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【映画評】ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(Die bitteren Tränen der Petra Von Kant, 1972)。

 この映画を初めて観たのは2000年代の初頭、ずっと同じ映画ばかりをかけるパリ左岸、カルチェ・ラタンにある名画座でのことで、フィルムが恐ろしく傷だらけだった。今回のレストア版のお陰で、本作が、ニコラ・プッサンの『バッカスの前のミダス王』(1624-30)を引合いに映画の絵画性をも追求する会話劇だと気付く。
 だから俳優の表情の動きも含めて、身体的な運動は極力抑制されており、それを部屋に置かれたマネキンが、いやそれ以上に常に画面奥に無言かつ不動のまま佇むマレーネ(イルム・ヘルマン)の身体が象徴する。むしろ、グラスや電話といった小道具の扱い、ちょっとした仕草に、この映画の運動性は宿り、会話がもたらす演劇的緊張に拍車をかける。

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