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インディーゲーム開発者がパブリッシャーと契約するときに気をつけること

このレポートは2023年12月17日(日)に東京の新橋で開催されたインディーゲーム開発者向けのカンファレンス Indie Developers Conference 2023(IDC2023)でPLAYISMの水谷俊次氏が講演した「インディーゲーム開発者が知っておくべき契約の落とし穴」の内容をまとめたものに私が必要に応じて加筆したものです。
パブリッシャーとの契約には気をつけなければならないことがたくさんあります。これらのことに気をつけてパブリッシャーとの契約でトラブルにならないようにしましょう。

パブリッシャーとの契約で山ほどトラブルを抱える場合もある

契約トラブルの3大原因

  1. 契約書がそもそもない

    • 友だちともしっかり契約を結ぶべき

    • 口頭での契約は後々揉める

    • 最低でもメールやSNSといった文面での合意は取る

    • たくさん売れると友情に亀裂が入る

    • 利益分配だけでなく経費負担も揉めやすい

    • そのために契約書で利益配分や報酬や経費負担や権利関係など明確にしておく

    • トラブル全体の50%くらい

  2. 契約書を読んでない

    • 契約書をそもそも読まないという人が意外に多い

    • 弁護士や会計士に契約書は読ませているので自分は読まないという人がいる

    • 弁護士や会計士はビジネスの判断まではしてくれない

    • 弁護士や会計士の多くはゲームビジネスの素人

    • 契約書は自分でよく読んでから契約しましょう

    • トラブル全体の20%くらい

  3. リスクを把握しきれていない

    • 利益の分配はいつのタイミングから実際に始まるのか

    • 利益の分配の開始はどのような販売本数から実際に始まるのか

    • 開発費は具体的になにをしたらもらえるか

    • パブリッシャーからの開発費の前払金の分を稼ぐまで開発者は売上を一切もらえないことは多い

    • トラブル全体の30%くらい

権利関係でよく揉めるもの

  1. 著作権と販売権

    • 著作権の権利が自分にないと続編が自分の一存では出せなかったり、新しいプラットフォームへの移植が自由にできなかったり、グッズを出せなかったりする

    • 契約書がよく分からなかったが、ゲームの著作権や販売権すべてをパブリッシャーに押さえられているということがある

  2. ローカライズテキストの著作権

    • 多くの場合はパブリッシャーが権利を保有している

    • 自分に権利がないと新しいプラットフォームで既存のローカライズテキストが使えない場合がある

    • その場合は新たにローカライズテキストの作成の契約を結ばないといけない場合もある

    • プラットフォームやパブリッシャーが変わると字幕や翻訳が変わったりするのはこのため

  3. PRアートやプロモビデオの著作権

    • 自分に権利がないと新しい移植先プラットフォームでPRアートやプロモビデオが使えない

  4. ボイスの使用権

    • ボイスは権利が意外に難しい

    • 収録したボイスを日本語圏でしか使えないケース

    • 特定プラットフォームの特定リージョンでしか使えないケース(XBOXのヨーロッパリージョンのみ使用可など)

    • 海外や別のプラットフォームで使用する場合、別途使用料がかかることもある

  5. BGMの原盤権

    • 音楽はアーティストが権利を手放さないことが多い

    • 新たなリージョンやプラットフォームでは使用が制限されるケースも

    • よくあるのはサントラを売る場合は原盤権のある人物に新たに印税を支払わなければならなくなるケース

    • サントラを売る場合は使用料だけでアーティストに数百万円単位を支払うこともよくある

    • ゲーム実況は原盤権の所有者が認めていないなどのケースも

    • アーティストも開発者の1人として権利や使用料などの契約はよく話し合いをしておく

これらの権利はデベロッパーに必ずしも帰属するわけではありません。パブリッシャーはパブリッシャーで権利を主張し、アーティストはアーティストで権利を主張します。そのため、デベロッパーはそれらの権利を必要なら交渉して獲得し、見返りが十分であれば手放す覚悟も必要です。

  • パブリッシャーやアーティストが権利を保有することも多い

  • これらの権利は必要だと思うならパブリッシャーやアーティストと交渉してみる

  • デベロッパーに十分な見返りがあるならこれらの権利を手放してもいい

よくあるトラブル

  • ローカライズは誰が行うのか、そのコストはいくらになり、誰が負担するのか?

  • プロモーションは何をするのか、そのコストはいくらになり、誰が負担するのか?

  • 前払いされる開発費は、完成後どのように回収されるのか?

    • 発生したコストは契約によっては売上から差し引かれる

    • パブリッシャーが前払いした開発費がすべて回収されるまで売上がデベロッパーに入ってこないという契約も多い

    • たとえばデベロッパーの負担が少ない代わりに、大ヒットしてもそれほど利益が分配されず、パブリッシャーの利益が大きくなるような契約もある

  • ゲームエンジンやツール、フォントのライセンス料は誰が支払うのか?

    • たくさん売れるとエンジン、ツール、フォントには使用料がかかってくることがある

  • ローカライズやプロモーションはパブリッシャーが費用を負担する場合もあるが、逆に利益分配が減る場合もある

契約書で上手くいかなかったときを想定して話しておく

  • お願いしたクオリティが納品されなかったら?

    • リテイク回数をあらかじめ決める

    • 検収期間(チェックの期間)をあらかじめ決める

    • 「いい感じでお願いします」ではいい感じのものは上がってこない

  • 発注が大きく遅れたら?

    • 自分のスケジュールが合わなくて発注が大きく遅れることはよくある

    • 受注先もスケジュールを空けて待っているので、待機が発生している

    • 待機が発生した場合、相手は得られたはずの利益が得られなくなるので、トラブルの元となる

契約がうまくいかなかったとき

  • ゲームがスケジュール通りに作れなかったら?

    • パブリッシャーから「未完成でもリリースして下さい」と言われるケースも

  • パブリッシャーが事業を終了することになったら?

    • 非常に大変な事態

    • 提供された資金はどうなる?

    • 大きく揉める場合も

  • 解約したあとどうなる?

    • ゲームの権利はどこに行く?

    • ゲームの権利はしっかり自分の手元に残るのか?

    • どこまでパブリッシャーに権利が押さえられているかによって話は変わってくる

  • ただし、多くのパブリッシャーはこれらに対策をしている

    • 多くのパブリッシャーは優秀な開発者と良好な関係を持ちたいと願っている

    • また、見込める販売本数や、自社側の採算も考慮して提案をしている

契約はリターンだけでなくリスクも発生すると意識しておくこと

  • 契約は双方にリターンとリスクが発生する

  • リターンだけでなくリスクも考える

  • 最終的には、相手をどこまで信用できるのかで決める

「よく分からないところがあるなら契約しない」が鉄則

  • 弁護士や会計士にチェックしてもらうことも大事だが、最終的に契約するのは自分

  • インディーゲーム開発者には「契約しない」という選択肢が最後まで残されている

  • しっかり契約書を読んで、リスクとリターンを把握する

  • 納得しにくいところがある場合、契約を結ばない

  • 契約書をつくる」「契約書を読む」「契約のリスクを把握する」この3つだけでほとんどの契約トラブルは回避できる

複数のパブリッシャーに声をかけて契約の利益分配の割合などを比較する

  • 利益分配などはパブリッシャーなどによって大きく変わる

  • 販売本数30000本からデベロッパーに売上の70%が支払われるなど(販売本数30000本まではパブリッシャーに100%の分配)

  • ウワサではデベロッパーとパブリッシャーの利益分配は7:36:4が多い傾向がある

  • パブリッシャーから提示される契約書はゲームタイトルによってケースバイケース

  • パブリッシャーとの交渉期間は平均2ヶ月くらいかかる

  • パブリッシャーによっては「東京ゲームショウに必ず出展しろ」「あのYouTuberに必ず実況させろ」など言われるが保証できないことには保証できないと話しておく

最後に

2023年のIndie Developers Conferenceでも多くの機知に富んだプレゼンテーションや知識が披露されました。もしもまだこのイベントに参加したことのないインディーゲーム開発者の方がいらっしゃるなら、次回の機会にぜひ参加してみてください!

出典

Indie Developers Conference 2023「インディーゲーム開発者が知っておくべき契約の落とし穴」PLAYISM 水谷俊次氏より

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