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とあるありきたりではない幸せについて

特に自分が幸せだと思ったことはなかった。
ある夜、急に自分って恵まれているなあと思ったことはあったけれど、部活動が厳しかったり家族とうまくいかなかったりと、ああなんだかやるせないなあと思うことも多かった。この日々がどれだけ素晴らしいものか、その時のわたしには想像もつかなかったのだ。
だが、高校卒業後、まるでそれを待ち受けていたかのように怒涛の勢いで立て続けで自分の容量をはるかに超えた様々なことが起こった。
深い溝に落ちたようだった。
落ちるまでは、自分の中に溝があることすら知らなかった。
溝の中は泥沼のようで、なかなかわたしの足を放してくれなかった。それは、しっかりとわたしの足をつかんだままだった。
薄暗い日々が続いた。
自分の周りで何が起こっているか、よくわからなかった。効能の悪いイヤホンをつけているみたいに、すべての音がぼやけて感じた。自分が一日なにを食べたか、なにを思ったか、なにをして過ごしたか、よくわからなかった。
のろのろと時間が過ぎていった。
いつの間にか服の袖が短くなっていた。
ようやく霧が晴れてきて、梅雨が明けた感じがした。
沼からまだ足を引っ張り出せていないにしろ、とりあえず雨は止んだ。

その状態が、ここ1年続いていた。
途中でいまの恋人に出会って、一緒に暮らすようになった。
毎日、恋人と一緒にご飯を食べるようになった。
その人が、おとといの夜、わたしを1番幸せにしたい、と言ってきた。
恋人にも、雨が降り注いだ時期があった。
でも、諦めなかったという。
そんな冒険物語みたいに言われても、と思う。
ただ、恋人は本気だった。
いま見えている景色はまだ晴天じゃないかもしれないけど、きっとこれからもっと明るくなるから。
そんなことを言われたのはもちろん生まれて初めてで、ありがたくてうれしくて言葉に詰まった。
これ以上ないくらい幸せだ。
こんなことを言ってくれる人がいるんだ。
わたしもこの人を大切にしたい。

文字にしたらすごく簡潔な感じになってしまうけれど、穏やかで、心地よくて、ありえないほど幸せ。





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