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よく分かる胆嚢摘出術!

急性時実習でよく学生さんが受け持つ胆嚢摘出術の患者さん。
ここでは、胆嚢摘出術の術前から術後、退院指導までの観察項目や合併症、指導内容について紹介していきます。
胆嚢摘出術適応となる、急性胆嚢炎や胆石症の解説は別投稿をご参照ください☺️

まず、胆嚢摘出術とは?
開腹手術や腹腔鏡手術にて行う消化器外科の手術のこと。
胆嚢は肝臓に隣接している臓器で、胆汁の濃縮と貯蔵、食後に胆汁の分泌を行っているが、胆石(胆管、総胆管など)や胆嚢ポリープ、胆嚢癌、胆嚢炎などの原因で外科的処置が必要になった場合に行う。
腹部の手術歴がない方や炎症がなかったり、あっても限局的な場合は腹腔鏡で手術可能。しかし、腹部に手術歴があったり腸管が癒着している可能性がある場合や炎症が腹腔内全体に波及している場合は開腹手術が適応となる。

腹腔鏡手術の矢状断面


胆石や胆嚢炎の症状は?
・腹痛(心窩部痛や右季肋部など。人によっては右肩に放散痛を生じる患者もいる)
・悪心・嘔吐・黄疸
腹部所見:吸気時に右季肋部を圧迫すると呼吸が止まるMurphy(マーフィー)徴候
⭐️既往歴に上部消化管疾患の手術や肝硬変、急激な体重の増減、心臓弁膜症置換術などの治療経験のある患者は胆嚢結石のリスクが高い。

おまけ♡
→弁膜症置換術後は何故結石リスクが高い?
人工弁を置換すること渦流や急激な圧変化、衝突、異物反応などにる機械的な溶血を起こしてしまう。溶血すると血中のLDH(乳酸脱水素酵素)やAST、アルドラーゼ、鉄、葉酸、NSEが上昇する。また、赤血球から漏出したプロテアーゼがインスリンやBNPを分解してしまうためそれらは低値となる。肝機能が低下することでビリルビンが排泄されず体内に残ってしまう。それにより胆嚢内にビリルビンカルシウム由来の胆嚢結石ができる。弁置換後2〜7年程度で胆石を発症する患者がおり、弁置換を行った2割程度の患者が胆石になると言われている。胆石症、急性胆嚢炎の詳細は別投稿を参照してください♡

術後の合併症
<出血>
 炎症が強い場合は胆嚢周囲にドレーンを挿入してくるが、腹腔鏡の場合はドレーンが挿入されていないこともある。ドレーンがある場合、術後に血性の排液が100ml/h以上の出血がなければ経過観察でOK。出血が考えられる場合は、医師に報告する。患者の状態に寄っては再手術や止血剤の点滴だけで経過を見ることもある。腹膜炎を併発している場合は、腹膜炎での手術後の観察も行う(腹膜炎の詳細は別の記事にて掲載します)

<胆汁漏>
 胆嚢摘出時にクリップや糸で閉鎖するが、まれに外れてしまうことがあり、胆管内の胆汁が腹腔内に漏れてしまうことがある。漏れた胆汁は腹腔内に広がり腹膜炎を起こす可能性がある。ドレーンが挿入されている場合はドレーンの排液を確認する。

<感染>
 創部やドレーンの刺入部、ドレーンの排液が逆流して感染を起こすことがある。創部の炎症兆候やドレーン管理を行い予防する必要がある。
☆ドレーン管理について
胆嚢摘出時のドレーンは多くがペンローズドレーン。挿入位置はモリソン窩、ウィンスロー孔、肝下面などに留置されている。腹部のドレーンは体動によりズレやすい。着替えのタイミングやトイレの際に手が引っかかって抜去してしまうこともあるため固定をしっかりと行い、患者にも注意を促す。
ペンローズドレーンは比較的ドレーンの中でも細いため逆流はしにくいが、挿入位置よりも高い位置にバッグをおくと逆流し排液されずに感染を起こしてしまう。
ドレーンの留置期間は腹腔鏡の場合は術翌日に抜去するのがほとんど。開腹の場合は2~7日後に抜去する。
胆嚢摘出後のドレーンの目的は、胆汁漏や出血のモニタリングのため。正常であれば術直後から翌日までは淡血性〜漿液性の排液。胆汁様や血性、膿性などは異常。もし異常な排液が見られたら、採血から炎症値が上昇していないか、発熱はないか、疼痛を訴えていないかを確認しDrに報告を行う。

<DVT>
手術開始時から術後翌朝まで床上安静指示のことがおおく、長時間体動出来ないため腓腹部がポンプ代わりの働きが出来ず血液が下肢血管内にうっ滞しやすい。それにより、微少血栓が形成される。初回離床時に形成された血栓が遊離し肺や心臓、脳などの血管に血栓が詰まり、肺塞栓や心筋梗塞、脳梗塞を起こしてしまう。病棟時代に1度DVTで脳梗塞を起こし亡くなった患者さんを見たことがあります。どの患者さんにもリスクがあります。決して甘くみてはいけないので離床を行う際は注意!!!
DVTを起こさないために術前に弾性ストッキングを着用してもらい、術後にはフットポンプをつける。初回離床時にはホーマンズ徴候を確認する。

<腸閉塞>
腹部の手術を行うと、麻酔の影響を受けたり腹腔鏡手術中の気腹、術後の痛み、安静指示による体動減少、治癒過程で炎症による腸管の癒着なと様々な理由から腸閉塞を起こしやすい。そのため早期に離床する。

腹腔鏡で手術した場合
上記の合併しように加えて以下に注意する!
<無気肺>
腹腔鏡手術では術野を確保し操作しやすくするために気腹といって炭酸ガスを腹腔鏡ポートから腹腔内に入れて腹部を膨らます。それによって横隔膜が挙上される。また気管挿管による気道内粘液が増加し気管支を狭窄、閉塞させたり、長時間の臥床で胸郭の動きが狭くなるなどの理由から無気肺になりやすい。そのため、術前からピークフローをしてもらったり、術後早期に離床を行い予防していく。
<皮下気腫>
気腹に伴い、炭酸ガスなどの気体が皮下に貯留することがある。少量程度なら自然に吸収されるため経過観察で良いが、中等量以上確認ができる場合はマーキングを行う。基本的には悪影響はないが時々、頚部周囲に大量に貯留すると気道閉塞をおこしたり、痛みを訴えることがあるためその場合は針を穿刺し脱気する。

退院指導
胆嚢は肝臓が生成する胆汁を濃縮し貯蔵、食事に合わせて濃縮された胆汁を出す機能があるが、胆嚢摘出後はその機能が失われる。そのため、肝臓から濃縮されていない胆汁が食事の有無に関わらず排出されている状態となる。
以上のことから患者には以下の指導、説明が必要である。
・脂肪の多い食事をすると下痢を起こす可能性がある。特に胆石で胆嚢摘出した患者は、もともと高脂質な食事を習慣的に摂取していたと考えられるため、食習慣を改善する必要がある。胆汁は脂肪の消化を助ける働きがあるため、一気に流れ込んだ脂肪は濃縮されていない胆汁では消化されずに消化不良を引き起こす可能性かある。
・胆汁よるビリルビンの変化で便の色調が変化する。
・通常、術後1ヶ月程度で順応するためそれまでは食事に注意が必要。
・発熱や腹部症状がある場合はすぐに受診する。
・創部は泡で洗い清潔な状態を保つ。退院後は消毒の必要はない。

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