は、なぜか満面の笑顔だった。


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