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ベテルギウスの夜に:ベテルギウスの夜

ベテルギウスの夜に:ベテルギウスの夜


《その光は、人類文明の終端を祝う花火だったのか、この日
以降、人類は・・・に向かう。》

 クリスマスカードが届いていた。NKN64からの
プレゼントに当選したとの事、嬉しや、 めぐたん とデート
が出来る。NKN64アイドルヲタクの街、中野ナカノを冠
したアイドルグループで有る。樫木愛カシキ・アイこと
『 めぐたん 』人気アイドルで有る。お嬢様系で結婚したい
アイドルナンバーワンの称号を持つスーパーアイドルだ。
 彼女達、年末は忙しいので年明け後に成るとの事。
男は、初詣でこの企画が続くように願った。
参道の帰り『今年は、金環日食・皆既月蝕や大彗星等天文現
象が多いが、近々オリオン座のベテルギウスが超新星爆発
スーパーノバを起こすらしい。
人類が見る事が出来る最大の天文現象だそうだ』と言う話を
三回程聞いた。多少、話の種に調べて置こう。
 丸一日、部屋を片付け。
翌日、シフォンケーキとプリンを作った。
男は、料理だけは得意だった。
花は、自己流華道だが、白百合と薔薇をアレンジして玄関に
生けた。薔薇は深紅・ピンク・黄色、白百合は鉄砲百合と
カサブランカを適当にアレンジした。
オーブン用の耐熱ガラス食器を花器にし剣山を使用して
生けたのだ。
トップアイドルを迎えるのだ。頑張らねば。6時過ぎに来る
らしい。食事がまだだったらチーズフォンデュを用意する
事にした。
 スタッフと共に彼女が現れた。スチール撮影等を終え
ビデオカメラとマイクをセットし、3時間したら迎えに来る
から彼女と宜しくとの事。
うっとおしい連中は消えた。デートだ楽しいデートだ。
 草食系の若年と異なり五十代の親父である下心は有る。
有る事は有るけど、そこまでは出来無い、犯罪に成る。
大人しくデートをし様と思った。相手は国民的アイドル
なのだ。

 「お食事まだかなチーズフォンデュを用意して有るん
だけど、どうですか」

 「レッスン終わりで来たので正直お腹ペコペコ、チーズも
大好き」

嬉しい。のって来た。

 「チーズフォンデュってチョットしたルールが有るんだけ
ど」

 「知っています。でもアルコール飲め無いから貴男が、
パンを落としたら、一回に付き一票入れてね」

NKN総選挙の事で有る。本来のルールなら粗相をした者が
他者にワインを1杯奢るのが正しい見たいだが、アルコール
に弱い彼女は、別の要求をして来た。
総選挙は、アイドルの命運を左右する人気投票で有る。
彼女達の新曲CDに一票選挙権が付いているのだ。
NKN商法と揶揄やゆされるCD販売促進方式で
選挙権が付いていて、ファンが推しメン《推している
メンバー》を上位当選させるべく競って購入させる為に
ミリオンヒットに成ったと言われるが、楽曲は、元々素敵
だ。おまけに数票投票し様とするファンにも損が出無い様に
パッケージやカップリング曲を変えてコレクションアイテム
として正しく販売しているCDで有る。
男は、勿論、彼女に上位に成って欲しいから、元々複数購入
予定だ。総選挙と呼ばれるのは、順位が完全にリセットされ
全員の順位が再確定する為で有る。

 「 めぐたん が落としたら」

 「ホッペならキスして、あ・げ・る」

はにかむ素振りも見せずに答えた。イメージが違うと思った
が、これはこれで好ましい。贅沢を言えば、ホッペじゃ無く
口にお願いしたい所だが、無理は判っている。
食事が進み男も3票以上入れる事を約束し、2回ホッペに
キスを貰った。お互いにワザとパンや野菜・ソーセージを
鍋の中に落とした事は明白だ。彼女がナゼ落としたか、
一度や二度ホッペにキスするぐらい可愛く振る舞うのは、
計算の内だ。男が落としたのは、何票も投票するとの意思
表示だ。

 「実はデザートも用意しているのだが時間が無いから先に
出すね」

 「御免なさい時間が取れ無くて」

 「良いの良いの君と居るだけで幸せ」

プリン

受け皿とマグカップに入ったプリンを二組出した。マグカッ
プの内端に竹串を使いプリンを分離し、受け皿に移して見せ
た。ナチュラルだが、淡い黄色のマテリアルが、小皿の上で
揺れている。カラメルソースも手作りで有る。大量に掛かっ
ている。

 「遣って見る」

 「うん」

 「おーきい、手作りなの」

 「全卵1個、卵黄1個、ミルク375CCフレーバーに
カカオリキュール、グラニュー糖大匙5杯で作った卵液を
弱火で1時間蒸した当店自慢の一品で御座います」

男は、少しお道化て言った。男の手作りと聞き訝しがるが。

 「プルンプルンして、美味しい・柔らかい・・滑らか大好
き」

彼女が、お世辞に走った。男は舞い上がり、饒舌に成り。

 「自立するカスタードプディングで最大の大きさと柔らか
さを両立しました。ご堪能有れ。抹茶シフォンケーキも
焼いています。そうだアーンして」

素直に口が開けられると男はスプーンで口に移した。彼女
から。

 「お返し」

とスプーンを運んで来たので馬鹿見たいに大口を開けた。
間接キスが、成立した。男は完全に落ちている。勿論、
恋にで有る。ファンとアイドルの関係で無く、是非手に入れ
たい女だと思い始めていた。危険な兆候だが、危険を認識し
無かった。その時、音だけ聞いていたテレビから。

 「岐阜のスーパカミオカンデ測候所からニュートリノ検出
が著しく増大しスーパーノバが近い・・・・」

と告げていた。スーパーカミオカンデは、地上の光が届か無
い洞窟内研究施設で有る、神岡鉱山の跡地に巨大な水を湛え
たタンクを設置し、素粒子ニュートリノが水の分子に激突す
る時、光子を放ち発光する現象を超高感度光電子倍増管で
観察する施設です。
日本人のノーベル賞受賞に貢献した設備で有る。
ニュートリノは、透過性が著しく高い粒子で惑星等も簡単に
通過する粒子で有るが、極たまに水と衝突し光を放射する事
が有るのだ。
スーパーノバで極めて大量のニュートリノが、放出されるの
で星の発する光依り早く地球に到達すると考えられる為、
ニュートリノ検出が著しく増大すると世界中の高性能天体望
遠鏡が、最優先でベテルギウスを向く様に成っている
らしい。因みにニュートリノは、ダークマター暗黒物質の
本命候補で有った。今では別の物質、ニュートラリーノと
よく似た素粒子が考えられている。ニュートリノは、光学的
に見え無い、検出が極端に難しいのだ。
語り部の感覚では、透明物質と称する方が、相応しい様に思
える。

 「スーパノバが始まるそうだ。観て見無いかい」

 「私、理科系少女天文部だったの」

 「詳しいんだな準備しようか」

男は彼女のプライベート情報に詳しく無い事を知った。
彼女が、天文部だったと初めて知った。

 「サングラス持っているね、それからピアス・指輪を外し
アルミフォイルで包んだ方が良いよ、携帯や音楽プレーヤー
も忘れずに」

 「どおして」

 「念の為さ」

 「スーパーノバ超新星爆発で光だけでは無く、長短
様々さまざまな波長の電波が来る事は解るよね。
危険は喧伝されて無いけれど強力な電波で金属がアンテナと
して働き加熱したり電子機器が壊れたりする可能性が有る
から何だけど」

アルミフォイルで包みながら彼女は言った。

 「電磁シールドの代わりが、アルミフォイルなのね」

 「あ、嫌だ、私、今日の天気予報でスーパノバが起こった
ら、見るのに好い天気だと言ってしまった」

 「大丈夫だよ、人類が、電気を使用してから初めての
スーパノバなので誰にも判ら無い責任を感じる事は無いよ」

彼女は、人気のお天気娘でも有るのだ。

 「スーパノバで地球上の生物の大部分が絶滅した事が有る
と聞いていたので怖くって」

こんな事も知っていたのか、でも折角、調べた知識を披露す
るのは今だ。

 「その話、少し回りくどい話だったでしょう・・・・
スーパノバで恒星の自転軸方向に強力なガンマ線が放出され
それを浴びた太古の地球上空オゾン層が完全に破壊され、
防御出来無く成った太陽の紫外線で地表と浅い海の生物が、
死んだ」

 「ええ、そうよ、でも今回はベテルギウスの自転軸が地球
を向いて無いので安心していたんだ」

 「僕達は、深海魚の子孫なんだ。君はマーメイドいや、
乙姫様なのだ」

我ながら巧く言ったと思ったが、彼女は急いだ。

 彼女はジーンズとスニーカーで来ていたので直ぐに外に出
られた。見慣れている華やかな彼女とは、違うので残念で
有ったが、格好の良いスマートレーディー新鮮で有った。
男は出かける前にブレーカーを落として外に出た。
数分後、手持ちラジオからもう少しで始まるとのニュースが
有り、オリオン座を探しサングラスを掛けその方向に向い
た。すると急に明るく、いやサングラスでも眩しいので視線
を外しオリオン座以外を見渡したが、天空全体が真っ白く光
り輝いていた。

 「熱い」

彼女が叫んだ。

 「どおしたの」

金属は、外した筈だが、彼女が言い難い所を見ると有れだと
思い当たった。取りあえず手を引いて部屋の中に入れた。

 「部屋の中なら電波も弱いから加熱している物を外して
下さい。外に出ているから外し終わったら知らせて下さい」

ブラのフォックで火傷

暫くたってから。恥ずかしそうに。

 「ブラのフォックで火傷しちゃった」

 「治療させてアロエ軟膏しか無いけど塗らせて」

 「エッ」

 「信用して外の事は、絶対にし無いから、
この非常時に火事場泥棒見たいな事は、男としての沽券に
関わる」

 「何をすると沽券に関わるの」

彼女が、一寸、意地悪く、質問して来たように感じて
ドギマギした。彼女には、ただでさえ深窓のお嬢様オーラが
出ている。太刀打ち出来無い。オマケにノーブラで有ると
告白しているも同然だ。ドキドキする。
勿論、若く綺麗な、お嬢さんの服を脱がしたら、
ヤリタイ事は決まっている。決まっているけど理性が、
邪魔するのは、至極当たり前の事だ。
ファンとアイドルの関係を超えるのは遠そうだ。

 「ともかく背中見せて。シャツも脱いで治療出来無い」

 「そんな私、アイドルよ」

 「準備出来るまで下を向いているからその間に背中を出し
て」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
 「もういいかい」

 「まーだだよー」

彼女は落ち着きを取り戻したと見え可愛く返事した。
・・・・・・・・・・
 「もういいです」

 「可哀想、赤く痕が残っている。でも消えるよ、
一寸ヒリヒリするけど我慢して」

火傷治療

マキロンでスプレー消毒し、ティッシュで擦らない様に
毛細管現象を利用して拭き、水道水で消毒薬を濯ぐ様に
ティッシュで水を付け拭き取りを繰り返し濯ぎ、アロエ軟膏
を器用な利き手右人差し指の腹で塗り、サランラップで患部
を保護し、絆創膏で留めた。昔は、擦り傷や火傷は、
患部を乾かしていたけど今は、患部を傷口から滲み出る体液
で湿らせて自療に任せる方が治りが早いと言われている事を
男は知っていた。その為、消毒液は、丹念に拭うのだ。
本当は消毒薬も使わずに流水で消毒する方が良いのだが、
水道が止まりそうなので諦め、患部の消毒液を手数を掛けて
湿らせたティッシュで濯いだのだ。
消毒液を使わ無い方が正しいのは、強い殺菌力で健康な
細胞が、ダメージを受けるからだ。
男は丁寧に治療をしたのだ!
彼はセックスで女体の敏感な所を触るのと同じ様に効き指の
右指で火傷傷跡と言う別の意味で敏感な部分に挑んで居る事
を喜んで行ったのだ!
コレはこれで善いだろう!!

 「痒くても掻かないでね。また脱がせるのに手間が掛かる
から」

男にも軽口を言う余裕が出て来た。
 外は明るく窓の明りだけでまだ十分だった。

 「取りあえずランプの用意をするよ。本来なら、寒中の
今は夜中、スーパノバが治まったら真っ黒に成る。
御免ね、ブラのフォックまで頭が回ら無かった」

 「それ依り停電じゃ無いの」

彼女は下着の話は避けようとした。男は、サラダオイルを
小皿に入れ、テッシュを紙縒こよりりにし芯を作り、
簡易ランプとした。ランプと言う依り行燈だ。
そして答えた。

 「停電かもしれないけど、ブレーカーを落としているん
だ。送電線に過電流が流れて家電が壊れると困るから」

 「そうだ強電波検出器を作ろう」

強電波検出器

男は、LEDの脚に短い導線を繋いで自作した。電気が来無
いから、半田鏝(はんだごて)は使用出来無い、脚に巻き付
けラジペンで強く接触するよう捻った。
元の職業の関係でLEDや半導体素子等電子部品は持ってい
るのだ。

 「部屋の中では光ら無いか」

男は外へ行き、暫くして帰って来た。

 「短めのアンテナのLEDは光らないが、長めのは光って
しまった。・・理科系少女なら解るでしょう」

彼女に振って見た。

 「波長の短い電波は弱く成っているのね」

理科系は、本当みたいだ。アンテナの長さと波長の関係は、
把握している。

 「もう少ししたら携帯をチェックして見ようアルミで
シールドしたから、大丈夫だと思うけど壊れている可能性が
有るからさ」

 「嫌だ、困る」

 「音楽プレーヤーを先にチェックして見たら」

シャカシャカシャカと聞こえている。音楽プレーヤは、
生きている見たいだ。
男もスマートフォンをアルミフォイルから出し調べた。

 「壊れて無い見たいだけど、圏外だ。君のはどう」

 「私も圏外」

 「君のはAuだね。このマンションAuの基地局アンテナ
が有るので圏外だとするとシステムが広域でダウン、
いや全面的に故障している可能性が有る」

 「君のマネージャやスタッフも迎えに来られ無いと思う
よ」

 「今日のスケジュールだと私を降ろしたら、ののこ を
回収して迎えに来る事に成っているので確か国分寺辺りと聞
いていたんだが」

 「2時間以上たったし、おそらく道路も身動き取れ無い、
それ依りも車自体故障している可能性が大きい、今の車は
電子で動いているからね」

電話局を介したシステム
インターネット

自動車は、金属で覆われているから電磁シールドされている
と思われる方がいると思うが、中で携帯が使えるのだ、
電波は筒抜けだ。雷は車に落ちても金属の外殻を通り、
タイヤで接地して地面に電流が逃げるが、電波はそうは、
いか無い。強電波障害は、避けられ無いのだ。
彼女がどうしても連絡を取りたいとの事でインターネットを
試して見ようとパソコンの電源を入れる為、ブレーカーを入
れて見たが、停電していた。
皮肉な物だ。元々インターネットは、核戦争を想定したもの
で高いリスク回避力を持つ。電話局を介したシステムの様に
管轄する局が攻撃され使用不能に成るとそれに繋がる電話機
が全て使用不能に成るのと異成り、物理的にネットワーク
形状で接続しているシステムの為、一つのネットワーク
ノード(結び目)が使用不能に成っても自動的に接続可能な
経路を選択し通信を確保する筈で有るが、停電で端末が、
使用出来無いだけでニッチモサッチモいか無く成った。
男の家の通信インフラは全滅した見たいだ。
ニッチモサッチモは、『二進も三進も』と書きます、元々、
そろばん用語で二でも三でも割り切れない厄介な数値だとの
意味が語源で有る。
仕方が無いので彼女を近くのコンビニまで案内した。
コンビニの公衆電話は使用不能との張り紙がして有った。
水とロウソクを買った。数量制限が有ったので彼女にも買っ
て貰った。

 「まだコンビニ本部は地震の様な災害との認識が無いのか
な、連絡が付か無いから判断出来無いのかな」

 「 めぐたん 、留守番して、水や非常食を買って来るので
お願い」

 「私も行きたい」

 「売り切れる前に自転車で行くので御免」

 彼女が不安で仕方が無いのは男も分かっているし、彼女と
買い物は平時なら、楽しい筈だが今は非常時なのだ。
近くのスーパーで1時間程掛けて数量制限されている水・
カセットコンロガスボンベ・インスタント食品・
ビスケット等を買った。明日は、 めぐたん と買い物に行こ
う。大災害の中、男だけは楽園気分だった。
お気に入りの超美形アイドルとまだまだ一緒に過ごせるの
だ。まだ外は明るかった。
10時は過ぎていた。

 「ただいま」

 「寂しかった」

少し泣きそうな顔で答えたので男は、ハグしようとしたが
火傷の事も有るので肩を抱いた。良い匂いがした。
不謹慎かもしれないがアイドルの香りだ。

 「明日は、一緒に買い物に行こう」

 「うん」

関係が、かなり縮まった気がした。

 「今まで何をしていたの」

 「ギャートルズを読んでいたの・・・なんだか、あの世界
に成るんでは無いかと心配で」

 「せいぜい、幕末から現代まで早足で繰り返すんじゃ無い
かな」

男の書棚には愛蔵版のギャートルズ、その隣には藤子不二雄
F短編集『みどりの守り神』が有り、この人類絶滅を扱かっ
た作品を読んでいたら、ちょっと厄介かなと思った。

 「ギャートルズのアニソン知っている」

 「なんにもない、なんにもない、まったくなんにもない。
生まれた、生まれた。星が一つ、星には夜があり、そして
朝が訪れた」

かまやつひろし の名曲『奴らの足音のバラード』だったと
思う。めぐたん の生唄が聴けたラッキー。

 「アニソン史上もっとも壮大な世界観の詩と言われて
居るんだけどどう思う」

 「星が、地球が生まれて朝が来るんだ」

彼女は、はしゃぐ様に言った。可愛い。

 「そうだ、今日、起こった事を纏めて見ないか」

 「赤坂の・・・」

 「そこからじゃなくスーパノバ以後を纏めよう」

男はアイドルの一日も興味津々なのだが、生き延びる方策を
聡明な彼女と考える方が良いと判断した。賢明で有る。
本来の意味と彼女に高感度を持たれるのは、この方が良い
だろう。

 「19時前にスーパノバが起こり、めぐたん が火傷する
ぐらい強い電波を伴った光に包まれた」

 「電気・電話などインフラが途絶した」

 「そうだラジオはどうかな」

スーパーノバの光が届いた時、外に持って出たラジオは、
残念ながら極強烈電波を受けて壊れた。
男は、災害用手回し発電機付きライトに付いているラジオの
スイッチを入れた。

 「ラジオは生きているみたいだけど放送が無い見たいだ」

 「回復するとしたら最初に回復するのがラジオだから、
定期的にチェックし様と思うので覚えていてね」

 「政府の災害対策は分からず」

 「避難所、小中学校や公民館は、どうしているの」

 「買い物の帰りに覗いて見たけど何もして無い」

 「明日、買い物時に調べて見よう」

 「今、この家どう成っているの」

 「2Lの飲料水6本、オレンジジュース2L1本、
コーラ1.5L1本、米10kg、スパゲティ一2kg、
ラーメン10袋、野菜果物、冷凍食品て処かな。
そうだアイスが溶ける。御免ね残飯整理見たいで」

 「暫くは、悪く成る物から順に残飯整理ね」

彼女はクッスと笑いながら言った。可愛い。
自分だけが可愛い笑顔を独占している。

 「水は浴槽にお湯を入れてある」

 「トイレが流れ無く成ったらバケツで運んで流そう」

まだ水道は出ていたが、断水間近で有ろう。アイスを食べ
ながら。そう、部屋はまだ暖かい。

スーパノバ手順

 「スーパノバってどおして起こるか分かる」

 「太陽のような星は、水素を核燃料としてヘリウムを
核融合し作成し、段々重い元素を作って行くのですが、
鉄依り重い元素を融合する時には、核融合で熱が出るのでは
無く、エネルギーの吸収が起こって熱エネルギーで膨張して
いた星が全体の重力で星の中心に向かって収縮を始め、
密度が、総ての原子核が押し付け合うまでに高まるの、
すると原子核の陽子がプラス電荷同士電気的に反発しバネが
限界まで圧縮された直後に跳ね返る様に大爆発を起こす」

 「凄い、ほぼ正解。何も見ずに空で言えるとは、何処の
先生ででも合格点。さらに太陽が精々赤色巨星で終わり
スーパノバを起こさないのに対してベテルギウスが巨大な
質量の為白色矮星を経て鉄元素が作られるまでの核融合サイ
クルを説明すれば、満点」

男は、彼女の知識に驚き、また、変に対抗心を燃やした。
彼も調べては、いたのだ。

 「何時まで続くと思う」

 「私の知っている話では藤原定家の名月記に昼間でも星が
見えたと記述がある事ぐらいしか解らない」

 「蟹星雲の話だね」

 「一瞬にして終わると思っていたけど続くのね」

男は言った。

 「1987年にスーパノバに成った1987A超新星は、
発見時マゼラン星雲中の小さな点だった物が数日中に千倍の
明るさに青色から赤くなり明るさが減じて来たそうだ」

 「私の生まれる前だ」

 「あれ、そういえば少し赤みを帯びている気がする」

 「実は続きが有るんだ」

 「1987Aの話の続きですか」

 「そうだよ、それから数日後、再び明るく輝き、
1年後には完全に消えたとの事らしい」

 「スーパノバの時、鉄依り重い物質が作られる話は知って
いるよね」

 「金やウラン等ですよね、それらの物質は、
過去のスーパノバで発生し、地球のそれら重い元素もそれで
出来ていると習ったわ」

 「ご名答、君みたいな学生が居るのなら大学の講師遣りた
い」

本音で有る。賢くて美しい彼女が学生なら是非、
教授したい。

 「ウランと言ったね、ウラン以外にも放射性物質が大量に
生成されるんだよ」

 「原発で事故が起こった時、制御棒で核連鎖が停止したの
に原発の出力10パーセントの熱が発生してメルトダウンが
起こった事は覚えているね。その時の熱が崩壊熱と呼ぶ現象
なんだよ」

 「その崩壊熱が大規模に起こるんですよね」

彼女の理解力には舌を巻いた。しかも進行形で話をした。
これから起こる事を予測している。窓の外は少し赤みを帯び
多少暗く成った。

 「実は猫ちゃんたちが居るんだけど」

 「大好き」

アイドルは、小動物を嫌いとは言えない筈。でも犬派・
猫派と明確に好みは分かれる。猫を嫌う人は、永遠に無理
だ。彼女の『大好き』は本音だろうか心配だ。

 「デートの邪魔に成ると思って隔離してたんだ10匹
オーバーなので引っ掻かられると困ると思って猫炬燵に押し
込んでいたんだ」

男の腕には小さな無数の引っ掻き傷が有った。

 「大好き、会いたい」

 「気をつけてよ。噛む子も居るし人間も毛皮付きと思って
いるかの様に遠慮無く引っ掻いて来るから」

猫の部屋の扉を開けた。猫トイレの匂いがした。
彼女にも何匹かじゃれ付いた。生後数ヵ月から半年程度の
仔猫です。ヤンチャ盛り一寸危険。

 「可愛い」

すっかり手懐けてしまった。爪の攻撃も難なくかわし上手
その物だ。

 「僕は、こっちの猫部屋で寝る」

寝ると聞いて彼女は、身構えた。男は、この表情を出さ無け
れば自分に取って都合良く完璧なんだがと思った。
火傷を負っている彼女を襲う訳が無いじゃないかと心の中で
反芻した。

 「君のベッドは、ソファベッドを用意するよ」

男は書斎のソファをベッドに変形させた。

 「横じゃなくて前に広がるんだ」

 「そうだよ、少し大きめのソファベッドなんだよ。
例の父娘株主総会騒動の高級家具屋で買った物だよ」

シーツ・毛布・掛け布団を用意した。

 「まだ眠く無い」

男はドキッとしたが、彼の考えている事とは違う意味で有る
事は彼にも分かった・彼女の夜は遅いのだ。

 「ミルクココアとシフォンケーキ食べようか」

 「ええ、暖かいココア飲んだら眠れるかな」

男は、カセットコンロでミルクを温めた。
ココアとケーキを楽しみながら男は言った。

 「時間つぶしにボードゲームでもし無い」

 「ボードゲームなんて小さい頃、お正月に親戚の
お兄ちゃんと遣ってから暫くぶり」

 「ルールの簡単なチェッカーなんてどうだろうか」

 「チェスのオマケ見たいなゲームね。携帯ゲームにも
有ったけどした事が無い」

男は、今度ばかりは、優越感に浸れると思った。
彼女の純潔を守っているのだからこれぐらいは許して欲しい
と思った。
純潔を守るのは当たり前、魅力的な女の子が傍らに居ても
手を出しては駄目なのは当たり前、まして国民的アイドルで
しかも火傷を負っているのだぞ。

チェッカー

 「8×8のチェス盤の白い所だけ使います、
コイン状の駒の地味な方が表で王冠の絵が有る方が裏、
赤い駒・黒い駒、それぞれ盤の白い自分の陣地に三列に
表側にして並べます」

男は、並べて見せた。

駒の動かし方

 「どうするの」

 「敵陣に向けて、斜めに一桝進みます」

彼女の赤い駒を動かして見せた。

 「敵の駒が1個有ってその駒の後ろが空いていたら、
敵の駒を飛び越して進みます。この時、敵の駒をゲットし
ます」

 「フライングゲットね」

NKNのヒット曲で有る。

 「あの曲、こういう意味だった」

 「違うけど言って見たいの」

勿論、友人達との紳士協定を破って気に成る異性を早く
ゲットする事を歌った曲だ。
男は、一手で連続して敵の駒をゲットするパターンを
何パターンか並べて説明した。

 「前に進むのは分かったけど最後まで行ったらどう成る
の」

 「するどい、良く気づいたね。最終ラインまで行くと
駒が王冠に裏返ってバックも出来る様に成ります。その時、
引き続き飛び越せる駒が有れば、飛び越せる駒を全てゲット
出来ます」

男は、動かして説明した。
 「他に敵の駒がゲット出来るのにゲットし無かったら
違反に成りますので、お互いに注意しましょう」

 「先攻、後攻どっちにする」

 「ジャンケンで」

言うなり拳を突いて来た。NKN式のあのジャンケンだ。
男はあっさり負けた彼女が先攻した。
男は、自陣の最終ラインの駒を動かさ無い様にして彼女の
駒が裏返りバック出来無い様にして彼女の駒を動かせ無くさ
せ、自身の駒は、王冠に成らせて自分の番手で前進後退を
繰り返し自身の駒が不利に成ら無い様にして勝った。

 「動け無く成ったら負けなの教えてくれ無かったじゃ無い

勝負に対するトップアイドルの意地は半端では無かった。
5戦して3戦彼女が勝ち越した所で明日スーパーの開店に
間に合うように起きる為、眠ると言って猫炬燵に入って行っ
た。
生後数ヵ月程度のまだまだ可愛い仔猫が居無かった。
彼・彼女達は、引っ掻かれるのを我慢すれば快適な暖房器具
だが、めぐたん の居る書斎に彼女にじゃれ付きながら付い
て行った。少し寂しい。
彼女は、眠く成るまで仔猫をあやしつつ、音楽プレーヤーを
聞きながら読書した。

《次は『被災後』
目次は、『ベテルギウスの夜にプロローグ』にリンクを
張っています!
関連して『ベテルギウスの夜に解説』で特殊な語句を
解説しています!

文末

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