COM Vol.1 『おぼろげサナトリウム』 上演台本


おぼろげサナトリウム 作 宮元響輝

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◎登場人物 

・佐倉(31) 演-神宮一樹
・曽我野(17) 演-宮元響輝
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どこかの町。

その町の高校。

教室。机。向かい合わせになるよう置かれた椅子2つ

ゆっくり明転

中央に立つ二人に淡く、窓から刺す光。

舞台正面(客席側)を見る、曽我野、佐倉

曽我野 ……子供生まれたんですかね

佐倉 (目を細めて)そうみたいだね

曽我野 っていうか、増えてませんか

佐倉 何が

曽我野 巣が

佐倉 巣が

曽我野 巣が。新館は春先に改装工事入ったばっかなのにな

佐倉 いち、に、さん

曽我野 数えなくていいんですよ

佐倉 まぁ俺は基本仕事はこの本館でやってますから、関係ないですねー新館のあれこれは

はっきり明転

曽我野 あっそういえば(リュックにかけより、取り出して)羽~

佐倉  お前!そういうの持ってくんなよ!

曽我野 なんでですか

佐倉  いや、病気持ってるかもしれないでしょ!

曽我野 うい、ういー

佐倉 まじでやめ

曽我野 えー。はーい。せっかく二枚(重ねていた一枚からもう一枚を出して)取ったのに

佐倉 いらないいらない!マジックじゃん。捨ててきて

曽我野  燕の羽ってメルカリとかで高く売れるんですよ

佐倉 え、どこ需要

曽我野  知らないですけど。状態のいいのとかだと一枚1000円とか
    (リュックからチラシを取り出し羽を包む)

佐倉 包むなよ

曽我野 あ、このチラシ(佐倉に見せる)

佐倉  ん?

曽我野 駅前で右翼団体が配ってました(読んで)ゴキブリは出ていけ!

佐倉 ひどいよな

曽我野 デモもすごいじゃないですか

佐倉 言われてる当事者はどう思ってるんだか

曽我野 嫌に決まってるでしょう
太ったおじさんと駅前の居抜きのカレー屋やってるおじさんとの対決、見ものですよ。「ナンナンデスカ?!」って

佐倉 そうか

曽我野 (窓を見て)あそこも鳥の糞すごいんですよね

佐倉 あそこ?

曽我野 映画館。新しくできた。駅前の。何か見ました?

佐倉 あー。それがまだいけてないんだよね。ミュータントシックス見たい
なぁ

曽我野 先生世代ですか

佐倉 世代だねえミュータントシックスは、世代だねえ。エヴァか、ミュータントシックスだったねえ。つか最近全然追えてなくて。タイトルなんだっけ。最新作

曽我野 劇場版シンミュータントシックス新劇場版Part2中編オブリブートですね

佐倉 わからないなぁ。多重構造すぎてわからないなぁ

曽我野 好きなら見るべきですよ

佐倉 今回のは何、その

曽我野 劇場版シンミュータント……

佐倉 あ、いい、いい、いい。今回のはシリーズ的にはどういう位置付けなの

曽我野 ミュータントシックスの劇場版の新劇場版のリメイクの世界観を引きついだリブートのパート2の中編のリブートですね

佐倉 わっかんないなぁ。一つの文章の中ににリブートがたくさん出てきてわっかんないなぁ。(スマホを振る)ってかあそこ、見たい映画が全然やってない

曽我野 ……何してるんですか

佐倉 ん?起動

曽我野 起動!?何起動ですかそれ

佐倉 (吹き出しながら)まぁ再起動ではないよなぁ

曽我野 なんだこいつ

佐倉 もう壊れてるんだよね

曽我野 えっ

佐倉 多分何回か落としたからなんだけど、落としたことによってこの、精密部品が、こう、ずれちゃってるんじゃないかなって。だからこう、振ることによって……初期位置に戻すっていうか……

曽我野 治るわけないでしょ

佐倉 あ、ついた

曽我野 え、すげー!すげーアホじゃんこの人。物理でいった。

佐倉 あんまり大人を舐めるなよ

曽我野 尊敬します

佐倉 あっ、また消えた

曽我野 尊敬できないなぁ

佐倉 まぁ今日、携帯ショップ行くんだけどねー

曽我野 買い替えるんですか

佐倉 そうね。最新機種にするわ。あわよくばこいつを下取りに出すわ
曽我野 ゴミ同然なんじゃないんですか。それ多分お金を払って引き取られる側の物体ですよ

佐倉 物体って

曽我野 それアイフォン何ですか

佐倉 5

曽我野 5!?iPhone5!?存在するんですか

佐倉 するよ!だってしてる現に

曽我野 何年前の

佐倉 んー12年前?

曽我野 12年!?辰年じゃん……

佐倉 よく持つよな

曽我野 よく持たせてるんですよ先生が

佐倉 いい視点だね。ま、こんなオンボロとはもうおさらばだ

曽我野 僕のもそこまで新しいわけじゃないですけど……(スマホを取り出す)

SE 通知音 ビーリアル

曽我野 あっ!ビーリアルきた!!

佐倉 ビーリアル?

何やらスマホを操作し写真を撮る曽我野

佐倉 ……何

曽我野 えっ

佐倉 何今の

曽我野 ビーリアル

佐倉 それがなんなのか聞いてんの

曽我野 あー。SNSの一種?写真を載せるんです

佐倉 SNS?なんか急いでたけど。

曽我野 ビーリアルは写真とか動画投稿するんですけど、一個ルール?があって。1日に投稿できる回数が決まってるんです

佐倉 ……ほぅ?

曽我野 で、自分のタイミングで投稿できないんです

佐倉 え?

曽我野 さっきみたいに急にランダムに通知が来るんです。そんで通知が来
てから2分以内に写真撮って投稿しないとだめなんです

佐倉 だめなんですって言うのは?

曽我野 1日に通知が来る回数が減る。

佐倉 だからあんな慌てたのか

曽我野 はい。めっちゃシビア

佐倉 へぇーー!おもし……ろいか!?それ!?

曽我野 今絶対面白いね!の態勢だったのに

佐倉 めちゃくちゃ面倒じゃないの

曽我野 まぁ煩わしくはある

佐倉 それ授業中にきたらどうすんの

曽我野 無視ですね。撮るやつもいますけど

佐倉 えー俺の授業じゃ絶対許さないわ。え、なんなのそれは、なにがいい
の?

曽我野 えっまぁ、今?、を切り取る?

佐倉 あさぁ

曽我野 今度通知来たら一緒に撮りましょうよ

佐倉 え、やだよ

曽我野 限られた人にしか公開されませんから

佐倉 えーでもポーズとか、よくわかんないよー(可愛げなポーズ)

曽我野 やる気満々じゃないですか!?

佐倉 今度通知来たらな?

曽我野 絶対ですよ


佐倉 で?

曽我野 え?

佐倉  ん?

曽我野 ん?

佐倉  ん?

曽我野 んふふふふ

佐倉  ふふふー

曽我野 はっはっはは!

佐倉  (真顔になって)君が今日ここに来た理由、忘れてないよね

曽我野  あー……

佐倉  忘れてないでよね

曽我野 山手線ゲーム!

佐倉  おい

曽我野 古今東西ピクミーン!はいはい

佐倉  おい

曽我野 あお!

佐倉  (机を蹴る)

曽我野 っすー……

佐倉  そもそも三種類しかいねえだろ

曽我野 いや、今は、そのー岩ピクミンとかがいて……

佐倉 そういう話をしてるんじゃないんだよ

曽我野 はい

佐倉 書けたの?

曽我野 申し訳ありません!(土下座)

佐倉 (曽我野の鼻の穴に指を突っ込んでひっぱる)こいつ……!

曽我野 あー!すみません!すみません!やめて!

佐倉、やめる

曽我野 (泣きながら)やめて!中耳炎ですからぁ!僕中耳炎ですからぁ!耳と鼻はつながってますからぁ!鼻腔も耳の一部ですからぁ!あぁ……

佐倉 ……自分がやってることわかってる?

曽我野 (正座で座り込んで)まぁ、はいそうですね……どっちかっていうとやってないですけど

佐倉 え、ほんとに書けてないの?

曽我野 まぁ

佐倉 自信がなくて見せたくないとかではく

曽我野 まぁ

佐倉 書き直して書き直してとかではなく

曽我野 まぁ

佐倉 まぁ?

曽我野 ……まぁ?

佐倉 (殴ろうとする)

曽我野 あー!暴力反対暴力反対!

佐倉 締切は、いつだっけ?

曽我野 ……(聞き取れない)

佐倉 あ?

曽我野 17日です

佐倉 今日は、何日ですか?

曽我野 10日

佐倉 そうなのよね!もう10日なのよね!7月ね!締切6月ね!これ間に合ってないんだよね!

曽我野 本当にすみません!

佐倉 これ日にちだけ字面でみたら間に合ってるから!ほぼ一ヶ月経っちゃってますから!ミスリードできるぐらいの期間ですから!

曽我野 ミスリード

佐倉 自覚あるんですか。曽我野くん

曽我野 そーですね……自覚ーというか……

佐倉 自覚というか

曽我野 重い責任というか

佐倉 重い責任というか

曽我野 そうですね、甘え的なそのー

佐倉 十分わかってるじゃないですか。

曽我野 まぁそうですね、わかってる……

佐倉 はいですね。ならばなぜ書かない

曽我野 んー……

佐倉 この高校の特有の行事、懇親会。その三年生のクラス劇は伝統なんだ
よ?

曽我野 はい、わかってます

佐倉 みんなチェーホフとか井上ひさしとかやってる中

曽我野 アハ、とあるクラスは時報に合わせて踊ったりね

佐倉 うちのクラスはオリジナルの劇なわけ。それの本番は夏休み明けすぐなわけ。稽古、もとい準備は夏休み中に終わらせたいわけ。で、君、その大元の台本が出来てないとはどういうことなんですか!?

曽我野 わからないです!謎です謎。怖い!

佐倉 みんな、お前の台本待ってるんだよ!

曽我野 ……

佐倉 ……はぁ

曽我野 ははは……

佐倉 何ページ?

曽我野 へ?

佐倉 現状何ページなの

曽我野 (PCを開いて)んーまぁそのー

佐倉 (PCを取り上げて)

曽我野 あっ

佐倉 5ページ

二人とも頭抱える

曽我野、帰る準備をし始める

佐倉 (頭を抱えながら)何してんの?

曽我野 帰ります

佐倉 帰る?

曽我野 だって書けてないですし。このままではみんなに迷惑なので。家帰っていち早く書きます。失礼しました。今日はすみませんでした。では

佐倉 待てよ

曽我野 はい?

佐倉 帰すわけねえだろ

曽我野 えっ

佐倉 こんなに猶予あって、5ページしか書いてない人間を誰が家に帰すんだ?逆に

曽我野 え、あ、いや、でも、帰って書くー

佐倉 私が見てます

曽我野 ……

佐倉 私が、見てます

曽我野 携帯……

佐倉 携帯ショップは10時までやってます。私は8時の予約です。

曽我野 ……書きます

佐倉 (ニヤニヤして)話が早いねえ

曽我野 うわぁー

佐倉 とりあえずひと段落するまで帰らせないから

曽我野 だからこの部屋なんですね

佐倉 え?

曽我野 この第二面談室、独房って言われてるんですよ

佐倉 らしいね

曽我野 らしいねって(PCを操作し始める)

窓の外を見つめる佐倉

照明徐々に落ちている

うなる曽我野

曽我野 一回読んでみませんか?

佐倉  ん?一緒に?

曽我野 はい。そうするとアイデアが自然に湧き出すかもしれない。こういう戯曲というのは声に出すのが大事なんです

佐倉 お前、時間稼ぎたいだけだろ

曽我野 どーん

佐倉 ったく魂胆が明け透けなんだよ……ま、でも確かに必要かもな……

曽我野 そうでしょ!僕の考えに共鳴してくれましたね!

佐倉 こいつの書く話がとんでもなくつまらない可能性がまだあるからな

曽我野 敵でしたー

佐倉 一旦やってみて

曽我野 はい……えっ俺一人!?

佐倉 だって俺読んだことないんだもん

曽我野 はいじゃあ、いきまーす。このおぼろげサナトリウムの舞台は、
2054年の戦争中の日本です。反乱軍として山奥のでっかい廃病院をアジトとする10代の少年少女たちの群像劇なわけですが、このシーンは始まりの始まり。独白シーンです。……じゃあ電気消してください。

佐倉 はい……いきまーす(電気を消す)

暗転

曽我野 せーのでこの真ん中だけつけてください

曽我野 せーの

明転

曽我野のみにスポットライト

曽我野 無限へと続くような沈黙がこの場を支配する。3秒に1回僕は振り返る。宇宙の広さにも似た暗闇がこの場を支配する。(よろめいて)何回目かの爆発だ。人が死ぬ音がする。プリズムの音だ。のけぞる人々の叫び声が聞こえる。その叫びの震えなのか……僕らはまた立ち上がる。このサナトリウムで。時代の黙示録を刮目するために!

舞台はっきりと明転

静止する曽我野

佐倉 ……はいちょっといったんつけました

曽我野 えっ、はい

佐倉 あ、もういいです

曽我野 あぁ、はい

佐倉 座って……うーん……その、

曽我野 はい

佐倉 ……面白くないですねぇ

曽我野 ……あー

佐倉 この設定何

曽我野 なんというか……未来ー

佐倉 そうだね、未来なのはわかります。これは未来の何

曽我野 終末戦争

佐倉 伝わらねーすっごい伝わってこなかったな

曽我野 まぁ伝わらないように書いてますからね

佐倉 は?

曽我野 最初は謎めいた感じで始まりたいじゃないですか。わくわくしませ
んか、このなんの生産性も担保してない単語の羅列!

佐倉 まぁ、いくらまだ最初って言ってもさぁ……

曽我野 いやしかもね!SFっぽいのにしようって言ったのはクラスのみんな
じゃないですか!

佐倉 まぁーそうだけどさー

曽我野 その時から嫌な予感してたんですけどねー

佐倉 なんの?

曽我野 俺書けないんじゃないかなぁーって

佐倉 マジで、こいつ

曽我野 実際書けてないわけだし

佐倉 登場人物もひどいなこれ

曽我野 ええ?

佐倉 戸張サイローJr.(19歳)未来の捜査員。本作「おぼろげサナトリウ
ム」の主人公。
ミセス・ジェシカ(18歳)時々出る英語が鼻につく帰国子女。本作のヒロイン。
タイガー小野(21歳)なんか、なんかの捜査官。その他諸々十人~二十人ぐらい?とかの規模でわーきゃー。とやれればありがたい。……なんだこれは!

曽我野 まだ考え中なんです!

佐倉 なんだ。なんか、なんかの捜査員って

曽我野 考えながら書いてるんで!だから登場人物にこう、思考が縛られな
いように、あえてぼかしてるというか……おぼろげにというか

佐倉 そもそもこの「おぼろげサナトリウム」ってタイトルがほんとに内容と対応してるのか甚だ疑問ですがね!

曽我野 まぁ……それは、はい……すみません

佐倉 この戸張サイローJr.はだれがやるの?

曽我野 悟です

佐倉 室岡?あーまぁいいかそれでも。ミセスジェシカは?

曽我野 夏でしょうそりゃ

佐倉 なるほど。帰国子女の役だから、か。

曽我野 はい

佐倉 え、あれは?お前が唯一希望した小道具の、バケツは?バケツはどこ
に出てくんの?
一応廊下に用意したよ

曽我野 あ、この先ですね

佐倉 この先?どこ

曽我野 ここです

佐倉 ここか

曽我野 ちょっとやってみます?

佐倉 楽しくなってるじゃん

曽我野 まぁ?はい?先生これ持ったままでいいんでちょっとこのジェシカ
の役やってもらえませんか

佐倉 ええ……うん

曽我野 よし!はいじゃあいきまーす!よーいはい!

曽我野 (はけて、バケツを両手に持ちながら)゛あー

曽我野 ゛うー

佐倉 ……言葉が通じないのね……うっうっ

曽我野 (バケツを丁寧に床に置き)面倒ごとが増えたようだなぁ!(佐倉を腕に抱えて)大丈夫だったか?

佐倉 田中くん!杉崎さんが!杉崎さんが!ああああああ

曽我野 杉崎!正気を保て!(腰に手を当てる)

佐倉 やめて!……殺すの?Will you kill him?

曽我野 殺しはしない。だが杉崎の脳はルシオ型の孵化窒素麻薬に犯されている。いつトリコロン現象を引き起こしてしだして俺らを殺し始めるかわからない!せめて足首を、右の足首をこの拳銃で

佐倉 Right or left!?

曽我野 どっちだっていいんだぜ!

銃声

佐倉 田中くん!!

曽我野 ……誰かが鬼にならないといけない。誰かが罰を受けないといけない。誰かがマリアにならなきゃいけない

佐倉 ……

曽我野 このサナトリウムも、安全じゃなくなってきたな

佐倉 そうだね

爆発音

曽我野 またプリズムの音か……。水素濃度がだんだん低くなってるな

佐倉 (曽我野のセリフに被せて)あ、もういいですね

曽我野 おい、だれか、杉崎の世話をしてやってやれ

佐倉 あのー

曽我野 ここも酸素が薄い……

佐倉 おい!

曽我野 えっ、はい

佐倉 もういいです

二人とも椅子に座る

佐倉 やっぱなんかずっと全体的に臭いな

曽我野 あー

佐倉 バケツは、あれ何

曽我野 ……メタファー?

佐倉 なんのだよ

曽我野 前向きになれない的な……

佐倉 バケツが?このバケツが?(蹴ろうとする)

曽我野 ああ!水が!

佐倉 ええ!?

曽我野 もー。そういうとこある

佐倉 マジに入れる必要ある!?

曽我野 そうじゃないと意味が

佐倉 うーん。あとあれかもな

曽我野 なんですか

佐倉 お前、才能ないかも

曽我野 はっきり言い過ぎじゃないですか!?ええ!?

佐倉 なんか面白くないんだよなずっと

曽我野 ええーー

佐倉 なんなんだろう

曽我野 なんでなんでしょう

佐倉 まぁいいや、この際面白くなくてもいいから早く書き上げろ

曽我野 ……集中します

曽我野、ノートを出して見たり

佐倉、それを覗こうとしてみたり

スマホ見るなど、窓を見て、手が止まる曽我野


佐倉 ……書きたくないの?

曽我野 ……はい?

佐倉 書けないんじゃなくて書きたくないの?今の曽我野を見てるとそんな感じするけど

曽我野 ……

佐倉 何か理由があるの、か?

曽我野 ……強いていうなら

佐倉 うん

曽我野 夏

佐倉 ……暑さで頭が働かないってか?

曽我野 季節の話じゃなくて

佐倉 ん?

曽我野 ……何があったんですか。その、宮代夏。

佐倉 ……何がというのは

曽我野 なんですか。来てないじゃないですか学校に。結構

佐倉 結構、ね

曽我野 その一応、夏はヒロイン配役なので、なんつーか、こう、学校来てないとまずいんじゃないかなぁ……って

佐倉 あー


いくばくかの沈黙。

佐倉 こないださー(間)マックのポテトの塩っ気がなくてさ店員に言ったんだよ。そしたらさ、その店員さんがさ、浅田まいに似ててさ、お姉ちゃんの方、

曽我野 いや無理じゃね!?これは流石にいけませんよ!?

佐倉 な、何が

曽我野 はぐらかせてない

佐倉 かぐや様は告らせたい?

曽我野 言ってない

佐倉 そうか

曽我野 クラス、っていうか学年中のトレンドっすよ?夏、宮代夏の実質登校拒否のこの現状。3週間っすよ。真偽不明の噂がもういっぱい。

佐倉 ……たとえば?

曽我野 例えば?

佐倉 たとえば、どんな噂が立ってるの

曽我野 え、なんか……病気なんじゃないのーとか……いじめに遭っていたんじゃないかとか

佐倉 なるほどねー

曽我野 いや悪趣味な噂ですよ。ですけど。気になるじゃないですか

佐倉 気になるね

曽我野 しかも夏はこの劇のヒロインだし

佐倉 まだ書けてないけどね

曽我野 稽古とかに参加できる状況なんすか?今。夏は。つーかなんで学校来てないんですか!あんな、その、陽キャの!みんなからくそ好かれてて、非の打ちどころない、夏が!なんかおかしいですよ!

佐倉 やっぱ気になっちゃう

曽我野 ……正直。だって、そういうキャラじゃないじゃないですか

佐倉 まぁね……まぁまぁまぁまぁ、まがりなりにも私は君たちのクラスの担任だよ。こんなんでもね。だから宮代のこの欠席がなんでなのか、何が原因なのか私は知ってる。私は

曽我野 はあ

佐倉 で、曽我野。俺はお前を信用している。お前は人柄もいいし、何より誠実でまっすぐだ。

曽我野 ありがとうございます

佐倉 (指で手まねき)

曽我野 ん?

佐倉 (手招きして耳を口の方へという回りくどく手数の多いジェスチャー)

曽我野 (耳を当てる)

佐倉 ……あーー!

曽我野 あーー!あーびっくりしたあーー!

佐倉 いうわけねえだろバカ!バーカ。ったく騙されやがって

曽我野 ええ……?

佐倉 んなこと気にしてねえで早く書け

曽我野 ……

佐倉 書けよ

曽我野 (席に着く)

佐倉 ったく

曽我野 (ため息)

佐倉 そんなに知りたいの

曽我野 知りたいですよ!だって、気になりますもん!

佐倉 さっきからそればっかりだな!

曽我野 ばっかりですよ!

佐倉 一回その話題から頭離れようか。はいイキスッテーはいてー

曽我野 ああ!書きたくない!書きたくない!ヒロイン不在の演劇書きたく
ない!

佐倉 ガキだなマジで。最悪代役立てればいいだろ!

曽我野 そういうことじゃないでしょ!夏だから。……夏だから、帰国子女のハーフっていう設定ができるわけでしょ?そのために考えてた設定全部無しになりますよ

佐倉 まだ書いてないだろ

曽我野 そうなんですけど。そうなんですけど。どうなのかなって

佐倉 どうなのかなじゃない。お前は今そんなこと言ってる立場じゃない。書け

曽我野 (寝そべって)あーかけないなーかけないなー夏、どこいったのかなぁー!

佐倉 ……めんどくさ

曽我野 (足をじたばたさせる)

佐倉 ……(ため息)じゃあさお前、宮代がなんで学校きてないのか分かったら書けるのか?

曽我野 もちろん

佐倉 ほんとだな?

曽我野 この僕が嘘をつくとでも?

佐倉 じゃあ教えるよ

曽我野 (上半身を上げる)……ほんとですか

曽我野 えーーっ!

佐倉 だってこのままこれ時間の無駄だもん

曽我野 確かに

佐倉 確かにってお前が言うな

曽我野 すみません

佐倉 (携帯を降り始める)

曽我野 あっ、スマホを使おうとしているぞ。あっ、つくかな、あっついたついた

佐倉 (画面を曽我野に)

曽我野 ……サマ?

佐倉 サマ。半角カタカナで、サマ

曽我野 これTwitterですか

佐倉 Xね

曽我野 これTwitterのアカウントですよね

佐倉 Xね

曽我野 これがなんなんですか

佐倉 宮代の

曽我野 は?

佐倉 宮代夏のXアカウント

曽我野 へぇー……えええ!?

佐倉 びっくりした?

曽我野 びっくりというか、まぁ。はい。えっ、ほんとに?

佐倉 他の先生からの垂れ込み。スクショが送られてきて間違いなくだよ多分。加工してるけど自撮り。ほら、あいつでしょ

曽我野 あーそうか?ええ?(自分のスマホでも検索する)

佐倉 何が疑問

曽我野 4月のツイート

佐倉 ポストね

曽我野 隆起している韓国酒、もっこり。

佐倉  まぁそういう……

曽我野 いやいやいや!

佐倉  ええ?

曽我野 夏がこんなこと言います?ええ?

佐倉  言うだろ。「隆起している韓国酒、もっこり」は。

曽我野 言わないよ言わない。体育祭でバチバチメイクしてきて、教頭と流血騒ぎの喧嘩したティーンガールはこんなこと言わない!

佐倉  まぁ僕も。あ、こんな感じなんだ。こういうユーモアなんだ

曽我野 しかもこのもっこりツイート固定してますよ

佐倉  あははは

曽我野 ……えっ

佐倉  なに?

曽我野 これだけですか……?

佐倉  まぁ、そうね

曽我野 ええー!

佐倉  なんだよ

曽我野 ええなんかしょぼい

佐倉  なんだお前!

曽我野 なんかもっと、核心に迫りそうな情報が欲しかったなーー

佐倉  わがままがよお

曽我野 もっこりはちょっと

佐倉  はい。僕らが知ってる情報はこれだけ。諦めて20時まで書く!
曽我野 (画面を見つめている)

佐倉 書く!

曽我野 日記?

佐倉  何

曽我野 日記

佐倉  なに?

曽我野 こういう

佐倉  「7月7日  雨降っててやな感じ。帰るべき場所。叫ぶわけ。ベットの上の核戦争」

曽我野 「7月6日  ところてんうまい。みっちーは登校拒否。パパも私たちを拒否」

佐倉 ……

曽我野 これすごい。数十件のツイートがスレッド形式で連なってる。どういうことすかねどういうわけ

佐倉 ……

曽我野 先生?

佐倉  ん?

曽我野 ……なにか

佐倉  いや知らない。

曽我野 ……ん、先生はこの「日記」の存在は知らなかった

佐倉 そう、だね。スクショだけしか見てない 

曽我野 ……

暗転

♪Cornelius「Brazil」

曽我野 (朗読内容が後方に投影される)
7月5日  叶う。叶わない。祈る。祈らない。
7月4日  帰らなきゃかもだって。パパはみちのほっぺた連打する
7月2日  だめかも
6月23日  蝉の声聞こえる雑木林。いま、お腹がなる。みたいテレビあったけな。積み上げた信頼
6月20日 こっそり逃げる人。私w。後ろにはみち。みちみちみちみち。
6月19日 自転車にのってミスを巻き戻そうと思う。帰るところを。場所を探す。
6月10日 私の家に来る 。ひこまろみたいなアンソニーウォンみたいな。そういうおじさん
6月8日  ちょっといねくなるかもごめんぞー
6月7日 お父さんは押し入れにこもっている。そうしないと、映画館潰れちゃうから。外晴れてるけどなんか雨漏りしてるみたい。
6月6日 夏の気配かんぞる
6月5日 ツバメの巣!今しか会えず!
6月4日 おばあちゃんは私のアイデンティティじゃないよ。

明転
 

曽我野 ……なんすかねこれ

佐倉 ……なんだろ、ね

曽我野 (同時に)先生

佐倉 (同時に)おま(えさ)

曽我野 いいっすよ

佐倉  いやどうぞ先に

曽我野 ……やっぱ何かあったんじゃないのかって

佐倉  何か

曽我野 その、夏に、危ないっていうかあれですけど、そういう……

佐倉  ……そうかな

曽我野 あるでしょ!やっぱあるでしょ!この文章!何かないとおかしくないですか!?

佐倉  ちょっと思ってたより深刻みたいだわ

曽我野 深刻って先生。……本当に何も知らないんですか……?

佐倉 ……(聞き取れない)

曽我野 え?

佐倉 (知ってると知らないよの中間ぐらいの発話)

曽我野 どっちなんですか!

曽我野 あれですか、夏は、もうもしかして……死んで……

佐倉  いやいやいや死んでない死んでない!死んでない、いやわかんない

曽我野 わかんない?

佐倉  わかんない?

曽我野 いや今そう言いましたよね!

佐倉  言ってないよ!

曽我野 絶対言いましたよ!

佐倉  いいーったね。言った。ごめん

曽我野 わかんないってことは、死んでる可能性もある、そのような状況にあるって先生知ってるってことですよね!

佐倉  (ふっ、)詭弁だね

曽我野 いやいやいや

佐倉  だからわかんないって……

曽我野 ええ?

佐倉  だからわかんないって!わかんないって!わかんないでしょ!突然、突然空からモルカーふってきて!巨大モルカー降ってきて!圧死するかもじゃん!圧力で!いくらそれが柔らかい生物だとしても!ふわふわだとしても!

曽我野 何を言ってるんですか?

佐倉  わかんねえよ俺も!

曽我野 え?

佐倉  (知らないと知ってるよの中間あたりの発生)

曽我野 どっちですかそれは!?

佐倉  知らないよ!

曽我野 知らないって……

佐倉 この文章の意味は100パーは汲み取れないですよ


 
BGM 「テーマオブ oboroge」

照明少し暗くなり 少し青

曽我野 確か、夏は6月のあたまぐらいから学校休みがちになりました
「6月10日 私の家に来る 。ひこまろみたいな。アンソニーウォンみたいな。そういうおじさん」。夏の家にくるおじさん…彦麻呂ってことは太ってるってことですかね……。

佐倉 んん?

曽我野 「6月7日 お父さんは押し入れにこもっている。そうしないと、映画館潰れちゃうから」映画館ってあの駅前の映画館のことですかね……

佐倉 ああそうかもしれないな

曽我野 「6月4日 おばあちゃんは私のアイデンティティじゃないよ。」
……これどう言う意味だろう……夏のおばあちゃん……

佐倉 ……外国の人だよ

曽我野 え?

佐倉 外国の人。うん、ちょっともう、言うわ。ごめん、宮代のことちょっと知ってる

曽我野 知ってる?

佐倉 なんて言うの。家庭の事情的なこと。まぁ一応担任ですから。あんまこういうの良くないんだけど、そう思うんだけど言うわ

曽我野 ……

佐倉 宮代のおばあちゃんが外国の人だってことは知ってる?

曽我野 あんまり、知らなかったです

佐倉 (笑いながら)あんまり?
まぁ外国人、じゃん。ま、外国人というか、言い方を変えれば、いま、この街を騒がしてる、移民、なの。まぁそうなの

曽我野 移民

佐倉 まぁこの辺に多い人種の人の第一世代。宮代夏のおばあさまが。
それってさ駅前でデモやってる市民団体のおっさん、ほらお前が持ってきたビラの。そいつらからしたら排除すべき対象なわけじゃん。

佐倉 で、さ。あいつのお父さんは建設会社経営してるんだよ……駅前の映画館。あれも宮代のお父さんの会社が関わってる。それがあんまよくなかったらしいんだよ。

曽我野 何が

佐倉 コンクリートが。コンクリートがなんか基準を満たしてなかったんだって。まぁそれはお父さんが純日本人じゃないからそこの会社にあまり助成金が回って来なかったらしいけど……。
不当に住みついてる移民がやってる会社が不正な建設をしていた……。……それって出ていってほしい人にとっては恰好のネタなわけだろ。当然宮代のお父さんにいろいろいくわな。事実いろいろされたらしい。いたずら電話、家への落書き、怪文書。しつこくな。
それで、夏はその後処理?に追われて……
まず弟の面倒だろ、お母さんがいないから母親代わりだ。それで、まぁなんつーの気を病んでしまったお父さんの代わりにバイト掛け持ちしたり……俺になにかできることがあったのかな

曽我野 ……じゃあこの彦麻呂みたいなおじさんって……

佐倉 おそらく市民団体のおっさんだろうな

曽我野 ……あ

佐倉 ……なに?

曽我野 「6月4日 おばあちゃんは私のアイデンティティじゃないよ。」

佐倉 これが

曽我野 これ……俺に言ってるんですかね

佐倉 なんで

曽我野 いや絶対そうだ俺に言ってるんだいやそうだいやマジで

佐倉 落ち着けって

曽我野 落ち着いてられるっかてばよ!

佐倉 ……お前が、宮代夏に、おぼろげサナトリウムで与えた役は

曽我野 ……ミセス・ジェシカ 時々出る英語が鼻につく帰国子女

佐倉 ……「6月4日 おばあちゃんは私のアイデンティティじゃないよ。」

曽我野、スマホを操作して

曽我野 ……やっぱりそうだ

佐倉 何が

曽我野 6月4日。僕がキャスト表を配った。クラスラインに載せました。
……それを見て、夏は……

はっきり明転

曽我野 いや、俺が悪いじゃん

佐倉  曽我野

曽我野 いや俺が悪いっすよね!?どう考えても。完璧に

佐倉  いやそんなことないって

曽我野 なくはないですよね

佐倉  まぁそうだな……

曽我野 俺のせいなんだ。俺のせいなんだ

佐倉  全部じゃないだろ。お前は、知らなかったんだろ?

曽我野 知らなかったですけど……僕の書いたもので、一人の人が……

佐倉  よし

曽我野 (顔を上げる)

佐倉  夏は出さない方向で

曽我野 え

佐倉  お前、台本書き直そう。もうこの際おぼろげじゃなくていい気もしてきたな

曽我野 え、ちょっとまってください

佐倉  夏はこの劇に出しません!

曽我  待ってください!

佐倉  なんだよ

曽我野 それは、違くないですか……?

佐倉  何が

曽我野 いや、なんで

佐倉  思ってたより深刻みたいだわ

曽我野 深刻って先生

佐倉  宮代夏はおぼろげサナトリウムには出さない方向で

曽我野 いや、まってください!

佐倉  なんだよなんなんだよ。お前、あのツイート、正直まともじゃな……変でしょ。あれじゃ学校なんか当分来ないよ

曽我野 ツイートじゃなくてポストじゃないんですか

佐倉  んなことはどうでもいいんだよ。とにかくこの先出演できないかも
しれない役者をヒロインにしても仕方ないでしょ?だから今回は、なしで。宮代夏の出演はなしで

曽我野 納得できません

佐倉  まだほとんど書いてないから変更は楽だね

曽我野 先生!

佐倉  んんもう!なんだよ!うるせえな……あ、ごめん……

曽我野 うるせえな……?

佐倉  いやごめん

曽我野 うるさいなとかいうなよ!

SE ビーリアル 通知音

少し迷いを見せ、可愛いポーズで写真を撮る二人

佐倉  さ、書き直すんだ!

曽我野 可愛いポーズしてましたね

佐倉  あ?

曽我野 可愛いぽーずしてましたねえ(佐倉の真似する)

佐倉  やめろ!

曽我野 (繰り返す)


取っ組み合いになる二人


佐倉  やめ、よう!生産性が、ない

曽我野 夏を出さないのは違うと思います

佐倉  違くないだろ!合理的判断だろ

曽我野 嘘じゃないですか。そんなの。うそじゃないですか。夏を、いないものとして扱うんですか。僕は物書きの端くれとしてでもそういうことはしたくない

佐倉  お前のせいかもしれないのに?

佐倉 いや、ごめん。言いすぎた。
……いや、そういうもんだよ。曽我野くん。そういうもの。
お前がミュータントシックスを見た映画館も、映画館も、つながってたろ?
コンクリート打ちっぱなしの映画館は偉い人のズルの上に建てられて
そのせいで今も泣いてる人がいる。その映画館でお前は笑ってる。
全部繋がってる。
(間)だからさ、しょうがないじゃん。それよりやるべきこと俺はあると思うよ。どうやっても本番は来るわけだし。全てに気配って、誰もが笑顔になれるものなんて作れるわけないんだからさ。妥協も、しなきゃ。

曽我野 ……

佐倉 ……お前さ、嘘ついたろ

曽我野 嘘?

佐倉 さっき夏に関して、夏のこの状況に関して噂がいっぱいって言ったろ。お前が出した噂の例。病気なんじゃないのか、いじめなんじゃないのか。違うよ。お前ら男子は駅前のガールズバーで働いてるんじゃないのかとか、フィリピンパブで働いてるんじゃないのかとか。そういうことを噂してたんだろ。

曽我野 ……

佐倉  まぁいいけどさ。宮代が女だからか。宮代がクオーターだから

曽我野 やめてください

佐倉  やめます。やめますけど、お前らのそういうのがさ、夏をさ、閉じ込めたんだよ。お前に、彼女へ言葉を綴る権利はあるのか?

曽我野 ……ありますよ

佐倉  ハハハ、あるのか


    
佐倉  え、曽我野 

曽我野、水が入ったバケツを机の上に。そのままPCをそのなかに入れる

佐倉  えええええ!!

佐倉  ええええ!!

曽我野、もっと、もっと奥へと押し込める

佐倉  お前、正気か!?

曽我野 ……確かに僕の言葉が、悲しませたかもしれない。けど今この文章見ても僕が書いたとは思えないんです。いや違くて。言葉が自分じゃなくなるっていうか。自分の意識より先をすり抜けて放たれることば。いあや、いやすみません!分かんないです!分かんないです!
今回は本当に取り返しのつかないことをしたと思ってます。けど。また、書かせてください!体が追い越すんです!わけは後で考えます!
だから書かせてください!今の俺が俺でなくなる前に!(お辞儀する)

佐倉  まぁ、え、まぁ、うんうんわかった。けどさ、流石にパソコンは……修理費とか大丈夫なの!?

曽我野 あ、やば

佐倉  バカじゃん

曽我野 あ、先生。スマホ出してください

佐倉  えぇ?(スマホを出す)

曽我野 先生に台本のデータおくりましたよね

佐倉  まぁ送られてきたけど

曽我野(スマホを奪い取って踏みつけたり、へし折ったり)

佐倉 えええええええ!?ありえないありえない!!

曽我野 ……

佐倉 (スマホを拾って)ええ……どうして。すいません、なんでですかぁ……?

曽我野 おぼろげサナトリウムの痕跡を消したくて

佐倉 それは逃げじゃないのか!?お前が傷つけたかもしれない証拠を無く
しただけでしょ!

曽我野 もうわかんないっす!けどなんかこうするしかないと思って!

曽我野 窓を開ける
ツバメが入ってくる
わたわたする佐倉
窓の外を見つめる曽我野

曽我野 ツバメを逃すマイム

佐倉、窓を閉める

息切れする二人

曽我野 (何かに気づき、スマホをポケットから取り出す)

佐倉 おかしくない!?お前はスマホ無事なのおかしくない!?エゴ……すぎない

曽我野 ビーリアル

佐倉 ええ?もう撮らないよ

曽我野 いや違います!一個、ルール!伝え忘れてました!自分が投稿すると友達の投稿も見れるようになるんです。それで通知がくるんです!

佐倉 それが?

曽我野 夏が!投稿!

佐倉 ええ!?

スマホを見る二人

佐倉 海……?

曽我野 夏は、生きてるんだ!少なくとも2分前には!!

佐倉 ……一人なのか……?

曽我野 はああ……よかった……

佐倉 机の上のバケツを床に置いて

佐倉 ……書けよ。

曽我野 え?

佐倉 んー……なんでお前に書かせたかったか、わか、る? いや、とりあえず書いてみて。わけは後からついてくるんで、しょ

曽我野 先生!!

佐倉 いやこれはあれだから、宮代の生存確認ができたからっていうか……

曽我野 ありがとうございます!

佐倉 あとお前、スマホ壊したのは絶対許さない!!

曽我野 すいません!

佐倉 下取り額2000円ぐらいだったのに

曽我野 見積もってたんだ……ん、(ポケットから羽を2本取り出し)

佐倉 あ、二千円……

曽我野 ……(渡す)(机の引き出しから右翼のチラシを取り出し、その裏にボール
ペンで何やら書き始める)

佐倉 おぼろげ、サナトリウム。まぁチラシ裏にでも書くしかないわな

曽我野 全部書き換えます。俺のプライドをかけて

佐倉 ……

曽我野 夏が主人公の話

佐倉 クラスのみんなはもうちょい時間稼いどく

曽我野 いいんですか

佐倉 別に、いいよ。これでも一応担任ですから。まぁ大人の役目っつーか
   どういう話になるわけ?

曽我野 どうしましょう

佐倉 出たよ

曽我野 なんかアイデアを……

佐倉 なんか学校全体がロボット兵器になるとかいいよね。ロマン

曽我野 それは、ミュータントシックスじゃないですか

♪坂本慎太郎 「まともがわからない」

佐倉 そうか……たとえばこんなのどうだ、近未来西部劇

曽我野 面白そう!

佐倉 ええ?まじ

曽我野 僕もいいの思いついたんです

とか。徐々に二人の会話、サイレントに。

ゆっくり暗転

二人の会話ずっと続いていて。それを感じさせ。

おわり


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