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【映画評】リチャード・リンクレイター監督『バーナデット ママは行方不明』(Where’d You Go, Bernadette, 2019)

「聖女」バーナデットの奇跡

 映画の中の男性建築家は――本当にどいつもこいつも——創造主(クリエイター)気取りの鼻持ちならない勘違いのクソ野郎ばかりなのだが、これはめずらしく女性建築家が主役の作品である。果たして、男性建築家と彼女、バーナデット(ケイト・ブランシェット)にどこか違うところはあるだろうか。結論から言えば、本作が示すのは、女性建築家は——少なくとも映画の中では——常に創造主たる男性建築家の下位に置かれているという悲しい現実である。
 というのも、バーナデットは、建築家業界から一度排除される(=行方不明になる)にも拘らず、結局のところは「聖女」——創造主の補佐役——の位置に立ち戻るのである。本作において、バーナデットの建築家としての活動が、19世紀のフランスに実在した聖女ベルナデットの(「ルルドの泉」の)奇跡に比されているのはそういうことだ。母や妻の役を降りて仕事に走った女には、よくて聖母マリア、さもなければ父キリストから承認してもらう他に道——それは最早、殉教の道と化している——はないのかも知れない。
 とはいえ、他人に迎合せず、文字通りの極地(南極)を一人カヌーで行くバーナデットを俯瞰で捉えたオープニング・ショットは素晴らしかった。いっときとはいえ、そのイメージの「行方不明」振りに、バーナデットという主人公(プロタゴニスト)の本来の心意気が集約されていた。

女性建築家—コメディエンヌか怪物か

 そもそも、女建築家を扱う映画は、男建築家のそれに比して非常に少ない。本作と『素晴らしき日』(1996)、それに『これが私の人生設計』(2019)くらいではないだろうか。しかも、それら映画において――挫折から話が始まるのは男の場合と同じにしても——彼女らが「コメディ」ばかりを演じさせられているように見えるのが気になるところである。他にアイルランド人建築家、アイリーン・グレイ(1878-1976)のドキュメンタリーがあることはあるが。
 いや、ごく最近、斎藤工監督の『スイート・マイホーム』(2023)を観たばかりであった。しかし、あれはミソジニーを全く隠そうともしない映画で、女建築家を「怪物」として描いていた。結局、男に言わせれば、女のくせに建築家(創造主)になりたいなんてどうかしている、ということなのだ。まことにはや、映画のなかの女性建築家の自立の道や険し、である。彼女たちに幸多からんことを。

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