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英詩:クラーク・アシュトン・スミス『インディアン・サマー』

作. クラーク・アシュトン・スミス
訳. 出雲 幽
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インディアン・サマー

定めしこの静粛な日々は追懐せし日々にともないしもの、
この魔道による太陽は我々がかつてその下を歩いた
太陽の呼び起こされしもの、
斯くは私が彼方の紅蓮の桃の木を
見しとき、其処には
大気の藍色が其れらへとたれ込める、
私が今日、思い知るこの愛により
如何なわけか過ぎ去りし光輝と陰影は蘇える、
消失せし伝えることのできぬ情感と
儚くも失われた色彩は
昔日の秋にあなたを慕った私の愛。

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Indian Summer

Surely these muted days are one with days remembered,
This necromantic sun is an evocation
Of suns whereunder we have walked before:
For when I see the peach-trees
Flame-colored and far off
Where the blueness of the air has crept among them,
The love I feel today
Somehow resumes the bygone flames and shadows,
The vanished incommunicable moods
And fugitive lost colors
Of the love I felt for you in autumns past.

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indian summer ・・・アメリカで晩秋から初冬にかけての穏やかな暖かい日々を指す。

晩秋のしじまとともに「私」に去来するのはありし日の郷愁。短い一文と語句の反復が瞑想的な雰囲気を次第に高めていく。太陽の光臨、桃の木の緋色、大気の藍色、彼岸からの鮮烈なるヴィジョンは「私」の記憶を緩やかに呼びさます。
移ろいながらも循環する自然の営為は、過去と現在をつなぐ円環。「私」がかつていだき、忘却の澱に沈んでいた情感は、今ふたたび取り戻される。
不可知な宇宙の神秘と彼方からの幻影を追い求めた詩人による作品。

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Aspiration by Clark Ashton Smith

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