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君が好きだと言ったから。

喰は今まで人よりかは恋愛という物を経験してきた気がする。恋愛と呼んでいいものなのか少し心配になるが。

その中でも一生忘れることの出来ない、今の言葉を使うのであれば「エモい」お話をここに綴らせて欲しい。

喰が14歳。中2の頃である。当時、喰は部活で野球をやっていたが、訳あって卓球部に転部。きつい部活から解放されてなのかあまりに中2は調子に乗っていたので、思い出したくもないが、1つ覚えていることがある。

好きな人がいた。

ざっくりお相手のプロフィールを紹介するなら、身長は高く、明るい。みんなにも人気でいわゆる「アイドル」のような存在だった。

直接話したことも無く、クラスも1番離れていたからよっ友でもなかった。

しかし何故かLINEでは会話していた。本当に思い出せないがLINEグループを通じて自分から話しかけた。ここら辺が妥当だろう。

話の大体は好きな音楽についてだったが、好きなものを話す明るい口調と何処かへ消えてなくなってしまいそうなその容姿に段々惹かれていった。

そんなある日、彼女からGReeeeNが好きだと話しをされた。今まで好かれるために頑張って話を合わせてきていた僕にとって相槌をし、程よく流すことなんて容易だ。しかし今回は上手くいかなかった。

「なんで好きになったの?」

なんでって…理由なんてあるはずが無い。好きでもないしほとんど聞いたことも無い。その場は「いつかはなすね」と言って逃げた。

後日彼女から1つのメッセージが来た。フルアルバムの【いいね!(′・ω・`)☆】が発売されるんだそう。もちろん買うよね?とほぼ脅しのような文章に僕はたじろぎつつも「もちろん」と答えた。

しかし喰の家は、お小遣いを貰う訳ではなくテストでいい成績を取ると買ってもらえるという完全報酬型だった。その当時調子こいてたツケも回ってきたのかテストで平均点が80を越えたら買ってもらえるという無理難題を押し付けられた。

そこからテストまでの日は、彼女にろくに返信もせず、ひたすらに机に向かってペンを走らせていた。ただただ彼女と直接話がしたかったから。

テストの結果は、ギリ80オーバー。買ってもらえるという確約を取り付けた。そして彼女に予約したことを報告すると、アルバムを交換しようと一言。今思えば何故なのか一切分からないが、直接話したことがない僕にとっては交換なんて夢のまた夢。まるで世界で1番の力を手に入れた様な高揚感だった。

そしてアルバムが届き、放課後校舎の近くの公園に部活を抜け出し会いに行った。

目の前に立つ彼女は後光が差していた。それくらいに綺麗だった。少ししてアルバムを交換。しかしまともに話せず、喰は気まづい空気を蹴り飛ばしたいかのように錆びたブランコを必死に漕いでいた。

結局まともに話せず、日も暮れ、解散。

心残りがすごかった。そして特にその後送る文章もなくなってしまい、待ち合わせのLINEをしたこれが最後の彼女との文章のやり取りだった。

ただ彼女のアルバムを聞き、聞き、聞き続けた。もうこの感想を言うことすら出来ないのに。この曲をなるべく彼女に当てはめようと努力をすることしか出来ないのに。


時は流れ、成人式。コロナの蔓延で成人式もまともに出来ず、当時の友人と何枚か写真を撮るだけ。だがしかしその友人の輪の中に彼女がいた。

僕は出せる勇気を全てふりしぼり話しかけた。当時の事、GReeeeNの好きな曲沢山話した。時間が許す限り拙い言葉で精一杯。

すると笑いながら聞いてくれていた彼女が質問をしてきた。

「なんでGReeeeN好きになったんだっけ?」


そんなこと分かりきっている。


「君が好きだと言ったから。」

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